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GI cancer-net 海外学会速報レポート 2015年6月 シカゴ

背景と目的

 進行肝細胞癌 (HCC) に対してSorafenibは標準治療と考えられているが、Sorafenibに抵抗性となった症例に対する治療選択はないのが現状である1)。S-1は様々な固形癌に効果を示すDPD阻害作用を有する経口抗癌剤であり、HCCに対する第I/II相試験において奏効率21.7%、PFS中央値3.7ヵ月、OS中央値16.6ヵ月と良好な結果が報告されている2)。本試験はSorafenibに抵抗性となったHCC症例に対するS-1の効果と安全性を検討したプラセボ対照無作為化第III相試験である。

対象と方法

 対象はChild-Pughスコア 5-7点、Sorafenibに抵抗性となったHCC患者であり、S-1群 (40-60mg/m2, 1日2回, 28日間内服, 14日間休薬) とプラセボ群に2 : 1に無作為に割り付けられた (図1)

図1

 主要評価項目はOSであり、S-1のプラセボに対する優越性が検証された。副次評価項目はPFS、奏効率、治療成功期間 (time to treatment failure: TTF)、安全性であった。

 OSの期待値を、プラセボ群は6.5ヵ月、S-1群は第I/II相試験の結果から10ヵ月とし(HR=0.65)、両側有意水準5%、検出力90%から必要症例数は250例と設定された。抗腫瘍効果は、RECIST ver. 1.1に基づいて独立中央判定で行われ、進行したHCCでは症例の均一性が低いため、あらかじめサブグループ解析が計画された。

結果

 進行HCC症例334例が登録され、S-1群222例、プラセボ群111例に無作為に割り付けられた。患者背景は、年齢中央値が両群ともに70歳、Child-Pugh A (5-6点) は両群ともに81.0%、血管浸潤はS-1群16.2%、プラセボ群20.7%、肝外転移はS-1群54.5%、プラセボ群52.3%であり、両群に差を認めなかった。

 OS中央値はS-1群337.5日、プラセボ群340.0日であり、S-1群はプラセボ群に対して有意差を示すことはできなかった (HR=0.86, 95% CI: 0.67-1.10, p=0.2201) (図2)。

図2

 OSにおける患者背景別サブグループ解析においては患者の状態により異なる結果がみられ、Child-Pugh AはHR=0.79、BはHR=1.19であり、腫瘍のstageはstage I/IIはHR=2.08、stage III/IVはHR=0.79であった (図3)。

図3

 PFS中央値はS-1群80.0日、プラセボ群42.0日であり、S-1群で有意な延長を認めた (HR=0.60, 95% CI: 0.46-0.77, p<0.0001) (図4)。また、奏効率はS-1群5.4%、プラセボ群0.9%(p=0.068)、病勢コントロール率はS-1群43.2%、プラセボ群24.3%であった (p=0.001)。

図4

 S-1群の主な有害事象 (全grade) は、食欲不振 (46.8%)、倦怠感 (45.9%)、ビリルビン上昇 (34.7%)、下痢 (34.7%) であったが、ほとんどの有害事象は減量や投与中断によって管理可能であった。

結論

 Sorafenib抵抗性のHCCに対してS-1群はプラセボ群と比較して有意なOS延長を認めなかった。しかし、stage III/IV、Child-Pugh Aの症例では良好であった。現在、あらかじめ予定されたサブグループ解析が進行中である。

コメント

 HCCに対するフッ化ピリミジン系抗悪性腫瘍薬の効果を検証した世界初の第III相試験である。また、HCCを対象とした全身化学療法の大規模RCTが我が国から報告されるのも初めてである。

 PFSはS-1群でプラセボ群と比較して有意に延長していたが、OSでは有意差を認めなかった。その原因として演者は、S-1群と比較しプラセボ群でより多くの後治療が入っていたことを挙げていた。OSのforest plotでは、有意差はないもののChild-Pugh Bと比較してChild-Pugh Aで、stage I/IIと比較してstage III/IVでハザード比が低かった。肝硬変を背景に発生したHCCに対する化学療法では、腫瘍の制御と肝硬変の進行防止の双方を勘案する必要があることをうかがわせる。サブグループ解析の結果を待ちたい。

(レポート:中村 将人 監修・コメント:大村 健二)

Reference
  1. 1) Llovet JM, et al.: N Engl J Med. 359(4): 378-390, 2008[PubMed
  2. 2) Furuse J, et al.: Cancer Sci. 101(12): 2606-2611, 2010[PubMed

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