一般的に切除不能進行・再発胃癌に対する初回治療として5-FU系ベースの治療が行われるが、二次治療とくに腹膜転移の二次治療例に対する標準治療は確立されていない。5-FUの持続静注と急速静注ではその作用機序が異なることから、一方の投与法で再発した場合でも、もう一方の投与法で有効性が期待されると考えられている。また、5-FU系ベースの治療に不応となった胃癌腹膜転移例に対するpaclitaxel療法の有効性も示唆されている。
5-FU系ベースの治療に不応となった胃癌腹膜転移例に対するpaclitaxel少量分割療法の有効性と安全性を検討するため、best available 5-FU療法を同時対照とした多施設無作為化第II相比較試験を行った。
5-FU系ベースの治療に不応となった胃癌腹膜転移例をbest available 5-FU療法 (A群) とweekly paclitaxel (B群) に無作為に割り付けた。
A群:初回化学療法によって下記を選択 (best available 5-FU群)
B群:paclitaxel 80mg/m2/day、day1, 8, 15、4週毎 (weekly paclitaxel群)
一次エンドポイント:overall survival (OS)
全生存期間、A群4-6ヵ月、期待される両群間の差 2±0.5ヵ月、片側α=0.3、検出力85%、必要症例数は各群50例(計100例)
二次エンドポイント:有害事象
2005年7月-2008年12月の間に100例が登録された (A群49例、B群51例)。患者背景に偏りはなく、PS 1以下の症例はA群、B群それぞれ48例、49例、前治療でS-1が使用されていた症例は33例、32例、未分化型腺癌が44例、47例、消化管狭窄を有する症例が5例、4例、腹水を有する症例が40例、44例であった。OS中央値は両群共に7.7ヵ月 (HR=0.887、95%CI:0.571-1.377、p=0.298) であった。Progression-free survival (PFS) 中央値は2.4ヵ月、3.7ヵ月 (HR=0.568、95%CI:0.369-0.873、p=0.004) で有意差を認めた。三次治療が施行されたのは、A群42例、B群34例であり、その内容はA群はweekly paclitaxelが67.3%、B群はbest available 5-FU療法が27.5%であった。Grade 3/4の有害事象は好中球減少が28.6%、11.8%、発熱性好中球減少が4.1%、0%、食欲不振が14.3%、2.0%、下痢が10.2%、0%などでA群が多く、神経障害(感覚性)が0%、3.9%でB群が多かった。また、治療関連死をA群で1例認めた。
Weekly paclitaxel療法は、その毒性の少なさとPFSの延長から考えて、5-FU不応胃癌腹膜転移例の二次治療として有望な治療法であり、今後の二次治療を対象とした第III相試験における治療の候補となり得るだろう。
難治性で治療法の選択に苦慮する胃癌の腹膜播種に対する無作為化第II相試験の結果である。既に実地臨床では腹膜転移→タキサン系薬剤という考えが浸透しており、weekly paclitaxelはcommunity baseでは一種の標準治療として扱われているので、今回の結果は多くの医師にとって受け入れやすいであろう。三次治療が76%の症例で実施されており、best available 5-FU療法群では実に67%の症例でweekly paclitaxelが使用されていたため、OSでは差がなくなってしまったものと思われる。それにしても腹膜転移の二次治療後のMSTが7.7ヵ月というのは、驚くべき値であり、治療法選択だけでなく腹膜転移症例の全身管理を含めた我が国の腫瘍内科医の努力の賜と思われる。今後、さらに第III相試験での検証が期待される。
(レポート:山崎 健太郎 監修・コメント:寺島 雅典)