Memoryレポーター体験記

中村 将人 先生
社会医療法人財団慈泉会 相澤病院 がん集学治療センター化学療法科 統括医長

中村 将人 先生

 今年の米国臨床腫瘍学会年次集会も盛会のうちに終了しました。

 今年の注目はなんといっても免疫チェックポイント阻害剤だったと思います。様々な癌腫で驚くような治療成績が相次いで発表され、癌との闘いが新しい時代に入ったことが実感されました。CSS (Clinical Science Symposium) の「Immunotherapy for Every Patient: Check Your Enthusiasm」は実質的な初日の朝8:00からという時間設定にもかかわらず多くの聴衆が集まり、発表は会場をつつむ熱気と興奮に迎えられました (#LBA100#LBA101)。

 消化器癌の分野では、化学療法、手術について本邦から質の高い臨床試験の結果が多く発表されました (#3512#3515#3544#4018)。世界のoncologyの発展の中で日本の果たす役割はますます大きくなっていると思います。

 本学会レポートは長い歴史を持ち、速さ、中立性、質の高さから多くの注目を集めていると思います。かくいう私もこのサイトをみて毎年最新の情報を勉強させていただいておりました。そのレポーターの仕事を昨年に続き務めさせていただいたことはとてもありがたかったです。昨年は初めてということもあり、徹夜でレポートをまとめたことを覚えています。今年は徹夜せずにレポートを上げることができましたが、発表の内容だけでなく学会の空気感もお伝えできていたら幸いです。

 レポートに対して適切なご指導と素晴らしいコメントをいただきました大村先生をはじめ監修の先生方、様々な演題をディスカッションさせていただいたレポーターの先生方、レポートの仕上がりを辛抱強く、温かく見守っていただいた編集部のスタッフの方々に心から感謝いたします。ありがとうございました。

谷口 浩也 先生 愛知県がんセンター中央病院 薬物療法部 医長

谷口 浩也 先生

 「PD-1祭り」と評された2015年米国臨床腫瘍学会年次集会が幕を閉じました。消化器癌に対する抗PD-1抗体薬は他癌腫に比べて出遅れていましたが、胃癌 (#4001) に続いて食道癌 (#4010)、肝細胞癌 (#LBA101) での有効性が示され喜ばしく思います。そのなか、本会でマイクロサテライト不安定性 (MSI) 陽性大腸癌での有効性が発表されたのは衝撃的でした (#LBA100)。MSI陽性大腸癌は、古くからリンパ球浸潤の強い髄様癌の組織像を呈する頻度が高いことが知られ、癌の生長に免疫寛容の関与が示唆されていました。まさに、proof of conceptから実現した個別化治療の一例と思います。

 BRAF 変異型大腸癌に対するBRAF阻害剤を含め、消化器癌においてもprecision medicineの波が押し寄せています。しかしながら、欧米との検査ラグが課題です。MSI検査は、欧米ではLynch症候群の患者を見逃してはならないという視点から全大腸癌でスクリーニング検査が行われています。BRAF 検査も、欧米では大腸癌に関する診療ガイドラインにBRAF 検査の必要性を記載することで、保険償還や承認に繋げようとしています。欧米とのドラッグラグは無くなりましたので、今後は検査ラグを解消することが喫緊の課題と思います。

 Plenary Sessionではメラノーマで抗PD-1抗体薬と抗CTLA-4抗体薬の併用療法のベネフィットが示されました。多くの大腸癌では未だ免疫チェックポイント阻害剤の有効性は示されていませんが、何らかの併用療法によりブレークスルーが近いうちに来る、という期待が持てましたので来年以降が楽しみです。

 直接ご指導いただいた佐藤先生をはじめ、監修の先生方、スタッフの方々に今年も助けていただきました。この場を借りて深く感謝申し上げます。

川崎 健太 先生 慶應義塾大学医学部 消化器内科 助教

川崎 健太 先生

 今回、本速報レポーターを初めて担当させていただきました。

 世界の癌治療が決まる米国臨床腫瘍学会年次集会の速報レポーターが私のような若輩者に務まるか、渡米前は不安でした。そのため全ての演題のabstractには何度も目を通しました。

 今回のポイントは免疫療法でした。ミスマッチ修復欠損を有する固形癌へのPD-1阻害の有効性を示したLe先生の発表 (#LBA100、同日にNew England Journal of Medicine誌にpublication1)) を皮切りに、Science of Oncology Award を受賞した抗CTLA-4抗体薬開発者のAllison先生のPlenary Session、胃癌 (#4001)、食道癌 (#4010) に対する抗PD-1抗体薬の効果と癌治療の変遷を感ずる年次集会でした。

 個人的には、自分が専門としたく勉強を進めている神経内分泌腫瘍 (NET) の演題が多かった印象でした。Oralも2演題、PosterではPFSがOSの代替指標になることを8年間追跡・解析したデータ発表がありました。OctreotideへのBevacizumabの上乗せを示した試験 (#4004) ではIFN-α2bとデータは変わらないという結果であったことは残念でしたが、来年以降に期待する結果となっています。

 今までのevidenceの蓄積に目を向けつつ、現地でのdiscussionを聞き、臨床的なtrialの意義を素早く考え、自分の中で整理してまとめる。レポーターとしてのそのような作業は間違いなく自分の成長につながったと思います。

 特に現地でのdiscussion、監修の先生とのdiscussionは後に振り返ることのできる抄録や資料よりもはるかに多くのことを教えてくれました。世界中の内科、外科、放射線科と背景の違う人々の受ける試験結果の印象は異なり、そこで形成されたコンセンサスが次世代につながっていくことを強く感じました。

 直接御指導いただいた寺島先生はじめ、監修の先生方、他レポーターの先生方、スタッフの方々には本当に多くのことで助けていただきました。

 この場をお借りして深く御礼申し上げます、ありがとうございました。

1) Le DT, et al.: N Engl J Med. 372(26): 2509-2520, 2015 [PubMed

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