海外と日本の大腸癌化学療法の現状−総論−

瀧内:本日は大変お忙しい中、近年進歩目覚しい大腸癌化学療法の現状と将来〜今後の治療戦略を考える〜という座談会に、各科からご専門の先生方にお集まりいただきました。本日の座談会では各先生方に、それぞれのお立場から大腸癌化学療法に対する最新のお考えをお聞きし、今後の方向性についてsuggestionをいただければと思います。
まずはじめに、海外における大腸癌化学療法の現状について、朴先生に総論的なお話をいただきたいと思います。

朴: 従来のLV/5-FUについては、米国でbolus投与が、欧州では持続静注投与の開発が、それぞれ進んできました。ところが、CPT-11やoxaliplatin(L-OHP)が加わり、それらとの併用効果をみたN9741試験GERCOR試験の結果が出たため、LV/5-FUにCPT-11やL-OHPを付加したFOLFOX、FOLFIRIがfirst lineでも標準治療と位置づけられるようになりました。
Adjuvant療法に関しても、まだひとつの試験しかありませんが、FOLFOXがLV/5-FUに勝っていたという試験結果がありますので、現在はFOLFOXが中心といってもよいかもしれません。

瀧内:しかし、日本ではL-OHPがまだ承認されていないという大きな問題があり、海外と日本の状況には大きな差異がありますが、大津先生、日本の現状はいかがでしょうか。

大津:L-OHPが未承認なので、日本で使用可能なのはCPT-11、Isovorin®(l-LV)/5-FUの二つというのが現状です。内科では施設間に差があるものの、基本的には初回治療はLV/5-FU+CPT-11の併用になります。これまではSaltz regimen(LV/5-FU+CPT-11:IFL)が中心だったかと思いますが、いくつかの比較試験の成績で、5-FUの投与法がbolusより持続静注の方が安全性で優れているということがわかり、FOLFIRI中心に変わりつつあると思います。
ただ、我々も今FOLFIRIに切り替え始めたところですので、一般的な実地医療の現場ではこれからだと思います。

瀧内:藤井先生、外科の先生の立場からのご意見で結構ですが、実地でどういう治療をされていますか。

藤井:外科ではまずadjuvant療法に、あいかわらず経口フッ化ピリミジン製剤を、stage IIIや、少し進んだstage IIに使用し、進行癌については、5-FU系薬剤にl-LVを併用し、場合によってCPT-11を併用するということになります。

瀧内:外科の先生方も、進行再発癌症例に対しては最初から多剤併用療法を積極的にされるようになってきたということですね。

藤井:CPT-11に関しては、初期に比べればかなり積極的に使うようになってきました。

瀧内:荒井先生は動注療法で大変よい成績を上げられていますが、このようなCPT-11に代表される新薬による化学療法の変化を踏まえて、動注療法の現状をどうお考えですか。

荒井:動注の場合、技術的な問題としてこれが上手にできることが大前提です。「上手にできる」という前提で述べさせていただくならば、肝転移をコントロールする能力については、最近の全身化学療法の進歩を踏まえても、色褪せてはいないと思います。大腸癌の場合、肝転移が予後規定因子となっている患者さんが相当数で存在する訳ですから、その群に対しては全身化学療法よりも良い結果を期待できる可能性はなお十分に高いと思われます。 ただ、実際には「肝転移のみ」の症例というのはむしろ稀ですし、肝動注は所詮肝臓にしか効かない訳ですから、肝動注だけで云々言うような時代ではないと思います。その上、技術の問題がありますから、標準的治療に組み込むのもなかなか難しい状況にあります。
 
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