Expect寄せる期待

大村 健二 先生 上尾中央総合病院 外科・腫瘍内科 顧問

大村 健二 先生

 この学会レポートも今年で15回目となります。新型インフルエンザで現地へ向かうことができなかった2009年を除いて毎回、米国臨床腫瘍学会年次集会の会場の熱気とともに最新の研究結果をどこよりも早くお届けしてきました。その間、大腸癌の化学療法は5-FU/LVからFOLFOXとFOLFIRI、さらには抗VEGF抗体薬または抗EGFR抗体薬の上乗せへと進歩を遂げました。バイオマーカーによる症例選択の道も開け、切除不能進行・再発大腸癌のMSTは12ヵ月から30ヵ月にまで延長しました。

 一方、胃癌の治療成績の向上は、大腸癌と比較してやや後塵を拝している感がありますが、Ramucirumabの登場で2nd-lineの確立に光明が差し、さらにPembrolizumabにも期待がかかります。胃癌の化学療法の治療成績に分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤が寄与する時代が到来したと言ってよいでしょう。切除不能進行・再発膵癌の治療においても、FOLFIRINOXとGemcitabine + nab-Paclitaxel、S-1の有効性が確認され、臨床ではそれらが使い分けられていると考えます。

 このような治療成績の向上と治療の標準化は、手順を踏んだエビデンスの積み重ねによってもたらされたものです。また一歩前へ進む消化器癌の化学療法を目の当たりにできる喜びを皆様と分かち合いたいと思います。

寺島 雅典 先生 静岡県立静岡がんセンター 胃外科 部長

寺島 雅典 先生

 今年の米国臨床腫瘍学会年次集会のテーマは、Illumination & Innovation, transforming data into learningです。消化器癌関連の演題としては、免疫チェックポイント阻害剤に関する発表に注目が集まりそうです。これまで悪性黒色腫に対して有効性が確認されていましたが、近年、胃癌を初めとする消化器癌に対する有効性も確認されつつあります。

 私は大学に在籍していた当時に免疫療法の研究にも携わっていました。その当時、樹状細胞を用いた特異的免疫療法が華やかなりし時代でした。腫瘍抗原を樹状細胞に取り込ませてMHC上に提示させ、それをT細胞が認識して腫瘍を攻撃するという治療法で、理論的には完璧で究極の免疫療法と考えていました。しかしながら自験例で腫瘍が縮小した症例は1例もなく、樹状細胞を培養する様々な方法やモニタリングの方法について検討しましたが、満足のいく結果は得られませんでした。実際、臨床試験としてワクチンを含めて効果が認められたのは前立腺癌など一部の癌腫のみで、消化器癌などでは一部で有効性が示唆されるものの、検証されるまでには至りませんでした。樹状細胞療法が効かない理由の1つとしてCD28リガンド、特にB7が重要であることは指摘されていましたが、臨床的にそれを克服することはできませんでした。

 ところが、最近相次いで抗PD-1抗体薬、抗PD-L1抗体薬が開発されるに至り、様々な固形腫瘍で目覚ましい効果が得られることが報告されるようになり、まさに目から鱗の状態です。現在は、化学療法剤との併用を中心に研究が進んでいますが、本来は免疫療法でこそ効果が発揮できるものであると信じています。特に術後補助療法として応用可能であれば、まさに夢の個別化治療が実現するのではないかと期待しています。自分が手術した患者さんが一例も再発することのない未来がくることを念じてやみません。将来にilluminationを与えることができるような希望の持てる研究結果をご紹介できればと思っています。

佐藤 温 先生 弘前大学大学院医学研究科 腫瘍内科学講座 教授
弘前大学医学部附属病院 腫瘍内科 診療科長

佐藤 温 先生

 新年度の準備の忙しさが一段落すると、初夏の季節とともにこの時期となります。開催地が固定化したこともあり,本会への参加も年中行事として確立した感があります。私が医師になった頃は,日本からの参加者も極わずかであり、選ばれた研究者のみに開かれているような印象を持っておりました。それが今や医療者のみならず患者もみな参加する大きな一大イベントとなりました。

 この4半世紀で、本会の意味も時代とともに大きく変化しました。そして最近、また何かが変わっていく時期なのかもしれないという漠然とした思いを抱いております。がん医療のエビデンス(科学的根拠)を創出する臨床試験結果が、世界の研究者らが一堂に会するこの会で報告され、そして内容が吟味され、さらに解釈が行われコンセンサスが形成されます。この一連の過程は、すぐ将来の医療に多大に貢献することになります。この情報をがん医療にかかわる医療者が時宜にかなって共有できることは素晴らしいことです。このサイトの仕事の意義がそこにあります。

 一方、エビデンスだけではどうにもならないのが実臨床現場です。さらにほんの少しでもより良い医療を達成しようと日夜業務に取り組んでおられる医療者に、本当に役立つ情報とは何かという視点を改めて考え直してレポートできればと思っております。

ページトップへ