Discussion現地座談会

消化器癌における免疫療法

#LBA100:大腸癌のdMMRとPembrolizumab
ミスマッチ修復機構欠損を有する大腸癌における免疫チェックポイント阻害剤Pembrolizumab療法の効果を検討

室:ここからは、免疫療法の演題に移ります。まずは大腸癌の演題から、谷口先生お願いします。

谷口:本演題は、今回大腸癌で最も注目された演題だと思います。ミスマッチ修復機構の欠損 (deficient mismatch repair: dMMR) を有する癌は遺伝子変異数が極端に多いことが知られており、neoantigenの数も多いことから癌の増殖伸展への免疫寛容の関与が示唆され、PD-1阻害薬が有効である可能性が報告されていました。
 本試験では、dMMRを有する大腸癌 (コホートA)、MMR欠損のない (proficient mismatch repair: pMMR) 大腸癌 (コホートB)、dMMRを有する大腸癌以外の固形癌 (コホートC) の3群に分けて、抗PD-1抗体薬Pembrolizumabの効果を比較しました。

 発表にはなかったのですが、同時にpublishされた論文によると、主要評価項目であるirRCによる奏効を認めた症例が4例以上あった場合をpositiveとすることになっており5)、早々に4例以上がコホートAとCで達成されたため、有効中止となりました。そのため、症例数は各コホートで13例、25例、10例となっています。なお、コホートAは85%がリンチ症候群です。
 試験の結果、コホートAとCでは奏効例が多く、また、奏効期間が長いという特徴があり、奏効率はコホートAが62%、Bが0%、Cが60%でした (図4)。PFS (図5)、OSも同様の傾向を示しています。有害事象は従来から知られているものばかりで、膵炎や免疫系、内分泌系の異常が報告されていますが、全体としては軽度でした。また、病理組織学的評価では、dMMRはpMMRと比較してinvasive frontでのCD8陽性T細胞数やPD-L1発現が高い傾向にあったということです。
 以上のように、非常に有望な結果が得られたということで、国際共同第II相試験 (KEYNOTE-164) が計画されています6)

室:佐藤温先生、コメントをお願いします。

佐藤 (温):画期的ですね。dMMRを有する集団に対する抗PD-1抗体薬の効果を証明しただけでなく、PD-1経路が介在する抗腫瘍免疫応答阻害の解除が癌増殖を抑制するという理論を臨床的に証明したことは、素晴らしいと思います。今後、免疫治療戦略が現実的に期待できるものになったと考えられます。

坂本:もともとMSIが高い (MSI-H) stage II/III症例は予後良好であるという報告がありましたが7)、stage IVでは異なるのでしょうか。

吉野:MSI-Hのstage IV症例には化学療法の効果が低い報告はあります。Stage II/IIIの症例でも5-FUによる術後補助化学療法を行うと予後不良であるという報告がありますが7)、今回、その理由として、MSI-H症例はthymidylate synthase (TS) 発現が高いことが発表されていました (#3597)。やはりMSI-Hは特殊な腫瘍群だと考えられ、それに相応する薬が出てきた以上、MSI検査を行う体制を整えなければいけないと思います。ただ、MSIはリンチ症候群と関連するので、遺伝相談外来の問題もあり、単に測定するだけでなく包括的なケアが必要になります。

室:MSI-Hの患者は大腸癌ではどのくらいの頻度ですか。

吉野:日本人のstage IV患者におけるMSIのデータはないのですが、欧米では3~5%程度です8)。MSIはBRAF 変異と同様にethnic differenceがみられますが、stage II/IIIのデータから推察すると、欧米の半分ぐらいではないかと考えられます。

室:BRAF 変異とともに希少フラクションですね。

佐藤 (温):乳癌では既にMSI検査を実施しているので、大腸癌でも行うべきです。

中村:非小細胞肺癌では、全体の中の割合としては少ないですがALK 融合遺伝子陽性例に対してALK阻害薬が著明な効果を出しています。実際にバイオマーカーによる治療効果の著明な差を目の当たりにすると、患者数は少なくても測定するべきであると感じます。

寺島:Pembrolizumabは抗PD-1抗体薬ですが、PD-L1やPD-1の発現よりも、MSIの方が予後予測因子になるのでしょうか。

吉野:PD-1とMSIの関係はまだ検証されていませんが、PD-L1陽性の大腸癌で検討しても、同様の結果が出た可能性はあると思います。今回は、MSI-Hという特殊な腫瘍にリンパ球が遊走することが分かっていたためMSIが検討されましたが、他の対象に効果が無いというわけではありません。

室:どのバイオマーカーを検討するかという差だけですね。今回は、遺伝子変異数の多い腫瘍は免疫原性が高いのではないかと考えて検討したということだと思います。

吉野:今回の報告はMSI-Hに対するブレークスルーになる可能性があると思います。今後は免疫原性が低い腫瘍に免疫を働かせることが重要で、マイクロサテライト安定 (MSS) 腫瘍の周囲に、いかにリンパ球を遊走させるかという方向に議論が移っています。これが実現すれば、全大腸癌でブレークスルーが起こるでしょう。

室:今回、MSI-Hの他の固形癌でも有効性を示しているので、大腸癌以外の癌種でも注目すべきと考えます。

Lessons from #LBA100

  • dMMRを有する固形癌に対するPembrolizumabの有効性が確認された。
  • MSI-Hという特殊な集団に対して免疫チェックポイント阻害剤の有効性が認められた。今後、大腸癌や他の固形癌において、MSI検査を行う体制を整える必要があると思われる。

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