山中:近年のバイオマーカー解析では、SimonやHayesらが重視したProspective-Retrospective Analysis(PRA)の考え方が認識されています4)。多くのバイオマーカー研究では、臨床試験や観察研究から偶然得られた検体にマーカーを測定して検討することが多いため、遺伝子解析の方法が場当たり的なものになったり、アーカイブサンプルの状態が悪かったりすることもあるでしょう。統計学的にも、解析可能なアーカイブサンプルの不足による検出力不足、様々な患者集団やエンドポイントに無秩序・不適切な統計解析を繰り返すことによるtype I errorの上昇、適切なコントロール(対照)がないことによるmisleadingな解釈など、様々な問題が生じます。一方、親研究となる臨床試験と同様に、事前の計画(プロトコール)をしっかり立てた上で、臨床試験のバイオマーカー解析が行われれば、結果的に後ろ向きのマーカー研究であっても、エビデンスの質は高まるため、そのような研究のエビデンスレベルにより重きを置く、というのがPRAの考え方です。PRIME試験のRAS 解析はPRAであり5)、解析検体数も多く、ITT集団とRAS 解析の集団における背景因子の偏りも特に見られません。また、PRIME試験の他にも総じて、治療ライン、抗EGFR抗体薬の種類を問わず、化学療法単独に対して再現性のある結果が一貫して得られているので、RAS 野生型に絞る、言い換えるとRAS 変異型を投与対象から外すことの有用性は高いエビデンスレベルにあると言えます。
抗EGFR抗体薬と抗VEGF抗体薬を直接比較した試験は3つあります。そのうち、PEAK試験とFIRE-3試験では、RAS 野生型の解析で両群間の差は拡大しました。一方、CALGB80405試験では、RAS 野生型の解析においてもHRは変化せず、症例数が減った分、KRAS exon 2野生型の解析に比べてp値が上昇した(p=0.34→p=0.40)という結果に留まりました。興味深いのは、CALGB80405試験のRAS 野生型解析の結果は、抗EGFR抗体薬の効果予測としてのRAS 検査の意義を、ある意味否定していると考えられることです。CALGB80405試験のRAS 解析が他の結果と異なることについては、10年の長期にわたる試験ですので、アーカイブサンプルの質やRAS 測定方法など多面的なことが影響しているように思います。
吉野:ありがとうございます。山中先生からRAS 解析についていろいろな問題提起をしていただきましたので、RAS 解析のディスカッションへと移りたいと思います。
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