消化器癌治療の広場

特別座談会:大腸癌におけるRAS変異と検査−個別化医療の時代へ−
2014年11月26日 東京ステーションホテルにて

臨床試験におけるRAS解析

外科医の視点から

植竹先生 植竹:今回は外科医の立場から、効果の深さ (Depth of Response: DpR) について考えてみたいと思います。腫瘍縮小については、これまでは奏効率、つまり腫瘍が30%以上縮小する症例の割合が指標とされてきました。FIRE-3試験では奏効率が主要評価項目でしたが、KRAS exon 2 野生型でBevacizumab群58.0%、Cetuximab群62.0%、RAS 野生型ではBevacizumab群59.6%、Cetuximab群65.5%であり、他の臨床試験でも60%前後と、抗EGFR抗体薬と抗VEGF抗体薬との間に差を認めていません。
 一方、DpRを最大腫瘍縮小度と解釈すると、過去の報告ではBevacizumab併用療法で30〜40%、抗EGFR抗体薬併用療法で40〜50%であり、FIRE-3試験の独立画像評価におけるDpR中央値は、KRAS exon 2野生型でBevacizumab群-32.9%、Cetuximab群-44.1% (p=0.0003)、RAS 野生型でBevacizumab群-32.3%、Cetuximab群-48.9% (p<0.0001) といずれも有意差を認め、RAS 野生型に絞ることで差は開きました (図6)。したがって、患者にとって大きな腫瘍縮小が求められる状況であれば、抗EGFR抗体薬を推奨できるエビデンスが揃ってきたと考えられます。

 例えば、肝限局転移の切除不能大腸癌では、腫瘍縮小度が大きい方がconversionできる可能性が高くなり、残肝量も増えます。また、conversionが行えなくても腫瘍量が多い場合に大幅な腫瘍縮小が望まれます。このようなケースでは、抗EGFR抗体薬の投与が考えられると思います。逆に、腫瘍縮小度ではなく1st-lineの継続・維持を重視する場合は、5-FU/LV + Bevacizumabによる維持療法を想定し、FOLFOX + Bevacizumabによる治療が候補に上がるでしょう。

吉野:手術を行うために腫瘍縮小が重要となる症例では抗EGFR抗体薬が、維持療法を重視したい症例では抗VEGF抗体薬が選択肢になるというお話でした。この場合、外科医の判断が基軸になりますが、世界共通の普遍的な基準とは定義しにくいという問題があります。長い歴史の中で、外科の手術適応の判断基準は定義されたことがないと思いますが、現在でも難しいのでしょうか。

植竹:厳密に定義することは難しいと思います。

砂川:抗EGFR抗体薬は症状緩和においても意義があると思うのですが、外科医のお立場からはどう思われますか。

植竹:腫瘍によって起こる症状の緩和を目的とした場合には、腫瘍縮小が重要なので、意義があると思います。また、抗EGFR抗体薬を使えずに治療終了した時の後悔は、抗VEGF抗体薬の時よりも大きいので、2nd-lineを行えるか危ぶまれる症例には1st-line治療で抗EGFR抗体薬を使うべきだと考えています。

吉野:術前/術後の化学療法に対するCetuximabの上乗せ効果を検討したnew EPOC試験では根治切除目的の患者のみが登録されましたが、Cetuximabによるdetrimental effectがみられました。一方、CALGB80405試験では根治切除目的の患者が15.6%いましたが、detrimental effectは特にみられませんでした。根治切除を目的に抗EGFR抗体薬を使用する際は、今後どちらの結果を踏襲して考えればよいのでしょうか。

植竹:腫瘍量が重要になると思います。new EPOC試験は肝転移巣3個以下が化学療法単独群で79.1%、抗EGFR抗体薬併用群で74.5%、腫瘍径3 cm以下が単独群50.7%、併用群45.3%に含まれていましたが、そのような少ない腫瘍量に対しては抗EGFR抗体薬の効果が発揮されにくいと思われます。new EPOC試験で、奏効率はCetuximab群で良好であったにもかかわらずPFSでdetrimental effectがみられたのは、肉眼的に見えなくなり切除できなくなった腫瘍が早期に再発した症例が多かった可能性があります。一方、CALGB80405試験は、根治切除目的の症例が約15%含まれているとはいえ、元々は切除不能として登録された症例であったため、腫瘍量が多かったと考えられ、抗EGFR抗体薬がプラスに働いたと考えています。

吉野:つまり、両臨床試験の根治切除目的の集団は背景が異なるため、両方のエビデンスを踏襲すべきだということですね。

室:DpRという現象は抗VEGF抗体薬より抗EGFR抗体薬のほうが大きく、それが何らかの影響を与えるという示唆には、同意します。その一方で、ESMO-GI 2014におけるFIRE-3試験のサブ解析では、KRAS exon 2野生型におけるCetuximab 群のDpRとPFS、OSとの相関係数がPFSは-0.54、OSは-0.38でBevacizumab群 (各-0.54、-0.34) とほぼ同等で、PFSよりもOSの方が低い結果でした3)。これはどのように解釈すればいいでしょうか。

植竹:DpRとPFS、OSは両群とも有意に相関しており、DpRが生存に寄与しているということは言えると思います。

吉野:通常のpalliativeな化学療法においてDpRがOSに与える影響はPFSよりも少ないものの、手術をして腫瘍量を減らすという外科医の観点では、少し解釈が異なってくるかもしれません。

山崎:DpRがOSに相関していることは明らかだと思いますが、OSには他の要素も影響している可能性があります。例えば、腫瘍の縮小状態を維持する期間や、縮小していなくても増殖しない (stableな) 状態を維持する期間も関連している可能性があります。

室:ConversionにDpRは重要な要素ですし、切除は患者の生存期間に大きな影響がありますが、全体としてのOSにどこまで影響を与えるかは別の問題として考える必要があるのかもしれません。

吉野:確かに、conversionが狙える症例とpalliativeな症例全体は分けて考えた方がいいですね。続いて、山中先生からRAS 解析について統計家の視点からお話いただきます。

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