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GI cancer-net 海外学会速報レポート 2013年6月 シカゴ

背景と目的

 日本では複数の経口フッ化ピリミジン製剤が承認されており、その利便性から広く使用されている。また、stage III結腸癌に対する標準的な術後補助化学療法としては、L-OHPを含むレジメンが世界で広く使用されているが、stage III結腸癌のサブグループにより治療成績は異なる1)。日本における無作為化比較試験では、stage III結腸癌に対して経口フッ化ピリミジン製剤単剤により5年DFS (disease-free survival) 71.3%と良好な成績を認めている2)。このため、フッ化ピリミジン製剤単剤投与はstage III結腸癌に対する術後補助化学療法として標準的な治療オプションである。

 ACTS-CC試験は、stage III結腸癌に対する術後補助化学療法として日本における標準治療であるUFT/LVに対するS-1の非劣性を検証する試験であり、結腸癌に対する術後補助化学療法としてのS-1の効果を評価した初めての報告である。

対象と方法

 治癒切除された20~80歳のstage III結腸癌患者が、S-1群 (体表面積により80, 100, 120mg/day, day 1-28, 6週毎, 4コース) またはUFT/LV群 (UFT: 体表面積により300~600mg/day, LV: 75mg/day, days 1-28, 5週毎, 5コース) に無作為に割り付けられた (図1)

 主要評価項目はDFS、副次評価項目はOS (overall survival)、有害事象、費用対効果であり、片側α=0.05、検出力80%、非劣性マージンHR=1.29としてサンプルサイズを算出したところ、必要症例数は1,480例であった。

図1

結果

 2008年4月から2009年6月までに登録された1,535例のうち1,518例が適格例であり、S-1群758例、UFT/LV群760例に割り付けられた。両群の患者背景に大きな差はみられず、D3郭清を伴うリンパ節郭清はS-1群80.5%、UFT/LV群79.1%、郭清リンパ節個数の中央値はそれぞれ18個、16個、stage IIIA / IIIB / IIICはそれぞれ14.0% / 72.7% / 13.3%、15.7% / 69.1% / 15.3%であった。

 観察期間の中央値41.3ヵ月におけるDFSは、3年DFSがUFT/LV群72.5%に対してS-1群75.5%であり、HR=0.85 (95% CI: 0.70-1.03) とS-1のUFT/LVに対する非劣性が認められた (非劣性p<0.0001) (図2)。なお、両群を統合したstage別の3年DFSは、stage IIIAが88.1%、stage IIIBが75.3%、stage IIICが52.8%であり (図3)、いずれもS-1群で良好な傾向にあった。また、OSについては3年OSがUFT/LV群92.7%、S-1群93.6%と差はみられなかった (HR=0.86, 95% CI: 0.62-1.19, p=0.3600)。

図2

図3

 プロトコール治療の完遂率はUFT/LV群73.4%、S-1群76.5%であった。有害事象は、口内炎 (S-1群、UFT/LV群として19.3% vs. 13.8%, p=0.0038)、食欲不振 (32.0% vs. 25.0%, p=0.0026)、皮疹/落屑 (15.1% vs. 10.0%, p=0.0031)、色素沈着過度 (26.6% vs. 12.7%, p<0.0001)、白血球減少 (18.0% vs. 12.4%, p=0.0027)、ヘモグロビン減少 (32.5% vs. 26.6%, p=0.0117)、血小板減少 (12.7% vs. 7.4%, p=0.0006) がS-1群で有意に高く、AST上昇 (15.1% vs. 20.3%, p=0.0077)、ALT上昇 (13.2% vs. 21.4%, p<0.0001) がUFT/LV群で有意に高かった。

 なお、今回の報告と既報のアジア人のgrade 3以上の有害事象をあわせて比較すると、経口フッ化ピリミジン製剤単剤投与はL-OHP併用と比べて血液毒性が低く、神経毒性は稀であった。また、日本人における下痢の頻度はアジア人全体と比して低く、S-1やUFT/LVにおいて手足症候群が発症することは稀であった (図4)

図4

結論

 Stage III結腸癌に対する術後補助化学療法として、DFSにおいてS-1のUFT/LVに対する非劣性が認められた。本報告における有害事象の特性はS-1とUFT/LVとで異なっていたが、有害事象の頻度・強度は忍容でき、治療完遂率は高かった。以上より、S-1による術後補助化学療法はstage III結腸癌治療の1つのオプションとなり得る。

コメント

 結腸癌に対する術後補助化学療法を検証した一連の試験にNSABP trialsのC seriesがある。そのなかのNSABP C-06試験で、結腸癌術後補助化学療法におけるUFT/LVの5-FU/LVに対する非劣性が証明された3)。我が国では、この結果をもってUFT/LVが結腸癌術後補助化学療法に用いる標準的な経口レジメンと考えられている。

 本試験によって、S-1が結腸癌術後補助化学療法においてUFT/LVと同等の効果を示す新たなオプションであることが示された。S-1とUFT/LVは、ともに5-FUのbiochemical modulationの理論に基づいて開発された薬剤、レジメンである。しかし、前者には腸管に上皮に限局するDPD阻害薬のオテラシルが配合されており、後者はTSの阻害に必須な葉酸を併用する治療法である。そのため、実臨床で経験する両者の有害事象のパターンはやや異なる。本試験の結果は、結腸癌術後補助化学療法における経口薬選択の幅を広げるものと歓迎できる。

(レポート:岩本 慈能 監修・コメント:大村 健二)

Reference
  1. 1) Gunderson LL, et al.: J Clin Oncol. 28(2): 264-271, 2010 [PubMed]
  2. 2) Hamaguchi T, et al.: Cancer Chemother Pharmacol. 67(3): 587-596, 2011 [PubMed]
  3. 3) Lembersky BC, et al.: J Clin Oncol. 24(13): 2059-2064, 2006 [PubMed] [論文紹介]

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