Discussion現地座談会

大腸癌における術後補助化学療法について

#3512:JCOG0910試験
Stage III結腸癌に対する術後補助化学療法としてのS-1のCapecitabineに対する非劣性を検証

室:次は術後補助化学療法の演題です。結腸癌と直腸癌の演題が発表されましたので、それぞれ中村先生にレポートしていただいた後、ディスカッションに移りたいと思います。

中村:大腸癌の術後補助化学療法に関する臨床試験はいくつも行われており、本邦のJCOG0205試験ではUFT/LVの5-FU/LVに対する非劣性が検証されているほか、X-ACT試験ではCapecitabineの5-FU/LVに対する非劣性、ACTS-CC試験ではS-1のUFT/LVに対する非劣性が証明されています。
 今回のJCOG0910試験は、Capecitabineに対するS-1の非劣性を検証する第III相試験です。下部直腸 (Rb) を除くstage III結腸癌で、D2/3郭清が行われたR0症例を対象に、Capecitabine群は2,500mg/m2を2週投与1週休薬、S-1群は80mg/m2を4週投与2週休薬で6ヵ月間施行されました。
 その結果、2回目の中間解析において、3年DFS (disease-free survival) はCapecitabine群82.0%、S-1群77.9%であり、S-1のCapecitabineに対する非劣性は証明されず (HR=1.23, 99.05% CI: 0.89-1.70, p=0.46)、この時点でJCOG効果・安全性評価委員会から早期の公表が推奨されました。Grade 3以上の有害事象はCapecitabine群が21.2%、S-1群が12.1%であり、Capecitabine群では手足症候群、S-1群では下痢や食欲不振が多く認められました (表1)。
 これらの結果から、stage III大腸癌に対する術後補助化学療法はCapecitabineが標準的治療であり、S-1は使用すべきではないという強いメッセージが出されています。

室:中村先生のご指摘の通り、研究者からはかなり強いメッセージが結論に述べられており、自分自身も少しびっくりしました。大村先生、いかがでしょうか。

大村:我が国の大腸癌の術後補助化学療法はNSAS-CC試験、JCOG0205試験ACTS-CC試験によって検証が進められ、5-FU/LV、UFT/LV、S-1の3つが標準的治療と考えられていますが、欧米では5-FU/LVとCapecitabineが標準的治療です。そうしたなかで行われた試験ですが、非劣性が証明されなかったため、S-1を術後補助化学療法に使用すべきではないというメッセージが出されてしまいました。なお、Capecitabine群は 2,500mgと高用量で手足症候群が多く発現しています。X-ACT試験では有害事象が起こった場合、減量や休薬などの用量調整を行っても効果の減弱を認めないという結果が出ているので、手足症候群のマネジメントと適切な減量・休薬を行いながら、6ヵ月完遂することが重要だというデータでもあると思います。

坂本:本試験では非劣性マージンを1.24に設定していますが、例え1.5に設定しても非劣性は証明できておらず、最終的に非劣性が示される可能性が低いため、早期中止になったということですね。

Lessons from #3512

  • Stage III結腸癌に対する術後補助化学療法として、S-1のCapecitabineに対する非劣性は証明されなかった。
  • Stage III結腸癌に対する術後補助化学療法はCapecitabineが標準的治療であり、S-1は使用すべきではない。
  • 術後補助化学療法はundertreatmentになりがちなので、Capecitabineを使用する際は最初から減量することなく2,500mg/m2で開始し、副作用マネジメントと適切な減量・休薬を行いながら、6ヵ月完遂することが重要である。

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