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CASE 14 直腸癌 2006年7月開催

CASE14 写真

ディスカッション 3

術前放射線療法および手術法をめぐる日本と欧米の違い

坂本:今回のような症例では、手術が困難になる前に迅速に治療を進めるという考え方になります。お2人の外科医の意見が分かれましたが、大村先生は術前化学放射線療法を行い、基本的に側方郭清は行わないというお考えで、久保田先生はむしろ術前補助療法は行わずにまずは自律神経温存の側方郭清というお考えですね。いま日本ではこの2つの方向に分かれていて、どちらが正しいとはいえない状況です。ただ、欧米ではIntergroup 0147などのように術前放射線療法が前提とされていて、術前放射線療法を行っていない直腸癌の論文はすべてacceptされません。ただ、術前放射線療法を行っていない症例は手術がうまくいく可能性が高いことは確かなようです。

瀧内:胃癌と同じで手術時のベースラインがまったく異なりますので、日本と欧米の成績を比較するには無理があります。日本にはJCOG0212という側方郭清とTMEの比較第III相試験がありますが、残念ながらリンパ節転移のない症例を対象にしているので、その結果が出ても、さらにもう1段階の検討が必要となる可能性が高いです。

久保田:転移がある場合は側方郭清の適応、という概念が崩せないですね。胃癌では、2006年のASCOで国立がんセンター中央病院の笹子三津留先生が標準的D2郭清とD2+大動脈周囲リンパ節郭清で差がないという報告をされました。日本ではこれまで側方郭清で十分にコントロールできていたので放射線療法が不要だったのか、あるいは根本的に放射線治療が不要なのかという疑問がありますが、これについては臨床試験を行うのは困難です。瀧内先生がおっしゃるように日本と欧米では手術時のベースラインが異なるのに、術前放射線療法を行わない論文を投稿するとacceptされない状況には無念の思いがあります。

坂本:欧米でもcontroversialではあるようですが、現実にはそういった論文は採用されません。
しかし、考えてみれば、慶應義塾大学病院や国立がんセンターでは当然のように側方郭清を行いますが、90%以上を占める日本の一般病院で側方郭清を実施しているところはおそらくほとんどないです。そこで、これらの一般病院に対して術前放射線療法や術前化学放射線療法を勧める、あるいは臨床試験を提案すべきかとも考えるのですが、いかがでしょう。

大村:そうですね。胃癌の場合でも同様ですが、どうしても郭清を広範に行っている施設の主張が目立つので、広く切除すればするほどよいということになりますが、ではいったいどこまで切除すればよいのかという問題が生じます。ところが、胃の場合は以前のN4、現在のN3のbulkyな転移を郭清する意義がないことが判明するとともに、大動脈周囲リンパ節郭清の適応は縮小しました。そして、今回の笹子先生の発表に至ったわけです。同じことが直腸癌の側方郭清についてもいえる可能性があります。なお、直腸癌に対する大腸癌研究会のプロジェクト研究として行われた側方郭清に関する後ろ向きの検討結果が『大腸癌治療ガイドライン医師用2005年版』に載っています。腫瘍の下縁が腹膜翻転部より肛門側にあり、かつ、直腸壁を貫通している症例に側方郭清を行うと5年生存率が9%上昇すると「試算された」となっています。しかし、前向きの試験ではないため、残念ながら evidence level は低いと言わざるをえません。

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