


切除不能の局所進行食道癌に対しては、cisplatin (CDDP) をベースにした放射線化学療法が標準治療であり、CDDPと5-FUには放射線化学療法との相乗効果があることもよく知られているが、その至適レジメンは確立されていない。 そこで、標準量CDDPによる放射線化学療法 (SDPF-RT) と、十分なエビデンスはないものの日本で広く使われている低用量CDDPによる放射線化学療法 (LDPF-RT) を比較・検討した無作為化試験が行われた。なお、第II相では両群の第III相実施のためのベネフィットとリスクを、第III相ではLDPF-RTのSDPF-RTに対する優越性を検討した。

対象は、1) 組織学的に扁平上皮癌、腺扁平上皮癌、類基底細胞癌と判明しており、2) 胸部食道に腫瘍が存在し、3) 明らかなT4や切除不能所属リンパ節を有する、4) ECOG PS 0-2の局所進行食道癌患者とした。治療スケジュールは下図の通りである。

一次エンドポイントをoverall survival (OS)、二次エンドポイントをcomplete Response (CR) 率、治療完遂率、PS毎の治療完遂率および有害事象とした。

2004年4月-2009年6月までに40施設から登録され、SDPF-RT群とLDPF-RT群に無作為に割り付けられた (各71例、計142例)。腫瘍深達度 (T1-3/T4) はSDPF-RT群が19例/51例、LDPF-RT群は15例/56例であった。観察期間中央値は9.9ヵ月であった。
OS中央値はSDPF-RT群13.0ヵ月に対しLDPF-RT群13.6ヵ月であり (p=0.43, HR=1.04)、1年OSならびに3年OSについても有意差は認められなかった。

また、有害事象やCR率、PS毎の治療完遂率についても、両群間に有意差は認められなかった。

本試験の結果より、局所進行胸部食道癌に対するLDPF-RTにはSDPF-RTより優れた点は認められず、依然としてSDPF-RTが標準治療であると考えられた。

5-FUの持続投与に低用量のCDDPを連日投与する方法は、1990年台の前半にbiochemical modulationの概念が流行した際に用いられ始めたものである。当時は、CDDPが細胞内の還元型葉酸を増加させることによって5-FUの抗腫瘍効果を増すと考えられており、さらにCDDPの副作用もほとんど出現しないとされていた。しかし、これらの点を裏付ける信頼性の高い研究結果や臨床成績は報告されていない。また、食道癌に対するCDDP+5-FUを用いた化学放射線療法 (CRT) のレジメンが統一されていないことは問題であった。本研究の結果が食道癌に対するCRTのレジメン統一への大きな一歩になることを期待する。
(レポート:家接 健一 監修・コメント:大村 健二)