消化器癌治療の広場

特別座談会:大腸癌におけるRAS変異と検査−個別化医療の時代へ−
2014年11月26日 東京ステーションホテルにて

RASによるシグナル伝達と遺伝子変異

山崎:大腸癌ではEGFR経路の活性化が高頻度に認められています。EGFRの下流に存在するRASタンパクは癌の増殖などに重要な役割を持つことが知られており、EGFRからRASタンパクを介して増殖シグナルが下流に伝わり、腫瘍の増殖や進展に繋がります。
 RASタンパクは188〜189個のアミノ酸からなるGTP結合タンパクで、GDPと結合した状態では不活性型ですが、EGFRからの刺激によりGDPが離れ、代わりに細胞質からGTPが結合することで活性型になります (図1)。活性型RASは、その下流に存在するRAFやPI3KなどのRAS effectorsタンパクを通して、さらに下流に増殖シグナルを伝達します。活性型RASは、RAS自身が持つGTP加水分解活性 (GTPase) によりGTPが外れて不活性型に、再び結合して活性型になり、シグナル伝達の調整が行われています。しかし、RAS 遺伝子に変異が起こると、アミノ酸の置換により立体構造が変化し、GTPの結合を解除するGTPaseの機能が低下するため、恒常的な活性化状態となります (図2)。したがって、RAS 変異型には抗EGFR抗体薬の効果が期待できません。
 RASタンパクにはKRAS、NRAS、HRASなどのisoformが存在します。RAS 遺伝子変異は様々な癌腫で認められますが、癌腫によって変異の部位が異なり、膀胱癌や子宮頸癌において10%前後で認められるHRAS 変異は、大腸癌ではほとんど認められません1)。一方、胆道癌、大腸癌、膵癌ではKRAS 変異が多く認められ、大腸癌では特にKRAS exon 2 (codon 12, 13) 変異が最も多いことから、抗EGFR抗体薬のバイオマーカーとしてKRAS exon 2 (codon 12, 13) 変異検査が実臨床で広く行われています。

吉野:RASが恒常的な活性化状態になると抗EGFR抗体薬の効果が期待できないとのことですが、例えばKRAS NRAS の違い、あるいはcodon、もしくは置換されるアミノ酸の種類によって活性化状態に違いはあるのでしょうか。

山ア先生

山崎:RAS 遺伝子の変異部位によりRASの活性が異なることは確かですが、RAS活性の程度が抗EGFR抗体薬の不応とどのように関わるかは不明です。これまでKRAS のG13D変異やcodon 146変異症例に対して抗EGFR抗体薬が有効性を示したといった、変異部位により抗EGFR抗体薬の抵抗性が異なる可能性を示唆する報告もありますが、現時点ではRAS 遺伝子変異としてひと括りに考えていいと思います。

砂川:変異の頻度が低いcodonでは症例集積が十分でないため、臨床試験では抗EGFR抗体薬の効果を検証しきれていない部分があります。したがって、今後は治療を行いながら、変異部位ごとの影響を見極めていくことになると思います。

吉野:ありがとうございます。それでは、臨床試験のRAS 解析に話題を移します。まず砂川先生から、主要な臨床試験におけるRAS 解析の結果をご説明いただきます。

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