瀧内:昨年の秋から年末にかけて、LV/UFT、S-1が相次いで承認を受け、日本の医療現場で使われるようになってきたわけですが、薬剤の選択がどのように変化していくかということに関して大津先生のご意見をいただきたいと思います。
大津:実際にどう変わっていくかについては、我々内科医、いわゆるoncologistと外科の先生方とでは、価値観が若干違うところがあるので、なんとも言えないのですが、私自身の考えで言えば、LV/UFTにしてもS-1にしても、LV/5-FUを上回るものはないわけですから、現時点ではまだfirst
lineとして使うのは難しいと思います。
瀧内:evidenceがないということですね。
大津:そのとおりです。LV/UFTの場合はUSAの試験でLV/5-FUとあまり差がないものの、S-1には全くphase
IIIのdataがありませんから、やはり今の状況では、capecitabineが経口剤の世界的主流になっていますので、それとの比較を何かやらないと、LV/UFTもS-1もfirst
lineに残っていくことは苦しいのではないかと思います。
瀧内:安易に取り付くなという先生のご意見ですね。
大津:人によってそのあたりの価値観は違うと思いますので、治療のひとつの選択肢になるとは思いますが。
瀧内:荒井先生のお立場から見ると、LV/UFT、S-1が承認されて、大腸癌化学療法は変わっていくと思われますか。
荒井:もちろん、経口薬の出現により変わりつつあるという認識はあります。ただ、大津先生のお話にもありましたように、「経口薬が本当にいいのか」と言われると、非常に懐疑的にならざるを得ません。肝動注をやっている関係で「技術」についてはいろいろ思うところがあって、治療のバックグランドとしての「技術」に触れさせていただきたいのですが、5-FUの持続静注を行うためにはどうしてもポートを埋め込むという技術が必要になります。でも、これは非常に簡単な技術であって、どこでもできて当たり前な技術です。そんな誰でもできる当たり前の技術が面倒がられて、それで標準的治療やプラクティカルな治療が変わってしまうとすれば、これは逆にすごく怖い話だと思います。どこでもあたりまえに外来で5-FUの持続静注ができるという状況をベースにおいて、その上で本当に経口薬の方が良いのかを検証すべきなのであって、ポートを埋め込むのは面倒で飲み薬は簡単だから、そっちに走ってしまおうというのは、間違いだと思います。
大津:荒井先生が言われるとおりで、胃癌と違い、特に大腸癌では日本と海外の差が余りありませんから、世界と合わせてやっていかなければならないと思います。持続静注のようなものがきちんとできるようにしなければならない。要するにグローバルスタンダードがちゃんとできるというようにすることが非常に大事だと思いますし、それによって我々の医療も進歩していくのではないかなという風に思います。
瀧内:LV/UFT、あるいはS-1が承認されたけれども、両先生のご意見は、一歩引いて、見つめておいたほうがいいと言うご意見だったわけですが、朴先生もやはり同じようなお考えですか?
朴:そうですね。経口剤をfirst line にいきなり持っていくというのはちょっと問題だと思います。CPT-11を併用できないようなpoor
riskの患者さんに、first lineでLV/5-FUを使う代わりにLV/UFTを使いましょうかということならあり得ます。LV/UFTは比較試験の結果、LV/5-FUに引き分けたのに対し、S-1はphase
IIのデータしかありませんから、evidenceの信頼性からみると、first lineでLV/5-FUの代わりにもってくるのであれば、LV/UFTになると思います。先ほども言いましたように、LV/5-FUまたはIFLで効かなくなった症例に対して、LV/UFTを持っていってもどうかという気持ちがあります。その場合当院では、S-1が効くかもしれないと思って使っています。
瀧内:今、各先生方から経口剤へのシフトは、evidenceが出るまでは慎重であるべきだというご意見をいただいたと思うのですが、藤井先生、やはり利便性ということで、実際のところ外科の先生方は5-FUの注射剤から経口剤にシフトしてきているのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。
藤井:たとえば、adjuvant settingに近い使い方をしているLV/5-FUをLV/UFTに代えるという方向にはシフトしています。患者さんもその方が本当は喜ぶと思ったのですが、かなり高いお薬なので、また注射薬に戻る人もいますから、経済的なことを考えると問題はあります。最初から使っていれば不満も出ないのですが、途中から切り替えると多少難はあるかなという感じです。効く患者さんの層は何%かありますから、有効な手段だと思っておりますが、かなり副作用も強いので、慎重に使わないとならない経口剤だと思います。
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