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GI cancer-net 海外学会速報レポート 2015年6月 シカゴ

背景と目的

 近年、RAS 遺伝子解析が切除不能進行・再発大腸癌への抗EGFR抗体薬の使用において重要であることが示されている1,2)KRAS 野生型の切除不能進行・再発大腸癌に対する1st-line治療としてPanitumumab + mFOLFOX6とBevacizumab + mFOLFOX6を比較したPEAK試験では、Panitumumab群において良好なOS (中央値34.2ヵ月 vs. 24.3ヵ月, HR=0.62, 95% CI: 0.44-0.89, p=0.009) が認められ、RAS 野生型の症例においても同様の傾向 (41.3ヵ月 vs. 28.9ヵ月, HR= 0.63, 95% CI: 0.39-1.02, p=0.058) であった3)。一方、RECISTに基づいた奏効率ではPanitumumab群57.8%、Bevacizumab群53.5% (RAS 野生型: 63.6% vs. 60.5%)と両群に差を認めなかったが、近年では1st-line治療においてRECISTに基づいた奏効率ではなく早期腫瘍縮小 (early tumor shrinkage: ETS)、腫瘍縮小の深さ(depth of response: DpR)、効果持続期間 (duration of response: DoR) などの長期予後に影響を与える可能性が示唆されている2)

 本研究では、PEAK試験における両群の腫瘍縮小効果について解析された。

対象と方法

 PEAK試験に登録された症例のうち、RAS 野生型症例において、奏効率 (担当医評価)、DoR中央値 (最初に効果を確認してから病勢進行もしくは死まで)、無作為化から奏効までの期間 (time to response : TTR)、DpR (最も腫瘍が縮小した時点、もしくは進行を認めた時点でのベースラインからの腫瘍縮小率)、ETS (治療開始8週時点での腫瘍縮小率が20%もしくは30%を超えた症例の割合)、CEAの推移が検討された。

結果

 RAS 野生型の169例が解析され、そのうち154例でベースラインと8週時点の腫瘍縮小の評価が可能であった。
・奏効率はPanitumumab群64.8% (95% CI: 53.9-74.7)、Bevacizumab群61.7% (95% CI: 50.3-72.3)であった。
・TTR中央値はPanitumumab群2.3ヵ月 (95% CI: 1.9-3.7)、Bevacizumab群3.8ヵ月 (95% CI: 3.3-5.4) であった (HR=0.85, 95% CI: 0.58-1.25, p=0.4090)。
・DoR中央値はPanitumumab群11.4ヵ月 (95% CI: 9.7-13.6)、Bevacizumab群8.5ヵ月 (95% CI: 6.3-9.3) と、Panitumumab群においてより長い効果持続期間を認めた (p=0.0159)。
・DpR中央値はPanitumumab群65% (IQR: 48-87)、Bevacizumab群46% (IQR: 29-62) であり、Panitumumab群においてより深い腫瘍縮小を認めた (p=0.0007)。
・ベースラインからの腫瘍縮小はPanitumumab群において良好であった (図1)。

図1

・CEAは多くの時点においてPanitumumab群がBevacizumab群より低値であった (2)。75%以上のCEA低下を認めた症例はPanitumumab群55.6%、Bevacizumab群46.6%であった (OR=0.70, 95% CI: 0.35-1.38)。

図2

・8週時点で30%以上の腫瘍縮小が認められたETSの症例はPanitumumab群64%、Bevacizumab群45%であり、Panitumumab群で多かった (表1)。また、ETSを認めた症例では認めなかった症例と比較して、良好なPFSが得られた (ETS30%以上 12.8ヵ月 vs. ETS30%未満 9.7ヵ月, HR=0.54, 95% CI: 0.36-0.80, p=0.0019)。

1

結論

 PEAK試験においてPanitumumab群とBevacizumab群の奏効率に差はみられなかったが、Panitumumab群においてより早く、より深く、より持続期間の長い腫瘍縮小効果が認められた。このことはPanitumumab群においてOSやPFSが良好であったとの結果を支持するものと考えられる。

コメント

 PEAK試験は無作為化第II相試験であるが4)、mFOLFOX6に対するPanitumumabとBevacizumabの併用効果を比較したhead-to-headの臨床試験であり、2013年米国臨床腫瘍学会年次集会で報告されたFIRE-3試験5)とともにその結果が注目された。
 PEAK試験では、RAS 野生型症例において両群で奏効率に差を認めないものの、OSやPFSはPanitumumab群が良好であった。切除不能進行・再発大腸癌を対象とした従来の研究結果には、標準治療群と試験群の間にPFSの差を認めてもOSに差を認めないことが多かった。本試験では、この特徴的な結果に対し、TTRやDpRでその機序を説明することを企図した研究といえるであろう。
 本試験の結果は、FIRE-3試験と同様に、ETSとDpRの違いが両群のPFSとOSの差をもたらしたことを示唆するものである。また、肝転移に対するconversion therapyにおけるPanitumumabのBevacizumabに対する優位性をうかがわせる結果ともいえる。

 本邦でも、2015年4月にRAS 検査キットが承認を得たことでRAS 遺伝子検査が可能となった。抗EGFR抗体薬によるbenefitを受ける可能性が高い症例を選択し、化学療法の目的に合わせてその戦略を組み立てることが可能になったと考えられる。

(レポート:中村 将人 監修・コメント大村 健二)

Reference
  1. 1) Heinemann V, et al.: Lancet Oncol. 15(10): 1065-1075, 2014 [PubMed] [論文紹介]
  2. 2) Stintzing S, et al.: ESMO 2013: abst #LBA17 [学会レポート]
  3. 3) Schwartzberg LS, et al.: J Clin Oncol. 32(21): 2240-2247, 2014 [PubMed] [論文紹介]
  4. 4) Schwartzberg LS, et al.: 2013年消化器癌シンポジウム: abst #446 [学会レポート]
  5. 5) Heinemann V, et al.: 2013 Annual Meeting of the American Society of Clinical Oncology®: abst #3506 [学会レポート]
 

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