瀧内:次にS-1の併用療法に話題を移したいと思います。まず最初にS-1+CDDPの併用についてですが、phase
IIでは、非常に高い奏効率と1年を超すMSTが報告され、非常に有望視されています。実際に実地臨床でこの治療を選ばれる先生方も多いと思いますが、これについて、現在行われているphase
IIIも含め、ご紹介いただけますでしょうか。
小泉:この臨床試験は、国立がんセンター中央病院と東病院、北里大学東病院の3極で実施したものです。S-1は高い奏効率と生存延長効果が知られていますから、誰しもが考えるのがCDDPとの併用だと思います。しかしこれが盲目的に行われる事になればいろいろと問題だろうと考え、1つのモデルとして早期に試験を開始しました。実施に当たっては、S-1にCDDPを上乗せすれば当然toxicityが増強すると考えられますから、CDDPの投与を4週間から3週間に減じ、day
8に投与することにしました。day 8に乗せる理由の一つは、S-1が4日か5日で定常状態に達してくるというpharmacokinetics(PK)により、biochemical
modulationを考えると、day 1よりもday 8がよいのではないかという判断です。またS-1は経口剤ですから、CDDPによる吐き気で服用したS-1をみな吐いてしまうと意味がありませんから、このような投与方法になりました。これはUFT+CDDPと同様のスケジュールです。CDDPの投与量を60mg/m2に決め、phase
IIを実施したところ大変良く効き、トータル 76%というデータが出て、toxicityもgrade 3以上が約20%で、非常に使いやすいregimenであるという結論でした。CDDPをのせる意味を検証するためのphase
IIIを実施する必要があります。S-1のパワーをみるのであれば、control armはFPになりますが、FPは、先ほども触れたようにCDDPの5日間連投によるtoxicityの問題があり、あまり一般化されたregimenではありません。そこでDr.Ajaniはじめ何人かのoncologistに意見を聞いたところ、実地臨床で一般的に使われているregimenをcontrol
armにするのが標準的治療法を得るための臨床試験の原則であるとのことでしたので、早晩標準になるだろうと予測されていたS-1をcontrolとしてS-1+CDDPと比較したわけです。
瀧内:実地臨床を考えた場合、先生はどちらを使われますか。単剤ですか併用ですか。
小泉:症例によって変えることになります。非常に元気な方、また入院を希望しない人にはS-1単剤でもよいと思いますが、肝転移が5cmも10cmもあるような腫瘍量の多い場合や血行性転移が認められる患者さんに関しては、確実にresponseを取りたいので、必ず併用でいきます。retrospectiveな検討結果ですが、腹水症例でS-1単独とS-1+CDDPと比べてみたことろ、やはりCDDPを加えた方が成績がよかったので、腹水症例にもCDDPを加えた方がよいと思います。
瀧内:馬場先生、外科医からみて、このS-1+CDDPをどう評価されますか。
馬場:実際の治療経験から申しますと、確かに非常に切れ味がよく、有害事象もあまり強くないと感じています。外科の立場で言うと、neo-adjuvant
settingに非常によいregimenだと思います。S-1はどちらかというと低分化型腺癌に効き易く、CDDPは分化型に効き易いわけですから、この併用はその両方を兼ね備えています。従って、対象症例をブロードに考えられると思いますね。特に肝転移、bulkyなリンパ節転移には、使いやすいregimenだと思います。CDDPの投与には入院してハイドレーションする必要がありますが、ほとんどが外来治療が可能なregimenです。問題になるとすれば、どこまで継続するかです。first
lineで行った場合、長期に引っ張るとtotal doseとしてのCDDPがかなりの量になり、特にsecond lineでtaxaneが入ってきた場合に神経毒性の問題が出てきますから。
瀧内:そうしますと、neo-adjuvantのように、必ず効かせたい場合には非常に有用だということですね。これ以外にもCPT-11やtaxaneなど、S-1と併用に関して有望なregimenがあると思いますが、それに関してはいかがでしょうか。
小寺:実際、学会に行くとS-1と他の抗癌剤の併用のphase I、phase IIの演題が非常に多いですよね。しかし、よく似たものも多く、phase
IIまで行くと大学病院などでの単施設での臨床試験には限界がありますから、やはりきちんとしたグループによって臨床試験が行われ、ASCOやoncologyのjournalで評価されたregimenを使用したいと考えています。私自身は、大阪消化管がん化学療法研究会(Osaka
Gastrointestinal Cancer Chemotherapy Study Group:OGSG)のS-1+CPT-11の併用を用いています。OGSGではそれ以外には、paclitaxelとの併用のphase
I/IIも終了していますね。CPT-11+CDDPは特に分化型に有効であるというお話がありましたが、確かにCPT-11は基本的に大腸癌に有効な治療薬であると考えると、S-1+CPT-11もどちらかといえば分化型に効く組み合わせなのでしょうね。一方、S-1やpaclitaxelでは、単剤で腹膜播種がよくなったとか、癌性腹膜炎イレウスで通らなかった腸が通るようになったというような症例報告がいくつもされていますので、S-1+paclitaxelの併用は低分化型によいのではないかというのも想像に難くありません。
外科医としては、neo-adjuvant settingでの使用にも強い関心があります。あくまでも他の癌腫での話ですが、文献的にはneo-adjuvantで成功を収めるには奏効率の中でもCR率が非常に重要であるとされています。その観点から言えば、S-1+CDDPは驚異的な奏効率であるにもかかわらずCR例が少なかったと聞いていますので、その点がやや物足りなく思えます。実は個人的なごく少ない経験の中での話なのですが、S-1+CPT-11で2例ばかり原発巣のpathological
CR例を経験していますので、今後こうした併用療法の中からCR率に優れたものが出てくるとよいと思っています。 |