消化器癌治療の広場

特別座談会:大腸癌におけるRAS変異と検査−個別化医療の時代へ−
2014年11月26日 東京ステーションホテルにて

Discussion

CALGB80405試験とFIRE-3試験の結果の不一致

吉野:まず、CALGB80405試験FIRE-3試験の結果が一致しない理由について、ご意見をお聞かせください。

砂川:まず、米国と欧州という地域性の違いが大きいと思います。また、CALGB80405試験は10年という長い期間をかけ時代をまたいで行われた試験なので、短期間で行われたFIRE-3試験とはまったく異なると考えます。

吉野:砂川先生は、FIRE-3試験の結果のほうが真実に近いと思われますか。

砂川:そうですね。ただ、ベースとなるレジメンの違いが一番大きいと思います。KRAS に与えるL-OHPとCPT-11の影響の違いを考える必要があり、一概に比較するのは難しいと思います。

山崎:試験の質と治療の質のどちらに重きを置くかによると思います。FIRE-3試験の方が試験の質が高いという印象がありますが、CALGB80405試験の方がOS中央値は長く、治療の質の差は少ないと思います。ただ、両試験の違いを考えるにはCALGB80405試験の情報量が少なすぎるので、1st-lineにおいて抗VEGF抗体薬と抗EGFR抗体薬のどちらを使用すべきかについては、まだ議論の余地があると考えています。

植竹:CALGB80405試験では、有害事象やそれに伴う患者拒否で治療中止になった症例が55.5%にのぼります。この結果がどちらに有利に出るかは分かりませんが、FIRE-3試験を行ったドイツや日本と大きく異なる点だと思います。

室:CALGB80405試験には根治切除目的の症例が約15%含まれており、それが全体の治療成績を高めている可能性もあると思います。また、全体の約9%の症例が術後補助化学療法を受けていること、米国の状況を考慮すれば、それらのほとんどがL-OHPベースの治療であることも、何らかの影響を与えている可能性があります。

RAS 野生型における抗EGFR抗体薬

吉野:一連の臨床試験の結果から「RAS 変異型には抗EGFR抗体薬を投与しない」ということにはコンセンサスが得られたと思うのですが、いかがでしょうか。

砂川:そうですね。現段階ではRAS 変異は抗EGFR抗体薬のnegative predictive marker、負の効果予測因子であると思われます。

吉野:それでは、RAS 野生型に関しては、まだ抗EGFR抗体薬が第一選択薬であるとは必ずしも言えない、という結論でしょうか。

室:そう思います。

山崎:ただ、RAS 野生型に絞り込むことによって、これまでより第一選択薬として用いられる頻度は高くなる可能性があると思います。

吉野:より効果の高い患者に絞り込むということは、肺癌におけるEGFR変異に対するGefitinibのようにpositive selectionになったと言ってもいいのでしょうか。

山崎:GefitinibなどEGFRチロシンキナーゼ阻害剤のように、単一遺伝子に対して奏効率が60〜70%を超えるくらいでないと、positive selectionとは言えないと思います。

室:現時点では完全なpositive selectionにはなっていないので、悪影響がある集団を除外し、有効例のenrichに期待するという両面があると思います。ただ、OSで抗EGFR抗体薬が抗VEGF抗体薬を下回った試験は1つもないので、OSに関するbenefitは一貫しています。

吉野:それでは、実臨床でRAS 野生型の切除不能進行・再発大腸癌患者が来た場合、1st-lineとして抗EGFR抗体薬と抗VEGF抗体薬のどちらを使用しますか。

室:実臨床では、抗VEGF抗体薬に比べて抗EGFR抗体薬に若干の生存benefitがあるというエビデンスを説明したうえで、harmとbenefitのバランスや、患者さんの希望などを総合して選択します。

山中:その場合のharmとは何ですか。

室:やはり皮膚障害です。いずれにしても後治療で抗EGFR抗体薬を使用することになりますが、仕事などをしていて現段階で皮膚障害が発現するのは困るという患者さんなどにとってはharmになると思います。

山中:抗EGFR抗体薬と抗VEGF抗体薬の比較では、「OS延長のbenefit」と「皮膚障害」とのrisk-benefitバランスをどう評価するか、ということですね。ただ、FIRE-3試験CALGB80405試験の結果に差異があったこともあり、そのrisk-benefitバランスが比較できず、どちらが第一選択薬とは言い切れないということでしょうか。

吉野:現在米国の施設にいる砂川先生にお聞きします。米国ではもともと抗VEGF抗体薬が主流でしたが、RAS 野生型の第一選択はどちらになるのですか。

砂川:実臨床では、まだ抗VEGF抗体薬を第一選択とする医師が多いと思います。私の施設では原発巣の部位を使い分けの参考にしています。横行結腸の中央より左側なら抗EGFR抗体薬、右側なら抗VEGF抗体薬を使用することを考慮しています。

吉野:FIRE-3試験などでも抗EGFR抗体薬の左側における有効性は示されていますが、日本ではあまり見られない使い分けですね。

RAS 検査の意義

吉野:RAS 変異型には抗EGFR抗体薬を投与しないことには同意をいただきましたが、先ほど山中先生から問題提起いただいたように、CALGB80405試験ではKRAS exon 2野生型とRAS 野生型いずれもCetuximab群とBevacizumab群に差はありませんでした。この試験の結果を見ると、RAS 検査の意義があるのかという疑問が出ます。

山崎:私は、RAS 検査については試験の質の高いPRIME試験の結果がすべてだと考えています。もともとKRAS exon 2検査だけではselectionが不十分ではないかと思っていたのですが、PRIME試験RAS 解析の結果を見て、完全ではないものの納得できました。PRIME試験の結果を第一に考え、必ずRAS 検査を行うべきだと思います。

吉野:つまり、RAS 検査の意義に関してはPRAであるPRIME試験を基軸に考え、その他の試験は補助的な位置づけだということですね。

植竹:より効果の高い集団にenrichするために、RAS 検査が必要だと思います。したがって、RAS 野生型に対しては、今まで抗VEGF抗体薬を使っていたケースでも抗EGFR抗体薬を使用するということもあると思います。

吉野:もう1つディスカッションしておきたいのは、PRIME試験のように抗EGFR抗体薬の上乗せ効果を検討した試験と違い、抗VEGF抗体薬を対照とした比較試験では、対照群の効果もRAS 変異により変わる可能性があるということです。抗VEGF抗体薬がRAS 変異による影響を受けるとお考えでしょうか。

砂川:機序は分からないのですが、臨床試験の結果を見ると、抗VEGF抗体薬でもRASが効果予測因子になる可能性があると思います。そう考えれば、FIRE-3試験CALGB80405試験の見方が違ってきます。

吉野:BBP (Bevacizumab beyond progression) を検討したTML試験では、KRAS exon 2変異型よりもKRAS exon 2野生型の方がOS、PFSともに良好でしたね。

室:TML試験ではOSで大きな差が出ていましたし、CALGB80405試験における抗VEGF抗体薬の治療成績もKRAS exon 2野生型よりもRAS 野生型の方が良好なので、抗EGFR抗体薬との差が出にくくなっているのだと思います。

吉野:ここまでのお話から、RAS 検査の意義に関してはコンセンサスがとれたと思います。今後、日本でも臨床導入していく必要がありますが、山崎先生からRAS 検査と実臨床ということでお話いただきます。

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