ESMO 2014 演題レポート
2014年9月26日〜9月30日にスペイン・マドリッドにて開催された ESMO 2014 Congressより、大腸癌や胃癌などの注目演題のレポートをお届けします。演題レポートの冒頭には、臨床研究の第一線で活躍する監修ドクターのコメントを掲載しています。
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大腸癌

Abstract #501O

CALGB/SWOG 80405試験:未治療の切除不能進行・再発大腸腺癌患者に対するFOLFIRI / mFOLFOX6とBevacizumabまたはCetuximab併用の第III相試験−拡大RAS 解析
CALGB/SWOG 80405: Phase III Trial of Irinotecan/5-FU/Leucovorin (FOLFIRI) or Oxaliplatin/5-FU/Leucovorin (mFOLFOX6) with Bevacizumab (BV) or Cetuximab (CET) for Patients (Pts) with Untreated Metastatic Adenocarcinoma of the Colon or Rectum (MCRC): Expanded RAS analyses
Heinz-Josef Lenz, et al.
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Expert's view

Stay tuned for CALGB/SWOG 80405 !

市川 度 先生

昭和大学藤が丘病院
腫瘍内科

 CALGB/SWOG 80405試験は、本年の米国臨床腫瘍学会年次集会においてKRAS exon 2 (codon 12, 13) 野生型 のデータが公開され、今回のESMOでLenz先生によりRAS 野生型のデータが発表された。RAS 野生型におけるOS中央値はBev群31.2ヵ月、Cmab群32.0ヵ月と両群間に有意差を認めなかった (HR=0.9, 95% CI: 0.7-1.1, p=0.40)。化学療法別の解析でも、mFOLFOX6、FOLFIRIともBev群とCmab群のOSに差を認めていない。
 KRAS exon 2野生型で新しくRAS 変異があると判定された症例では、Cmab群でOSが良好な傾向を認めた (HR=0.74, 95% CI: 0.4-1.1, p=0.21)。FIRE-3試験などのこれまでの報告からは予想もつかない結果である。予想もつかない結果を見たとき、臨床家は試験の質をまず疑問視し、その結果を受け入れない態度をとりがちである。そもそも、「RAS 変異型に抗EGFR抗体薬は無効」のエビデンスは、前向きに行われた臨床試験の終了後に後ろ向き研究として行われる“prospective-retrospective design”に基づいたものである。このデザインでは、再現性のある結果が複数の試験で既に得られている以上、今回のCALGB/SWOG 80405試験が異なった結果であっても、「RAS 変異型に抗EGFR抗体薬は無効」のエビデンスはレベルIのままで不変である。
 また、FIRE-3試験PEAK試験と異なり、CALGB/SWOG 80405試験ではRAS 野生型におけるOS延長がCmab群で認められなかった。今回の発表は、約60%の症例を対象とした「work in progress」の中間解析であり、結論は今後の発表を待つべきであろう。RAS 野生型を検討した今回の約60%の症例はKRAS exon 2を検討した症例の患者背景と差がないと述べられた。しかし、有意差検定はされていなものの、RAS 野生型のCmab群ではPalliative intent、Primary in place症例が少なく、Liver metastases only症例が多く認められ、中間解析ゆえに起きた選択バイアスの可能性もあろう。さらに、RAS 野生型におけるFOLFIRI + CmabのOSはFIRE-3試験33.1ヵ月、CALGB/SWOG 80405試験32.0ヵ月と再現性があるが、RAS 野生型におけるFOLFIRI + BevのOSはFIRE-3試験25.6ヵ月、CALGB/SWOG 80405試験35.2ヵ月と、試験間比較ではあるもののOSが大きく異なっている。やはり、Lenz先生が述べたように、RAS 野生型における結論は、今後のRAS 解析や1st-lineの治療強度と治療期間、2nd-lineなどの詳細データも合わせて考えるべきであろう。
 ESMOは終わっても、結局、CALGB/SWOG 80405試験は “Stay tuned” (TVチャンネルはそのまま!) である。チャンネルを替えなかったものの、気がついたら放送中止で“Never ending story”だったという事態だけは避けて欲しいものである。
背景と目的

 CALGB80405試験では、KRAS exon 2 (codon 12, 13) 野生型の切除不能進行・再発大腸癌に対する1st-lineにおけるFOLFIRIまたはmFOLFOX6との併用療法としてBevacizumab (Bev) とCetuximab (Cmab) を比較検討した結果、OSおよびPFSで差がないことが示された。一方、KRAS NRAS の他のcodon変異の活性化も、EGFR阻害剤への抵抗性に関連することが報告されている。そこで、RAS 野生型における治療効果を評価するために探索的解析を行った。
対象と方法

 RAS 変異の解析にはBEAMing法1, 2)を用い、KRAS exon 2 (codon 12, 13)、exon 3 (codon 59, 61)、exon 4 (codon 117, 146)、NRAS exon 2 (codon 12, 13)、exon 3 (codon 59, 61)、exon 4 (codon 117, 146) のミスセンス変異をスクリーニングした。なお、臨床に使用される可能性のある他の検査法に則り、カットオフ値は1%とした。
 KRAS exon 2野生型の1,137例のうちRAS の評価が可能であったのは670例 (59%) であり、実際に解析が行われた621例のうち95例 (15.3%) で新たなRAS 変異が同定された (図1)
図1
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結果

 RAS 評価可能集団におけるBev群、Cmab群の患者背景は、ほぼ同等であった。また、RAS 評価可能集団における有効性は、KRAS exon 2野生型集団とほぼ同様であり、奏効率はCmab群で有意に良好であったものの (p<0.01)、PFS、OSでは有意差を認めなかった。
 RAS 野生型における解析では、奏効率はBev群53.8%、Cmab群68.6%とCmab群で有意に良好であった (p<0.01)。一方、PFS中央値はBev群11.3ヵ月、Cmab群11.4ヵ月であり、有意差を認めなかった (HR=1.1, 95% CI: 0.9-1.3, p=0.31) (図2)。同様に、OS中央値はBev群31.2ヵ月、Cmab群32.0ヵ月と両群間に有意差を認めなかった (HR=0.9, 95% CI: 0.7-1.1, p=0.40) (図3)。なお、KRAS exon 2野生型で他のRAS のいずれかが変異型の症例では、Bev群22.3ヵ月、Cmab群28.7ヵ月とCmab群で良好な傾向であった (HR=0.74, 95% CI: 0.4-1.1, p=0.21)。
図2
図2
図3
図3
 RAS 野生型における化学療法別解析では、mFOLFOX6ではOS中央値がBev群29.0ヵ月、Cmab群32.5ヵ月であり、Cmab群で良好な傾向であるものの有意差は認めなかった (HR=0.86, 95% CI: 0.6-1.1, p=0.2) (図4)。また、FOLFIRIではOS中央値がBev群35.2ヵ月、Cmab群32.0ヵ月であり、有意差は認めなかった (HR=1.1, 95% CI: 0.7-1.6, p=0.7) (図5)
図4
図4
図5
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結論

 切除不能進行・再発大腸癌の新規診断例はすべてRAS 検査を受けるべきであると考えられる。OSは30ヵ月以上が新たな標準であり、1st-lineは副作用の可能性を含め治療目標を反映すべきである。今後、dose intensity、治療期間、腫瘍部位、腫瘍縮小、2nd-line治療、抗EGFR抗体薬や抗VEGF抗体薬の新たなバイオマーカーなどのデータが集積されれば、FIRE-3試験と本試験との違いについて理解が進む可能性がある。
1) Dressman D, et al.: Proc Natl Acad Sci USA. 100(15): 8817-8822, 2003 [PubMed
2) Diehi F, et al.: Gastroenterology. 135(2): 489-498, 2008 [PubMed
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