CRYSTAL試験やOPUS試験では、KRAS野生型の転移性大腸癌患者に対する1次治療においてcetuximabの上乗せ効果が報告されている (2010年 消化器癌シンポジウム #281, #406)。本報告では、両試験よりKRAS野生型・BRAF変異によるcetuximabの有効性についてプール解析を行った。
KRASとBRAF変異は定量的PCR法で検査し、それらの遺伝子変異別の治療成績をlog rankとCochran-Mantel-Haenszel検定を用いて比較した。
CRYSTAL試験の1,198例中1,063例 (89%) およびOPUS試験の337例中315例 (93%) でKRAS解析が可能であり、KRAS野生型は各々666例、179例であった。その内、625例 (94%) 175例 (98%) についてBRAF解析が行われた。
検討項目は、overall survival (OS)、progression-free survival (PFS)、best overall response (ORR) とした。
今回のプール解析では、KRAS野生型の患者の8.8%がBRAF変異型であった。
KRAS野生型患者の一次治療にcetuximabを上乗せすると、OOR、PFS、OSが有意に改善した。最も良好な治療成績を示したのはKRAS 野生型/BRAF野生型の患者であった。
今回のプール解析では、KRAS野生型患者の1st-lineにcetuximabを上乗せすることで、OOR、PFS、OSのいずれにおいてもベネフィットが得られることが示された。また、BRAF変異型においても、cetuximabの上乗せ効果が確認された。BRAF変異の有無は転移性大腸癌に対する予後予測因子ではあるが、一次治療におけるcetuximabの効果予測因子にはなり得ないと考えられた。
KRASからのシグナル伝達の下流にあるBRAF遺伝子のstatusがcetuximabの効果に影響を及ぼさなかったことは予想外である。BRAFを迂回するシグナル伝達経路の存在が示唆される。今回の米国臨床腫瘍学会年次集会では、EGFRを取り巻くシグナル伝達経路の複雑さが複数の発表者によって指摘されていた。
なお、KRAS野生型/BRAF変異型の症例にも、KRAS野生型/BRAF野生型とほぼ同等のcetuximabの上乗せ効果があったことは朗報といえる。またBRAF変異型の症例は、数は少ないものの予後不良のsubsetであることも示された。このsubsetに光を当てて、サルベージを試みる努力が必要であろう。
(レポート:家接 健一 監修・コメント:大村 健二)