ESMO 2013 演題速報レポート
ESMO 2013 演題速報レポート
2013年9月27日〜10月1日にオランダ・アムステルダムにて開催された The European Cancer Congress 2013 - ESMOより、大腸癌や胃癌などの注目演題のレポートをお届けします。演題レポートの冒頭には、臨床研究の第一線で活躍する監修ドクターのコメントを掲載します。
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大腸癌
Abstract #LBA17
FIRE-3試験におけるKRAS /NRAS および BRAF 変異の解析:KRAS exon 2野生型の切除不能進行・再発大腸癌に対する1st-lineとしてのFOLFIRI + CetuximabおよびFOLFIRI + Bevacizumabの無作為化第III相試験
Analysis of KRAS /NRAS and BRAF Mutations in FIRE-3: A Randomized Phase III Study of FOLFIRI plus Cetuximab or Bevacizumab as First-line Treatment for Wild-type KRAS (exon 2) Metastatic Colorectal Cancer Patients
Volker Heinemann, et al.
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Expert's view
RAS 野生型におけるOS中央値の差は7.5ヵ月に
山口研成先生

 FIRE-3試験は、ドイツのAIOグループが行った、世界初のCetuximabとBevacizumabを直接比較した第III相試験である。今年の米国臨床腫瘍学会でKRAS codon12, 13野生型においてFOLFIRI + Cetuximab群がFOLFIRI + Bevacizumab群に対してOS (overall survival) の中央値で3.7ヵ月の差を出して有意な延長を示した。
 抗EGFR抗体薬はKRAS 遺伝子に変異があると効果がないばかりか、併用する抗癌剤の効果減弱を来してしまい、特にL-OHPベースの抗癌剤との併用でより減弱することが指摘されていた。そのため、様々なバイオマーカーの研究が行われ、より効果を発揮できる症例の絞り込みが模索されていた。このなかでは、抗EGFR抗体薬であるPanitumumabにおいてKRAS のcodon12, 13以外の変異や、同じRAS ファミリーであるNRAS の変異を除くこと (RAS 野生型) で、より効果が期待できる対象群が絞り込めることが、今年の米国臨床腫瘍学会で報告された (PEAK試験PRIME試験20020408試験) 。今回の報告では、同様の傾向がCetuximabでも認められるかという点、CPT-11ベースの抗癌剤併用によりどれだけ影響が出るかが注目されていた。
 結果は、RAS 野生型においてFOLFIRI + Cetuximab群がFOLFIRI + Bevacizumab群に対しOSのハザード比0.7、中央値で7.5ヵ月の差を出し、OSの改善を示す結果となった。
 厳格に言うとCALGB/SWOG 80405試験の結果を待つ必要があると思われるが、今後はRAS 野生型の1st-lineは抗EGFR抗体薬を加えた治療、RAS 変異型の1st-lineはBevacizumabを加えた治療へと、明確な棲み分けが進むことが予想される。
 また、これらの結果を臨床に用いるために、全てのRAS 遺伝子の変異に対する検査系の確立が急務である。

背景と目的

 FIRE-3試験 (AIO、KRK-0306) は、KRAS 野生型切除不能進行・再発大腸癌の1st-lineにおいて、FOLFIRI + Cetuximab (Cetuximab群) とFOLFIRI + Bevacizumab (Bevacizumab群) の有用性を比較する無作為化第III相試験である。本年の米国臨床腫瘍学会で、Cetuximab群はBevacizumab群に対して奏効率 (62 vs. 58%, p=0.183) 、PFS (progression-free survival) (10.0 vs. 10.3ヵ月, p=0.547) には差を認めなかったものの、OSにおいて有意な延長効果を示した (28.7 vs. 25.0ヵ月, HR=0.77, p=0.017) 。今回、事前に計画されたバイオマーカー解析を行ったので、その結果を報告する。

対象と方法

 KRAS exon 2 (codon 12, 13) 野生型の切除不能進行・再発大腸癌患者において、KRAS exon 3 (codon 61) 、exon 4 (codon 146) 、NRAS exon 2 (codon 12, 13) 、exon 3 (codon 59, 61) 、exon 4 (117, 146) およびBRAF exon 11、exon 15 (codon 600) の変異が奏効率、PFS、OSに及ぼす影響について解析を行った。
 各遺伝子の変異例は、KRAS exon 3: 4.3%、exon 4: 4.9%、NRAS exon 2: 3.8%、exon 3: 2%、exon 4: 0%、BRAF exon 11: 0%、exon 15: 10%であり、RAS 解析が可能であった407例のうち、342例が全てRAS 野生型で、65例 (16%) に何らかのRAS 変異を認めた (RAS 変異型) (図1)

図1:FIRE-3試験におけるRAS解析のダイアグラム
結果

 患者背景は、ITT解析 (KRAS exon 2野生型) 例とRAS 解析例との間でバランスがとれていた。なお、RAS 解析例における2nd-line治療は、Cetuximab群でL-OHP: 62.0%、Bevacizumab: 46.0%、抗EGFR抗体薬17.5%であり、Bevacizumab群でL-OHP: 63.1%、Bevacizumab: 15.4%、抗EGFR抗体薬43.8%であった。

 FIRE-3試験の主要評価項目である奏効率は、RAS 野生型でCetuximab群65.5%、Bevacizumab群59.6%と、ITT解析よりも差が広がったものの、有意差は認められなかった (表1) 。一方、RAS 変異型ではそれぞれ38.2%、58.1%とCetuximab群で不良な傾向にあった。

表1:奏効率
 RAS 野生型におけるPFS中央値は、Cetuximab群10.4ヵ月、Bevacizumab群10.2ヵ月であり、両群で同等であった (図2) 。一方、RAS 変異型では、それぞれ6.1ヵ月、12.2ヵ月であり、Cetuximab群で有意に不良であった (HR=2.22, p=0.004) 。
図2:RAS野生型におけるPFS
 RAS 野生型におけるOS中央値は、Cetuximab群33.1ヵ月、Bevacizumab群25.6ヵ月であり、Cetuximab群で7.5ヵ月延長し、有意差を認めた (HR=0.70, p=0.011) (図3) 。なお、RAS 変異型ではそれぞれ16.4ヵ月、20.6ヵ月 (HR=1.20, p=0.57) 、KRAS exon 2変異型でRAS 変異型の症例では、それぞれ20.3ヵ月、20.6ヵ月であった (HR=1.09, p=0.60) 。
図3:RAS野生型におけるOS

結論

 FIRE-3試験におけるRAS 解析では、RAS 野生型において奏効率、PFSでは有意差を認めなかったものの、OSはCetuximab群がBevacizumab群に対して中央値で7.5ヵ月の延長をみせ、ハザード比は0.70であった。一方、何らかのRAS 変異を認めた症例ではCetuximab群はBevacizumab群に対してベネフィットはみられなかった。 したがって、切除不能進行・再発大腸癌に対しては、RAS (KRAS NRAS ) 変異の検査が強く推奨される。全てのRAS が野生型における1st-line治療では、Cetuximabを含むレジメンが臨床的ベネフィットをもたらすと考えられる。

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