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GI cancer-net 海外学会速報レポート 2015年6月 シカゴ

背景と目的

 悪性腫瘍は免疫寛容を用いて宿主免疫を回避しているとされ、近年PD-1を用いた免疫療法が注目を集めている。抗PD-1モノクローナル抗体薬Pembrolizumabは様々な臓器の癌腫でその有効性が示されており、PD-L1陽性固形癌に対する第Ib相コホート試験のKEYNOTE-012試験が実施されている1)。今回、進行胃癌におけるPD-L1の発現と予後の関連についての解析結果が報告された。

 なお、本解析は2015年消化器癌シンポジウムにおける室先生の発表の追加報告である。

対象と方法

 進行再発胃腺癌/食道胃接合部腺癌患者を対象に、22C3抗体による組織染色を行い、腫瘍細胞と免疫細胞の両方でPD-L1発現を確認した。対象となる患者にはPembrolizumab 10mg/kgを2週間毎に投与し (最長24ヵ月実施)、8週毎に画像評価した (図1)。

 主要評価項目は独立中央判定による奏効率 (RECIST ver.1.1) であった。

図1

結果

 スクリーニングを実施した162例のうちPD-L1陽性は65例 (40%) に認められ、そのうち39例が試験登録となった。

 2015年3月23日の解析時点において、対象の患者背景は年齢中央値63.0歳 (範囲:33-78)、男性71.8%、アジア人48.7%であり、進行病変に対する前治療歴を2回以上実施した症例は26例 (66.7%) であった。

 主要評価項目である独立中央判定による奏効率は22.2% (95% CI: 10.1-39.2) であり、施設判定による奏効率は33.3% (95% CI: 19.1-50.2) であった。

 独立中央判定による奏効までの期間中央値は8週 (範囲:7-16) であり、奏効期間中央値は40週 (範囲:20+-48+) であった。標的病変の最大変化率を図2、標的病変の変化率を図3に示す。

図2

図3

 PFS中央値は1.9ヵ月 (95% CI: 1.8-3.5) であり、OS中央値は11.4ヵ月 (95% CI: 5.7-NR) であった (図4)。

図4

 なお、preliminaryな結果ではあるが、免疫染色におけるPD-L1の発現と奏効率に関連性が認められた (独立中央判定: 片側p=0.082、施設判定: 片側p=0.120)。

 治療関連有害事象 (grade 3/4) として、倦怠感、甲状腺機能低下症、類天疱瘡、末梢神経障害、肺臓炎を認めたが、治療関連死亡は認められなかった。免疫学的有害事象の多くはgrade 1/2であり、grade 3は甲状腺機能低下症、grade 4は肺臓炎の各1例であった。

結論

 Pembrolizumabは進行再発胃腺癌/食道胃接合部腺癌において抗腫瘍効果を示し、その有害事象はコントロール可能であった。また、腫瘍細胞および免疫細胞の両方におけるPD-L1の発現が、対象患者を選択する上で重要であることが示唆された。

コメント

 今年の米国臨床腫瘍学会年次集会で最も注目されていた、免疫チェックポイントを標的とした胃癌に対する試験の報告である。本研究では、PD-L1陽性胃癌を対象として抗PD-1抗体薬であるPembrolizumabの2nd-line以降の効果を検討したKEYNOTE-012試験において、PD-L1発現と抗腫瘍効果との関連を検討した報告であり、PD-L1発現と抗腫瘍効果との間には有意な相関が得られていた。興味深いのは、一旦増大してから縮小が得られる症例や、非常に長期間奏効が得られる症例が存在することであり、やはりcytotoxicな薬剤とは異なった作用機序を有することが示唆された。現在、第II相、第III相試験が進行中であり、本剤以外のPD-1、PD-L1を標的とした薬剤と共に今後の報告が期待される。それと同時に、現在世界的に研究が進んでいる、遺伝子プロファイリングからの対象症例のスクリーニングにも注目したい。

(レポート:川崎 健太 監修・コメント:寺島 雅典)

Reference
  1. 1) Muro K, et al.: ESMO 2014: abst #LBA15[学会レポート
関連リンク
  1. 進行胃癌に対するPembrolizumabの第Ib相試験 (KEYNOTE-012):ESMO2014 abst #LBA15
  2. KEYNOTE-012試験におけるPD-L1発現:2015年消化器癌シンポジウム abst #3

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