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GI cancer-net 海外学会速報レポート 2015年6月 シカゴ

背景と目的

 Stage III結腸癌において術後補助化学療法が標準治療であるが、直腸癌については欧米では周術期に放射線化学療法が行われることもあり、術後補助化学療法の意義についてのエビデンスは乏しかった1)。本邦から報告されたNSAS-CC試験のサブグループ解析において、直腸癌では術後にUFTを1年間内服することにより、手術単独と比較して無再発生存期間 (RFS)、OSの改善がみられた2)。ACTS-RC試験は根治切除されたstage II/III直腸癌に対する術後補助化学療法としてUFTに対するS-1の優越性を検証した無作為化比較第III相試験である。

対象と方法

 20~80歳の根治切除されたstage II/III直腸癌症例がS-1群 (体表面積により80, 100, 120mg/day, 28日間内服, 14日間休薬) もしくはUFT群 (体表面積により500mg または600mg/day, 5日間内服, 2日間休薬) に無作為に割り付けられ、両群とも1年間の内服が行われた (1)。

図1

 主要評価項目はRFSであり、副次評価項目はOS、有害事象であった。症例数の設定ではUFTの5年RFSを70%と仮定し、S-1のHRを0.70と期待し、両側有意水準0.05、検出力0.80としたときに800例と算出された。

結果

 2006年4月~2009年3月までに959例が登録され、S-1群 479例およびUFT群 480例に無作為に割り付けられた。両群の背景に差は認められず、年齢中央値はS-1群 63歳、UFT群 62歳であり、D3郭清を伴うリンパ節郭清はS-1群 59.3%、UFT群 57.9%、stage IIIA / IIIB / IIICはそれぞれ9.8% / 35.9% / 19.6%、11.5% / 36.9% / 17.5%であった。

 観察期間中央値5.02年時点において、5年RFSはS-1群 66.4%、UFT群 61.7%であり、RFSのHRは0.773 (95% CI: 0.625-0.955) とS-1の優越性が示された (p=0.0165) (図2)。再発部位別の解析では、5年時点の局所再発はS-1群 9.8%、UFT群 13.0%であり (HR=0.720, 95% CI: 0.476-1.087) 、遠隔再発はそれぞれ22.1%、25.0%であった(HR=0.818, 95% CI: 0.623-1.075)。

図2

 5年OSはS-1群 82.0%、UFT群 80.2%であった (HR=0.920, 95% CI: 0.707-1.198, p=0.5365)(図3)。

図3

 Grade 3以上の有害事象発現率はUFT群 11.7%、S-1群 13.4%であり、両群とも忍容性は良好であった ()。
 12ヵ月間の治療完遂率はUFT群 61.8%、S-1群 61.3%であった。


結論

 根治切除後の直腸癌に対して1年間のS-1による術後補助化学療法は良好な治療成績を示し、標準治療の1つと考えられる。

コメント

 直腸癌の術後補助化学療法においてUFTに対するS-1の優越性が証明された。直腸癌のみを対象として術前療法を行わず、術後補助化学療法を単独で施行した試験は他に類を見ない。Discussantには、直腸癌に対して術前の放射線照射を省略して術後補助化学療法のみを施行することは奇異に感じられたたようである。治療完遂率が約61%と低いこと、治療成績が極めて良好というわけではないことから否定的な印象をもっているようであった。
 現在、我が国の直腸癌に対する術後補助化学療法としては、結腸癌に準じて5-FU/LV、S-1、もしくはCapecitabineの6ヵ月間投与、さらに症例によってL-OHPの併用が行われているのが現状であろう。同日に発表されたJCOG0910試験でも、Ra直腸癌を含む結腸癌に対するCapecitabineの術後補助化学療法の投与期間は6ヵ月である (#3512)。一方、本研究ではS-1の投与期間は12ヵ月であり、やや違和感がある。
 昨年の本学会では、直腸癌の術前・術後治療に関する研究がいくつか報告された (#3500#3501#3502#3603)。それらのデータと今回の結果をすり合わせ、本邦でのbest practiceを考えていく必要があるだろう。

(レポーター:中村 将人 監修・コメント:大村 健二)

Reference
  1. 1) Petersen SH, et al.: Cochrane Database Syst Rev. 3: CD004078, 2012[PubMed
  2. 2) Hamaguchi T, et al.: Cancer Chemother Pharmacol. 67(3): 587-596, 2011[PubMed
関連リンク
  1. GI-pedia第2回:大腸癌化学療法の変遷(結腸癌に対する術後補助化学療法)

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