noncolo
Abstract #4122
局所進行胃癌に対する術前S-1+irinotecan療法の多施設共同臨床第II相試験
Results of a phase II multicenter study of neoadjuvant S-1 and irinotecan in patients with locally advanced gastric cancer.
Masanori Terashima, et al.
photo
背景と目的

 進行再発胃癌に対するS-1+CPT-11療法 (IRI-S) の臨床第III相試験では、S-1単独群に対して生存期間の延長は得られなかったが、抗腫瘍効果は有意に優れており、安全性に関しても問題はなかった1)。そこで、今回局所進行胃癌に対する術前化学療法 (NAC) としてのIRI-Sの効果を検証する目的で多施設共同臨床第II相試験を実施した。併せて、術前生検標本と手術時摘出標本を用いて遺伝子発現解析を実施し、効果予測マーカーに関する探索的研究も実施した。

1)Tsuburaya A, et al.: Proc Am Soc Oncol. 27(15S), 2009: 4544

対象と方法

 対象はcT3-4, Nx, M0の局所進行胃癌とし、術前にTS-1 80mg/m2 day1-21、CPT-11 80mg/m2 day1、15を2コース施行し、抗腫瘍効果を判定した後に手術を施行、術後さらに1年間S-1 80mg/m2を投与した。
 一次エンドポイントは腫瘍縮小効果、二次エンドポイントは組織学的治療効果、overall survival (OS) 、progression-free survival (PFS) 、術後合併症有害事象、治癒切除割合とした。治療前の生検標本と手術時切除標本を用いて、Taqman low density arrayにより93遺伝子の発現について解析した。

結果

 適格例38例中35例において2コースの化学療法が完遂された。RECISTで評価可能な27例中PR:16例 (59%) 、SD:9例 (33%) であった。切除術が施行された29例中、根治切除は18例 (62%) で可能であり、組織学的効果は13例/30例 (43%) でgrade 1b以上の効果が得られ、うち2例で病理学的CRが得られた。

Tumor response(RECIST)/Histological response

 主なgrade 3以上の毒性としては好中球減少5例 (13%) 、食欲不振4例 (10%) などが認められたが、有熱性の好中球減少症は1例も認められず、治療関連死も認めなかった。
 生検標本の遺伝子発現解析では、UMPS、SLC29A2 、TDP1の高発現及び CDKN1Aの低発現と抗腫瘍効果に有意な関連を認めたが、false discovery rate (FDR) が88%と高く偽陽性の可能性が高かった。同様に化学療法前後の遺伝子発現の差に関する検討では、抗腫瘍効果の高い症例において有意にMYBの発現低下が認められた (FDR=1%) 。

結論

 局所進行胃癌に対する術前IRI-S療法は、安全性、組織学的効果も高く、NACとして有用と思われた。効果予測に関するバイオマーカーに関してはさらなる検討が必要である。

コメント

 IRI-S療法は、我が国で実施された進行再発胃癌に対するS-1単独を対照とした臨床第III相試験において、生存期間の優越性を証明する事ができなかった1)。しかし、腫瘍の縮小率に関しては標準治療とされているS-1+CDDP療法(SP)とほぼ同等であり、毒性も軽微であることなどから、今回術前化学療法への応用に関する臨床第II相試験が実施された。症例集積が不良であり、予定の65例に対して39例しか登録されずに試験が終了している。抗腫瘍効果に関してはRECIST判定、組織学的効果ともにこれまで報告されているSP療法と同等であった。しかも組織学的CRが2例に得られており、有効性に関しては遜色が無いことが確認された。また、安全性も高く、外来通院で十分に治療の実施が可能であった。遺伝子発現解析に関しては、明らかに検出力不足であり、今回解析した遺伝子群を用いた検討では300例以上の症例が必要と推定された。
 胃癌に対するNACでは、組織学的効果が生存に対するsurrogateとして有用であることが示唆されている。今後、分子標的薬剤を含めて組織学的効果が高いレジメンによるNACの検証が必要と思われる。効果予測を目的とした遺伝子発現解析は、コストや解析の繁雑さなど、いくつか問題があるものも、今後さらに検討されていくべき課題であると思われる。

(レポート・コメント:寺島 雅典)

1)Tsuburaya A, et al.: Proc Am Soc Oncol. 27(15S), 2009: 4544

このサイトは医療関係者の方々を対象に作成しています。必ずご利用規約に同意の上、ご利用ください。記事内容で取り上げた薬剤の効能・効果および用法・用量には、日本国内で承認されている内容と異なるものが、多分に含まれていますのでご注意ください。