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Abstract #4020
上部進行胃癌に対する胃全摘術における脾合併切除の意義に関する無作為化比較試験 (JCOG 0110試験) : 術後合併症率、手術時間、出血量の検討
Randomized controlled trial to evaluate splenectomy in total gastrectomy for proximal gastric carcinoma (JCOG 0110) : Analyzes of operative morbidity, operation time, and blood loss.
Takeshi Sano, et al.
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 上部胃癌の20-30%に転移がみられる脾門部リンパ節 (#10) の完全郭清には、脾摘を行う必要がある。しかし、欧州で行われた胃切除術の臨床試験では、脾合併切除は手術合併症や死亡の重要な危険因子となっており、脾合併切除を施行した症例の予後も不良である。
 一方、本邦では脾摘が手術死亡率を増加させるとは認識されていない。そこで、上部胃癌に対する胃全摘術における脾合併切除の安全性と有用性を検証するために実施されたのがJCOG 0110試験である。今回は安全性についての報告が行われた。

 本試験の対象は、T2-4/N0-2/M0の上部胃癌で大彎線上に病変が存在しない腺癌である。腹腔洗浄細胞診陰性を確認した後、脾合併切除群 (膵温存胃全摘術D2) と脾温存群 (胃全摘術D2、膵脱転なし) の2群に無作為に割り付けた。
 本試験は、OSに関し、脾温存術の脾合併切除術に対する非劣性を検証することを目的にデザインされた。ハザード比1.21を非劣性の限界値に設定した結果、必要登録数は500症例となった。
 一次エンドポイントはoverall survival (OS) 、二次エンドポイントは手術合併症率、手術時間、出血量とした。
 また、膵液瘻形成の診断はJCOGの術中・術後合併症判定基準に基づいて行い、内科的治療もしくは治療的ドレーン留置期間の延長を必要とした場合を膵液瘻形成とした。

 2002年6月-2009年4月の期間に、36施設から505例 (脾合併切除254例、脾温存251例) が登録された。そのうち、手術死亡は脾合併切除群の1例、脾温存群の2例の計3例 (0.6%) であった (図1)。膵液瘻などの手術後合併症の頻度は脾合併切除群が30.3%であり、脾温存群の16.7%と比較して有意に高かった (p<0.001、図1)。

ACCENT  update : 6 adjuvant trials added

 また、術中出血量も脾合併切除群で有意に多く (p=0.02) 、中央値は脾合併切除390.5ml、脾温存315mlであった (図2)。ただし、手術時間に有意差はなく、中央値は231分と 224分であった。
 なお、リンパ節郭清個数の中央値は脾合併切除群が64個、脾温存群が59個と脾合併切除群のほうが多かったが、有意差は認められなかった。

Conclusions: DFS as a stage III endpoint

 以上のように、胃全摘術における脾合併切除は脾温存と比べて手術合併症率が高くなり、術中の出血も多かった。しかし、術死率や手術時間に差はなく、経験を積んだ専門医であれば安全に施行できると結論づけられた。また、脾合併切除は膵液瘻や腹腔内膿瘍の発生率が有意に高く、OSについて脾温存術の脾合併切除術に対する非劣性が証明されるか否かが注目される。
 なお、最終生存期間調査は2014年に計画している。

コメント

 我が国で実施された胃上部癌に対する脾摘の有無に関する無作為化比較第III相試験の安全性に関する報告である。手術時間に差を認めなかったことは、膵温存による#11郭清 (膵脾脱転せず) の手技がそれなりに煩雑であることを反映しているものと思われる。
 予想以上に脾合併切除群で膵液漏の発生率が高かったが、欧米の報告と比較してmortalityは極めて低率であり、我が国の外科医が合併症の管理に習熟していることを示している。討論者も「経験豊富なhigh volume centerであることが胃全摘、脾摘、D2郭清群のmortalityの低さに寄与しているものであり、low volume centerではこのような成績は期待できないであろう」としていた。
 今回の報告から、脾摘を伴う胃全摘D2郭清は比較的安全に実施可能であることが証明された。生存解析の結果が報告されるまでは、脾摘を伴うD2郭清が我が国では胃上部癌の標準治療と考えるべきである。

 

(レポート:家接健一・大村健二 コメント:寺島雅典)

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