瀧内:本日はお忙しい中お集まりいただきまして、本当にありがとうございます。ここにお集まりの先生方は、消化器癌の化学療法では日本を代表する先生方ですので、今回のテーマ「胃癌化学療法の現状と将来」についても、将来を見据えた貴重なご意見をいただけるものと大変期待しております。
1990年代後半以降、胃癌に対する新規抗癌剤がいくつか承認され、それらの薬剤に関する臨床試験がいくつも行われてきました。そしてそれらの試験結果から、各薬剤の特徴や位置付けが、徐々にではありますが明らかになってきました。本日はそれらのデータに精通されている先生方にお集まりいただいていますので、新規抗癌剤を見つめ直すよい機会になると思います。それぞれのお立場からの忌憚のないご意見を頂戴し、活発にご討論いただければと思います。
馬場先生、まず初めに、海外における切除不能進行再発胃癌に対する化学療法の変遷について、ご説明いただけますでしょうか。
馬場:胃癌に対する抗癌剤については、単剤では奏効率に限界があるため、海外では比較的早い段階から併用療法が行われてきました。1980年代には5-FU+adriamycin+mitomycin
C(FAM)が比較的高い奏効率で注目されました。しかし、1991年の5-FU+adriamycin+methotrexate(FAMTX)との比較により、FAMTXの方が奏効率、生存のいずれにおいても優っていたため、FAMTXが欧米における標準治療として認識されました。一方、1980年代後半に高い奏効率で注目されたetoposide+adriamycin+CDDP(EAP)は、FAMTXとの比較試験において治療関連死が多く出たため、それ以降あまり注目されなくなったようです。また、1999年にはepirubicin+CDDP+5-FU(ECF)がFAMTXとの比較でよい結果を得ていますが、ECF群に手術症例が比較的多く含まれていたこともあり、世界的標準にはなり切れませんでした。さらに5-FU+CDDP(FP)の併用は比較的よく使われていますが、1993年の、FAM、5-FU単剤とFPを比較した韓国からの報告では、生存がいずれも約7ヵ月と差がなかったものの、FPの奏効率が高かったため、neo-adjuvantに適したregimenであると結論付けられています。2000年にはELF、FAMTX、FPのいずれも同等の治療成績であると報告され、現時点では、何が世界的な標準治療か、という問いに答えは出ていないのが現状です。
ただASCO2003で、Dr.Ajani(MD Anderson
cancer center)らが、docetaxel+CDDP+5-FU(DCF)とCDDP+5-FU(CF)の比較試験の結果を報告(ASCO2003
#999)し、また新しい展開が見えてきたようです。
瀧内:海外では、高い奏効率が期待できる2剤、3剤併用が好んで使われていると言うことですね。今お話にありました、ASCO2003でDr.Ajaniが報告したDCFとCFの比較試験について、小寺先生、解説していただけますか。
小寺:いわゆる新規抗癌剤の中で、胃癌に関してきちんとphase IIIまで評価されているのはdocetaxelだけです。そのdocetaxelにCDDPを併用したregimenのphase
IIはいくつか行われ、既に一定の評価が得られています。Dr.Ajaniらは、これに胃癌で標準的に用いられている5-FUを加えた三剤併用(DCF)と比較したrandomized
phase II(TAX325)を行い、有害反応が強いもののDCFが奏効率で勝るという結果を得ました。そこでDCFに対して、彼が米国での標準と考えるCFと比較するphase
III(V325)を行い、その中間解析結果がASCO2003で報告され、有意差をもってDCFが無病生存率においても奏効率においても優れていたわけです。ただし、DCFではgrade
3/4の好中球減少が84%に認められ、G-CSFの使用頻度がCFの3倍に上るなど、toxicityがかなり強く出現しています。少なくとも現時点で得られている知見は、DCFが新しい標準治療になる可能性があるというものです。ASCO2004では、Dr.Rothらの報告(ASCO2004
#4020)があり、同様のcombinationを用いたdocetaxel+CDDP+5-FU(TCF)とdocetaxel+CDDP(TC)を比較しています。TCFは、ヨーロッパのECFの流れを汲んで5-FUの持続静注の期間が長い点でDCFと異なります。この2regimenにECFも加えた3armを比較するrandomized
phase IIを行って、やはりTCFの奏効率がもっとも高く、TCとの間に有意差が出たとのことです。今後はこれを試験armにおき、control armにECFをおいたphase
IIIを予定しているとのことでした。
瀧内:海外の学会ではDCFが注目を集めているようですが、実際海外のドクターに話を聞くと、DCFは実地臨床では使いにくいという意見もあるようですが。
大津:ASCO2003でのDCFの報告以来、何人かのドクターの意見をお聞きしていますが、DCFの結果は世界的に受け入れられていないという認識が大勢だと思います。確かに臨床研究としては非常にきれいな結果でしたが、toxicityがかなり強く、世界の標準治療になれるかといえば疑問です。現在のECFがそうであるように、地域的な標準、あるいはintensiveな治療としてneo-adjuvant的な方向性を探っていくのではないかと思っています。 |