●5-FU単剤は残るか。
瀧内:S-1やCPT-11+CDDPの効果に対する強い期待感はあるのですが、5-FUが残るというシナリオにも可能性はあるわけです。朴先生、5-FUが残るとすればそれはどうしてなのか、お考えをお聞かせください。
朴:JCOG9912の中間解析の際に、3群あわせた全体でのMSTは1年近いデータでしたし、製薬会社によるphase
IIIでも同様なデータが出ていると聞いています。JCOG9205では7ヵ月だったMSTが現在は12ヵ月へと延びているわけですから。実地臨床でも、間違いなく延びていると実感できています。
瀧内:新規抗癌剤が出て、second line以降の治療の選択肢がいろいろと増えているためでしょうか。
朴:そうだと思います。ただそうしますと、5-FUがJCOG9912の結果生き残れば、どのregimenを最初の治療に持ってきても、結果としての生存には大きな差はないということになってしまいます。大腸癌では、5-FUとCPT-11とL-OHPの三つが生存延長のために必要で、その三つを使い切ることが大切だといわれていますが、胃癌においても、5-FU、CPT-11、CDDP、taxane(docetaxel,
paclitaxel)の四つが重要で、これらを使い切ることが生存の延長のためには大切だという解釈になると思います。そうすると、現場はまだまだ混沌としてくると思います。たまたま5-FUがまた残ってしまったら、その時は5-FUをどのような症例に使用したらよいのか、どの薬剤をどの機会に使ったらよいのか、分子マーカーなども含めて検討していかなければならないと思います。いずれにしても、first
lineで生存に対する大きな効果をもつ薬剤が出てくるまでは、こうしたやり方で行くしかないと思います。
大津:ASCO2003でのDr.AjaniによるDCFの報告の後、JCOGでも同じような対象患者に対するJCOG9912を行っているわけですから、日本でも彼らの結果を受け入れるかどうか議論しました。しかし、Dr.Ajaniが報告したMSTは10ヵ月ですが、JCOG9912全登録症例ののMSTは現時点で12ヵ月前後と、すでに彼らのデータを上回っていましたので、我々の試験を継続することにしたのです。ですから、5-FU単独であっても10ヵ月を下回ることはないだろうと思います。Dr.Ajaniとは2003年の発表の後、激論になってしまいましたが、5-FU単独から始めてもMSTが10ヵ月いくのですから、あのような毒性の強い三剤併用をやる必要があるのか、という話になりますよね。ある意味、世界的にコマーシャリズムが強くなって、新薬、新薬という方向に流れ、高い効果はあっても毒性の強い併用regimenを推す方向へ向かっています。それはそれで新薬としての評価を考えればよいのですが、胃癌をトータルとして考え、first
lineだけではなく、全体で治療効果を考えるような臨床試験をデザインする事が今後は大切だと思います。
馬場:生存がここまで延びた背景として、second line以降の影響が強いと考えてよいのですか。
大津:そう思います。taxaneも含めた、トータルの治療効果によって生存が延びているのだと思います。
小泉:JCOG9205での5-FU単独の成績はMST 7.1ヵ月でしたが、今回のデータは12ヵ月ですね。同じ施設が参加して同じregimenで治療して、ここまで成績が延びているということは、second
line以降の影響を考えるしかないと思います。second line以降の影響で5-FUの効果が見えにくくなるとすれば、試験デザインそのものを見直さなければならないのではないでしょうか。primary
endpointが本当に生存でよいのかという議論も出てくるのではないかと思います。time to progression(TTP)やtime to failure(TTF)などの評価を加えていかないと、それこそ混沌としたところに入り込んでしまうのではないでしょうか。
大津:これは、何を評価するのかという問題です。新薬の効果を評価するのであれば、first lineとしての効果をみればよいのですから、primary
endpointはPFSであっても何ら問題はないと思います。しかし、JCOGで行っているのは、薬剤の効果だけでなく、胃癌の化学療法の効果をトータルとして検証することです。ですから、やはりOSで評価するというのが我々の考え方です。FDAは、大腸癌では新薬をPFSで評価するというように変わってきましたが、胃癌に関してはOSで評価すべきと言っています。いいか悪いかという話ではなく、何を目的とするかによって、評価方法は変わってくるということです。 |