消化器癌治療の広場

特別座談会:大腸癌におけるRAS変異と検査−個別化医療の時代へ−
2014年11月26日 東京ステーションホテルにて

em>RAS </em>検査と実臨床

山崎:これまで報告されたRAS 解析において測定されたcodonは、試験によって少し異なるものの (表3)、大規模試験の多くではKRAS exon 3 (codon 59, 61)、exon 4 (codon 117, 146)、NRAS exon 2 (codon 12, 13)、exon 3 (codon 59, 61)、exon 4 (codon 117, 146) が測定されており、KRAS exon2野生型の中にこれらのnew RAS 変異が15〜20%認められています (表4)。また、検査法は試験によって異なり、サンガー法 (ダイレクトシークエンス法)、SURVEYOR法、BEAMing法などが使用されており、測定感度限界も検査ごとに異なっています (表5)。
 ダイレクトシークエンス法は、未知の変異、欠失も検出可能ですが、感度が10〜25%と低いことに加え、必要なDNA量が多くRASのように広い範囲を検査するには手間がかかることが問題になります。SURVEYOR法は比較的簡便で5%という高感度で検出できますが、特定の変異パターンや設定したパターンしか検出できず、変異パターンが分からないため、PRIME試験などではダイレクトシークエンス法と組み合わせて使用されています。
 BEAMing法は、CRYSTAL試験CALGB80405試験などで用いられています。最大0.01%と極めて高感度で、カットオフ値を決めて検出することができますが、やはり指定したcodonのみが対象になります。CRYSTAL試験において0.1〜20%までカットオフ値を設定した結果が報告されましたが、20%ではCetuximabによる上乗せ効果が認められませんでした8)。感度が低いためにnegative selectionができておらず、現状で報告されている1〜10%が適正だと考えられます。
 そして、Luminex®法を用い日本で開発されたRAS 検査キットが「MEBGENTM RASKET KIT」 (RASKET) です。RASKETは、一度に96検体、48の変異のパターンを4.5時間で測定でき、感度も1〜5%と良好です。RASKETの性能を評価するため、大腸癌患者のサンプルを用い、ダイレクトシークエンス法およびScorpion-ARMS法 (TheraScreen® KRAS 遺伝子変異検査キット) を対照法として一致率を検討したRASKET試験を行った結果、検出されたRAS 変異の一致率は96.7% (95% CI: 94.1-98.4%) と、臨床的有効性が示されました (表6)。また、KRAS exon 2野生型191例中29例 (15%) でnew RAS 変異が検出され、対照法との一致率は98.4% (95% CI: 95.5-99.7%)でした。RASKETはCEマークを取得しているため欧州では既に販売されており、日本では現在承認申請中です。
 各検査法の利便性や感度などを考慮すると、RASKETとBEAMing法の有用性が高いと考えられ、日本でRAS 検査が適応となれば、臨床性能試験が終了しているRASKET が最初に使用可能になると思われます。なお、次世代シークエンサー (NGS) については、多数の遺伝子、未知の変異、CNV、fusionも測定できることが魅力的で、研究用には最適ですが、実臨床での使用はまだ遠いと思われます。

吉野:ありがとうございます。砂川先生にお聞きしたいのですが、米国におけるRAS 検査の状況はどうなっていますか。

砂川:私の施設ではそれほど普及しておらず、KRAS exon 2検査だけで行われていることが多いと思います。まだ確立されたRAS 測定法があまりないことが普及を妨げています。

吉野:欧州でもRAS 検査の普及率は30%程度と言われていますね。

砂川:確立されていない米国のRAS 検査とRASKETを実際の検体を用いて比較したところ、明らかにRASKETの検査の質が優っていました。ポイントの1つは、検体の質にあまり左右されないことです。日本の検体は病院でホルマリンの浸け方などによって断片化してしまうことがありますが、RASKETでは測定可能でした。

植竹:米国では手術で採取した時から病理によりホルマリンに浸けられ固定状態は統一されますが、日本では歴史的に病理検査を外科で行っており、検体の固定状態が統一されてきませんでした。遺伝子の抽出に影響を与える可能性があるので、RASKETは日本の実情に合致しているという印象を受けました。

RAS 検査の一般化における問題点

吉野:RAS 検査で問題になるのは測定codonです。これまでのRAS 解析でも試験によって測定するcodonが微妙に異なり、一部の変異型症例では抗EGFR抗体薬の有効性が認められたとの報告もあります。KRAS exon 3 (codon 59, 61)、exon 4 (codon 117, 146)、NRAS exon 2 (codon 12, 13)、exon 3 (codon 59, 61)、exon 4 (codon 117, 146) のnew RAS 変異を一律にRAS 変異型と判断してよいのか、それともcodonごとに考慮する必要があるのでしょうか。

室:20020408試験ではKRAS codon 146変異の1例でPRを認めています。ただ、このような例をどう扱えばいいのかは難しい問題ですね。

植竹:細かく検討する必要があれば一般臨床家が用いる検査法として成立しにくいので、detrimental effectがない範囲でまとめて考えるしかないと思います。

吉野:実臨床ではどうでしょう。KRAS exon 4 (codon 146) 変異は、20020408試験およびEuropean consortiumの報告でPR例を認めています9)KRAS exon 4 (codon 146) 変異患者に対して他の薬剤を使い切った場合、抗EGFR抗体薬の投与も考慮されるのではないでしょうか。つまり、残された治療選択肢とのバランスによっては、どのcodonに変異があるかは有用な情報となる可能性があります。

砂川:同感です。変異の場所は重要で、腫瘍医として考えておかなければならないことだと思います。

吉野:もう1つ重要な問題があります。RAS 検査では複数の変異を測定するため、一部の変異がエラーになる可能性があります。例えばNRAS exon 4だけでエラーが起こり変異の有無が分からず、それ以外は野生型であった場合、検体を再提出するのか、それともNRAS exon 4変異は頻度が極めて低いため、野生型と考えて抗EGFR抗体薬を投与するのでしょうか。

植竹:再検査の時間等も鑑みて、NRAS exon 4だけが不明なのであればRAS 野生型と判断したいところです。

吉野:そうですね。ただ、検体を再提出する医師もいるでしょうし、変異の可能性も考えて抗EGFR抗体薬を投与しない医師もいるかもしれません。RAS 検査により測定範囲が広がったことで、治療医の責務が大きくなってくるとも言えるのではないでしょうか。

室:確かにその通りですが、全国で実臨床として使用していくには、統一された見解が必要だと思います。

吉野:そうなると、指南役となるガイダンスのようなものが必要になりますね。それでは、室先生からガイドラインにおけるRAS 検査について解説していただきます。

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