Discussion現地座談会

大腸癌における術後補助化学療法について

#3515:ACTS-RC試験
Stage II/III直腸癌に対する術後補助化学療法としてのS-1のUFTに対する優越性を検証

室:続いて、直腸癌の術後補助化学療法を検討したACTS-RC試験について、レポートお願いします。

中村:直腸癌では術後にUFTを1年間内服することにより、手術単独と比較してRFSとOSが改善したことが、NSAS-CC試験のサブグループ解析で示されています。これをもとに、UFTを標準的治療として、S-1の優越性の検証を試みたのがACTS-RC試験です。根治切除されたstage II/III直腸癌症例をS-1群 (4週投与2週休薬) もしくはUFT群 (5日投与2日休薬) に無作為に割り付け、1年間投与しました。
 その結果、主要評価項目のRFSは5年時点でS-1群66.4%、UFT群61.7%であり、S-1の優越性が示されました (HR=0.773, 95% CI: 0.625-0.955, p=0.0165) (図2)。5年OSはS-1群82.0%、UFT群80.2%で有意差はありませんでした (HR=0.920, 95% CI: 0.707-1.198, p=0.5365)。
 Grade 3以上の有害事象発現率はUFT群 11.7%、S-1群 13.4%で、両群とも忍容性は良好でしたが、治療完遂率はUFT群 61.8%、S-1群 61.3%で、discussantからは治療完遂率が低いとの指摘がありました。
 以上より、S-1の1年間内服が直腸癌の術後補助化学療法の選択肢の1つになると結論されていました。

室:大村先生、いかがでしょうか。

大村:本試験は、術前補助療法を行っていない直腸癌の術後補助化学療法を検証した、世界で初めての試験です。術後補助化学療法だけで局所再発も抑制できるという、良好なデータだと思います。結腸癌のJCOG0910試験では投与期間が6ヵ月、直腸癌の本試験では投与期間が12ヵ月ですので、これをどのようにすり合わせるか。そして、欧米の直腸癌の標準的治療は術前放射線療法+術後L-OHPベース化学療法ですから、それと我が国の標準的治療をどのようにすり合わせていくかが課題だと思います。

室: ありがとうございました。結腸癌のJCOG0910試験ではCapecitabineに対するS-1の非劣性が示せず、直腸癌のACTS-RC試験ではUFTに対するS-1の優越性を示すという、相反する結果になりましたが、先生方はどうお考えでしょうか。

坂本:ACTS-RC試験の対照群はUFTですが、これはNSAS-CC試験のサブグループ解析1)を踏まえたUFT vs. 手術単独のメタ解析2)でUFTの有効性を確認した後に試験がデザインされたという背景があります。ただ、結果が出た現在となっては時代遅れになってしまったとも言えます。JCOG0910試験の対照群はCapecitabineなので、比較するなら対照群はUFT/LVまたは5-FU/LVであるべきで、その意味では2つの試験を並べるのは難しいと感じます。

室:そうですね。確かに、実臨床で直腸癌の術後補助化学療法にUFTの1年投与を行っている施設はないでしょう。臨床試験を積み上げていくためにはUFTを対照にせざるを得なかったところに問題があるのかもしれません。

吉野:結腸癌における術後補助化学療法のACTS-CC試験ではS-1のUFT/LVに対する非劣性を検討し、両群で同程度でした3)。したがって、LV併用の差とも考えられます。

坂本:もともと直腸癌の術後補助化学療法は、欧米は5-FU単独、日本でもUFT単独が標準治療となっていたため、結腸癌とは異なる経緯があります。

佐藤 (武):今回の2つの試験の結果は、結腸癌と直腸癌を分けて考えるきっかけになったのではないかと思います。結腸癌はCapecitabine、直腸癌はS-1という結果も受け入れるべきだと考えます。

寺島:ただ、RaはACTS-RC試験JCOG0910試験ともに含まれており、JCOG0910試験のサブグループ解析では、RaもCapecitabine群が良好でしたね。

谷口:ひとつ言えることは、欧米では化学放射線療法により局所再発率を下げようとしていますが、ACTS-RC試験において化学療法を強力にすることで局所再発率が下がることが示されたのは意味があると思います。

佐藤 (武):手術単独に優越性を示しているUFTに対してS-1が上回ったことは、術後補助化学療法の意義を証明したという点で重要だと思います。確かにRaの問題はあるのですが、「直腸癌の術後補助化学療法を行うならS-1で」と言ってもいいのではないかと思います。

室:ただ、本邦の「大腸癌治療ガイドライン2014年版」では、大腸癌の括りで結腸癌、直腸癌を一緒に扱っており、その術後補助化学療法において、5-FU/LV、UFT/LV、Capecitabine、FOLFOX、XELOXが推奨されていますね。この点について、ガイドライン委員の吉野先生はどうお考えでしょう。

吉野:ACTS-RC試験の結果は無視できないので、S-1の1年投与を標準的治療の1つと考える必要があると思います。ただ、Raを含めたJCOG0910試験においてはCapecitabineがS-1を上回っていましたし、3ヵ月の術後補助化学療法、L-OHP併用も検討されていることを考えると、この結果をもって言い切っていいのかは疑問が残ります。

坂本:欧米のガイドラインでは、結腸癌と直腸癌は完全に分けられていますよね。

吉野:欧米では直腸癌に化学放射線療法を使用していることが大きいのだと思います。結腸癌と直腸癌ではmolecular profilingにあまり差がないことも知られているので、悩ましいです。

坂本:ACTS-RC試験はcommunity practiceの病院のデータで、がん集学的治療研究財団 (JFMC) で初めてdefiniteなpositiveデータが得られた試験であるということも特記すべきかと思います。

吉野:直腸癌の術後補助化学療法を考えるには、いい機会になったと思います。

室:JCOG0910試験のOS曲線はS-1群が少し上を推移していますが、それでもS-1は使うべきではないという結論に異論はないでしょうか。

坂本:主要評価項目にmetしておらず、しかもそのendpointにおいて大幅に劣っているのであれば、結果を受け入れるべきだと思います。

室:同一視すべきではないとは思いますが、先ほどの腹腔鏡下手術も非劣性は示せませんでしたが、ケースに応じて使用するという結論でした。同じ非劣性試験でいずれも非劣性が検証できない結果でしたが、結論が異なっております。これをどう考えたらいいのでしょうか。

大村:腹腔鏡下手術はイベント数の問題ですが、こちらは統計学的に十分なデータでの中間解析ですから、信頼が置けると思います。

室:わかりました。議論をまとめますと、JCOG0910試験は非劣性を示せなかったという厳然たる事実があるので、S-1は結腸癌の術後補助化学療法としては勧められない。直腸癌に関しては、今後の有力な治療選択、あるいは標準的治療の1つとして、S-1の1年間投与が浮上したということで、結腸癌と直腸癌は別個に治療体系を考えていく契機になったと結論づけたいと思います。

Lessons from #3515

  • Stage II/III直腸癌に対する術後補助化学療法として、S-1はUFTに対する優越性が証明された。
  • Stage II/III直腸癌に対する術後補助化学療法として、S-1の1年間投与は今後の有力な治療選択肢の1つとなる。
  • 本試験の結果は、結腸癌と直腸癌の治療体系を分けて考えていくきっかけになると考えられる。

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