2010年 消化器癌シンポジウム 演題速報レポート 消化器癌治療の広場

2010年 消化器癌シンポジウム

演題レポート Presentations

KRAS 野生型大腸癌におけるcetuximab併用化学療法の有用性とBRAF 変異の影響:
CRYSTALおよびOPUS試験の最新報告

 2008年 米国臨床腫瘍学会年次集会(Van Cutsem E, et al.: abst #LBA2)にて発表されたCRYSTAL試験のサブ解析により、腫瘍のKRAS 変異が転移再発大腸癌に対するcetuximabの効果不良因子であることが示され、大腸癌化学療法はpersonalized therapyの時代を迎えた。その後、抗EGFR抗体薬併用化学療法が施行された転移再発大腸癌におけるKRAS statusの解析結果が相次いで報告され、KRAS 変異型では、抗EGFR抗体薬の治療効果が得られないことは明らかになった。

 KRAS に続き、抗EGFR抗体薬の効果予測因子として有力視されてきたのが、KRAS の下流に位置するセリン・スレオニンキナーゼのBRAF である。Di Nicolantonioらの報告では、既治療例における腫瘍のBRAF 変異が効果予測因子になり得ることが示唆されている1)

 今回、転移再発大腸癌における1st-line治療としてのcetuximab併用療法を比較・検討したCRYSTALおよびOPUS試験において、KRAS /BRAF 測定検体数を増やし、追跡期間を延長した最新の解析結果が報告された。本レポートでは、#281:CRYSTAL試験の最新結果、ならびに#406:CRYSTAL/OPUS試験のメタ解析の2演題を紹介する。

 

Cetuximab 併用化学療法はBRAF変異の有無に関係なく有用である

瀧内 比呂也先生

 近年の大腸癌化学療法における最大のトピックは、腫瘍のKRAS 変異がcetuximabの効果不良因子であることが示されたことである。今回、#281におけるCRYSTALの最新解析データでは、KRAS 解析症例数を2008年 米国臨床腫瘍学会年次集会で報告された540例(45%)から1,063例(89%)にまで増やして再検討し、以前に得られた解釈をよりsolidなものにしている。
 また、#406において、CRYSTALとOPUS両試験の統合解析結果が報告され、1st-line治療におけるKRAS 野生型患者に対するcetuximab併用化学療法の有用性が、奏効率、PFS、OSで示された。その一方で、BRAF 変異の有無は、cetuximabの治療予測因子ではなく、予後不良因子であることが明らかとなった。これは#281のCRYSTAL試験結果からも同様な結論が得られている。
 このことから、実臨床においてBRAF 検査を行うことのメリットは現時点では少なく、今後BRAF 変異を有する患者は、新たな分子標的治療薬のターゲットとして脚光を浴びることになろう。

 

Abstract #281
再発大腸癌におけるcetuximab+FOLFIRI療法:バイオマーカーとしてのKRAS BRAF の影響:
CRYSTAL試験の最新結果

Cetuximab plus FOLFIRI in the treatment of metastatic colorectal cancer (mCRC): The influence of KRAS and BRAF biomarkers on outcome: Updated data from the CRYSTAL trial.

Eric Van Cutsem, et al.

方法

 CRYSTAL試験は、オープンラベル無作為化他施設共同第III相試験である(2007年 米国臨床腫瘍学会年次集会: abst #4000)。
 一次エンドポイントはprogression-free survival(PFS)、二次エンドポイントはoverall survival(OS)、overall response(OR)、安全性とし、FOLFIRI療法に対するcetuximabの上乗せ効果を検討した。 今回はサブ解析として、腫瘍のKRAS /BRAF 変異の有無とPFS、OS、ORの相関をレトロスペクティブに検討した。

結果

 Intention to treat解析の対象は1,198例である。KRAS /BRAF 測定は、KRAS では1,063例(89%)、BRAF では1,000例(83%)と症例数を増やし再解析された[前回KRAS 540例(45%)、BRAF 529例(44%)]2)
 BRAF 変異型は6%に認められ(60/1,000例)、そのうち1例のみがKRAS BRAF ともに変異型であった。
 KRAS 野生型は63%(666/1,063例)であった。KRAS 野生型のうち、BRAF 野生型は91%(566/625例)、BRAF 変異型は9%(59/625例)であった。

 KRAS 野生型の治療成績(全体およびBRAF status別)を下表に示した。

表1 KRAS野生型の治療成績
結論

 1st-line治療におけるcetuximab+FOLFIRI療法は、KRAS 野生型大腸癌患者のOSを有意に改善し、また腫瘍のKRAS 変異の有無はcetuximabの効果予測因子であることが実証された。
 一方、腫瘍のBRAF 変異は、転移再発大腸癌に対する1st-line治療の予後不良因子であることが示唆された。また、BRAF 変異は大腸癌1st-line治療としてのcetuximab併用療法における効果予測因子にはなり得ず、BRAF 変異検査のベネフィットはないと考えられた。

Abstract #406
再発大腸癌に対する1st-line治療としてのcetuximab併用化学療法:
KRAS およびBRAF 遺伝子変異によるCRYSTAL試験とOPUS試験のメタ解析

Cetuximab with chemotherapy (CT) as first-line treatment for metastatic colorectal cancer (mCRC): A meta-analysis of the CRYSTAL and OPUS studies according to KRAS and BRAF mutation status.

Claus-Henning Köhne, et al.

方法

 CRYSTAL試験およびOPUS試験のKRAS 評価症例を対象に、1st-line治療としてのFOLFOX/FOLFIRI療法とcetuximab併用療法の治療成績を比較・検討した。評価項目はPFSおよびORとした。
 KRAS /BRAF 測定は、前回の報告2-3)より症例数を増やし、再解析された。

  • KRAS status解析対象 :
CRYSTAL : 1,063/1,198例 (89%)
OPUS : 315/337例 (93%)
  • BRAF status解析対象 :
CRYSTAL : 1,000/1,198例 (83%)
OPUS : 309/337例 (92%)
結果

 両試験のプール解析によるKRAS 野生型の治療成績(全体およびBRAF status別)を下表に示した。OS、PFS、ORのいずれも、FOLFOX/FOLFIRI療法に比べ、cetuximab併用化学療法のほうが優れていた。

表2
結論

 今回のプール解析によって、KRAS 野生型における1st-line治療としてのcetuximab併用化学療法は、OSを有意に延長することが確認された。さらに、CRYSTALおよびOPUS試験の解析において既に示されていたPFS、ORの改善効果をより確固たるものにした。
 また、BRAF 変異の有無によるcetuximabの治療効果に違いはみられず、KRAS 野生型でかつBRAF 変異型の患者においても、cetuximabの併用効果が認められた。
 KRAS 野生型転移再発大腸癌患者における1st-line治療としてのcetuximab併用化学療法は、BRAF statusにかかわらず、OS、PFS、ORの全評価項目において有用である。

Reference
1) Di Nicolantonio F, et al.: J Clin Oncol. 26: 5705-5712, 2008
2) Van Cutsem E, et al.: N Engl J Med. 360(14): 1408-1417, 2009
3) Bokemeyer C, et al.: J Clin Oncol. 27: 663-671, 2009