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CASE 14 直腸癌 2006年7月開催

CASE14 写真

ディスカッション 1

切除可能例に対して、術前および術後化学放射線療法をいかに行うか

坂本:Controversialな症例を設定してみました。身体的所見や検査所見からは、おそらくDukes C、stage IIIと推察される症例です。

瀧内:検査所見2からは切除可能と判断してよいのでしょうか。

大村:そうですね。リンパ節の転移と腫大があり、mesorectumの脂肪織へ浸潤していますが、切除は可能だと思います。完全直腸間膜切除術(TME)で取り切れるかどうかはわかりませんが……。

瀧内:病変は切除可能とのことなので、自律神経温存の側方郭清を含む切除術を第一に考えます。直腸癌の術前化学療法を支持するエビデンスは全世界的にみてもありません。しかし、「完全に治るような治療法を希望」とあるので、もし試みるのであればFOLFOXによる術前化学療法も1つの選択だと思います。術前の放射線療法については、放射線療法後のTMEとTME単独を比較したDutch trial(Kapiteijn E et al. N Engl J Med 2001; 345: 638-646)では、局所コントロールは改善されましたが、生存率の改善には至っていません。日本では直腸癌に対し術前放射線療法を行うのは難しい状況で、私自身、実地臨床での経験はきわめて少なく、この症例に対して術前化学放射線療法を行うか否かは何ともいえません。しかし、将来的には、新規抗癌剤を含む術前化学療法や術前化学放射線療法が実施されるようになると思います。一方、術後化学療法についてはunderpowered studyではありますが日本においてもNSAS-CCのデータがあり、UFT 360mg/m2(5投2休、1年半)が現時点での標準的治療となっているものと考えられます。

大村:56歳で、考えうる最善の治療を希望されており、腫瘍は5cmと大きくはありませんが、リンパ節転移と脂肪織への浸潤があるので、術前に放射線化学療法を行いたいと思います。われわれの施設では、この症例のように腫瘍がTMEで取り切れない可能性がある場合、術前に放射線化学療法を行いたいと思います。肛門温存手術が十分に可能で、側方郭清については研究途上ですから、郭清を施行するかどうかは患者さんとの話し合いになると思います。術後化学療法は、NSABP C-07の結果からmFOLFOX 6を外来で施行することを考えます。術後放射線療法の有用性を示唆する無作為化試験がありますが、術前のほうがよりよい成績なので、術後放射線照射は施行しません。術後のフォローアップ間隔はASCOのガイドラインに従って最初の3年間は3ヵ月ごとの腫瘍マーカー測定と6ヵ月ごとのCT検査を行い、その後は年2回の腫瘍マーカー測定と年1回のCT検査を行います。

久保田:腫瘍はRS、Raに存在し、T3N2の可能性があります。この場合、術前化学療法のエビデンスはないので行いません。術前放射線+手術のメタアナリシスでは、局所コントロールは良好ですが生存期間は延長していません。また、大村先生がおっしゃったように放射線は術後よりも術前のほうが成績がよいようです。日本では一般的に自律神経温存のD3郭清が行われていますが、『大腸癌治療ガイドライン医師用2005年版』では自律神経を温存しても性機能、膀胱機能の問題が起こりうるとされています。この患者さんは「完全に治るような治療法」とのご希望ですので、インフォームド・コンセントを十分に行ったうえで自律神経温存の側方郭清を行います。術後化学療法は、LV/5-FUベースのRoswell Park regimen、あるいはNSABP C-06で証明されたLV/UFTを考慮します。ガイドラインでは、腫瘍マーカーの検査と問診を3ヵ月ごとに3年間、さらに1年に2回の画像診断を3年間、それ以降は半年ごとに腫瘍マーカーの検査、画像診断は1年に1回を5年間とされますのでこれを遵守すべきでしょう。

佐藤:『放射線治療計画ガイドライン・2004』では、T3〜4およびN0ないしN1は術前放射線療法か術後化学放射線療法の適応とされるので、いずれを行ってもよいと思います。術前補助療法のエビデンスは確立していないため、通常、術前に非治癒因子がない場合は治癒切除を目指してまず手術を行い、その結果腫瘍の残存状況に応じて追加術後放射線療法あるいは術後補助化学療法を検討します。レジメは治癒切除であれば l -LV/5-FUあるいはUFT、LV/UFT、非治癒切除であれば切除不能の場合と同様のレジメを検討します。しかし、この患者さんのご希望を単なる腫瘍消失と理解すれば、つまり生存期間と無関係でも、まず完全治癒だけを追求する場合は、放射線療法の導入を考慮します。術前と術後の効果は同等ですが病理学的CRは術前のほうが多く、重篤な副作用も術前が少ないとのデータがありますので、術前放射線化学療法を選びます。放射線治療時に併用する化学療法は持続静注5-FUを選択します。

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