消化器癌治療の広場

特別座談会:大腸癌におけるRAS変異と検査−個別化医療の時代へ−
2014年11月26日 東京ステーションホテルにて

臨床試験におけるRAS解析

主要試験におけるRAS 解析の結果

砂川先生 砂川:これまでKRAS 変異はexon 2 (codon 12, 13) だけを検査していましたが、KRAS exon 2野生型からKRAS exon 3、4、NRAS exon 2、3、4の変異が「new RAS」変異として区別され、KRAS exon 2変異型と合わせて「RAS 変異型」として分類されるようになりました。
 ただ、臨床試験によってKRAS NRAS の測定部位や検査方法が異なることに注意が必要です。各臨床試験の共通点として、KRAS exon 2野生型のなかにnew RAS 変異が15〜20%程度あること、NRAS exon 4変異はほとんど検出されていないことが挙げられます2)。一方、CALGB80405試験ではKRAS exon 3変異が1.8%と、他試験と比べて低めでした。

 各臨床試験におけるPFSとOSのハザード比を、KRAS exon 2 野生型およびRAS 野生型で比較すると、ほぼ共通してRAS 野生型が良好です (図3)。1st-lineにおいて抗VEGF抗体薬と抗EGFR抗体薬を比較した3つの試験を例に挙げます。FOLFIRI + BevacizumabとFOLFIRI + Cetuximabを比較したFIRE-3試験のKRAS exon 2野生型の解析では、PFSに有意差は認めなかったものの (HR=1.06, p=0.55)、OSではCetuximab群で有意な延長を認めました (中央値25.0ヵ月 vs. 28.7ヵ月, HR=0.77, p=0.017)。その後のRAS 野生型における解析では、PFSの差に変化はなかったものの、OSの群間差は拡大しました (中央値25.6ヵ月 vs. 33.1ヵ月, HR=0.70, p=0.011)。また、FOLFOX + BevacizumabとFOLFOX + Panitumumabを比較したPEAK試験では、KRAS exon 2野生型の解析ではPFSに有意差を認めませんでしたが (HR=0.87, p=0.353)、RAS 野生型の解析ではPanitumumab群で有意な延長を認めました (中央値9.5ヵ月 vs. 13.0ヵ月, HR=0.65, p=0.029)。一方、FOLFOX/FOLFIRI + BevacizumabとFOLFOX/FOLFIRI + Cetuximabを比較したCALGB80405試験では、KRAS exon 2野生型の解析で主要評価項目のOSに有意差を認めず (HR=0.925, p=0.34) (図4)、RAS 野生型の解析でもOSの差は開きませんでした (図5)。
 ベースとなるレジメン別に見ると、1st-lineでFOLFIRIをベースとしたFIRE-3試験CRYSTAL試験では、KRAS exon 2野生型からRAS 野生型に絞り込むことでOSにおける抗EGFR抗体薬の延長効果がより認められた一方、FOLFOXをベースとしたPRIME試験PEAK試験OPUS試験CALGB80405試験では、一貫した結果が得られていません (表1)。
 また、KRAS exon 2変異とnew RAS 変異の影響を比較すると、FOLFOXに対するCetuximabの上乗せ効果を比較したOPUS試験では、KRAS exon 2変異型ではCetuximab併用によりdetrimental effectがみられましたが、new RAS 変異型ではみられませんでした (表2)。また、FOLFIRIに対するCetuximabの上乗せ効果を検討したCRYSTAL試験では、KRAS exon 2変異型、new RAS 変異型ともにdetrimental effectは認めませんでした。抗VEGF抗体薬と抗EGFR抗体薬の比較試験では、症例数は少ないものの、FIRE-3試験におけるOSは、KRAS exon 2変異型ではCetuximab群が良好で、new RAS 変異型ではBevacizumab群が良好でした。一方、PEAK試験におけるnew RAS 変異型では、PFSはBevacizumab群で良好であったものの、OSはPanitumumab群が有意に良好であり (HR=0.41, p=0.020)、CALGB80405試験でもnew RAS 変異型におけるOSはCetuximab群で良好でした (HR=0.74)。
 つまり、KRAS exon 2野生型からnew RAS 変異を除外することによって、PFS、OSに改善が認められるものの、L-OHPベースレジメンでは一貫した傾向が認められず、new RAS 変異に関しては、ベースとなるレジメンや抗EGFR抗体薬の種類によって、治療効果や予後に与える影響が異なる可能性があります。

吉野:ありがとうございました。それでは続いて、植竹先生からRAS 解析について外科医の視点からお話いただきます。

次へ 前へ 目次
▲ このページのトップへ
MEDICAL SCIENCE PUBLICATIONS, Inc
Copyright © MEDICAL SCIENCE PUBLICATIONS, Inc. All Rights Reserved