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座談会

大腸がんに関する注目演題
#CRA3507/3508 N0147試験
術後補助化学療法としてのcetuximabの有用性

家接先生
瀧内:今年の“negative 米国臨床腫瘍学会年次集会”を象徴するようなAbstract #CRA3507/3508 N0147試験について、家接先生にご紹介いただきます。


家接:本試験はstage III結腸癌を対象に、術後化学療法としてのFOLFOX±cetuximab療法を検討したものです。#CRA3507ではKRAS野生型の検討を、#3508では変異型の検討を行いました。KRAS野生型は1,864例(FOLFOX単独群 : 909例、cetuximab併用群 : 955例)、KRAS変異型は717例(374例、343例)でした。
 一次エンドポイントである3年disease-free survival (DFS) は、KRAS 野生型および変異型でcetuximabの上乗せ効果は認められず、むしろFOLFOX単独群の生存曲線が上回っています(図4)KRAS野生型のcetuximab併用群では、70歳以上の治療成績が悪く、治療期間、dose intensityもFOLFOX単独群に比べて有意に劣っていました。結論としては、今回の検討ではKRAS statusに関係なく、cetuximabの上乗せ効果は認められませんでした。


瀧内:監修を担当された大村先生は、外科医としてどのようにご覧になりましたか。


大村:2029年 米国臨床腫瘍学会年次集会で報告されたNSABP C-08試験8)では、結腸癌に対する術後アジュバントとしてのmFOLFOX6に対するBevの上乗せ効果は立証されませんでした。そのため、今回の結果は、ある意味予想されたものであったと思います。なおKRAS野生型のcetuximab併用群では、特に70歳以上の落ち込みが激しいのですが、この群はコンプライアンスが悪く治療完遂率も低いのです(表4)。それが今回のnegativeな結果の一因だと思います。
 進行再発大腸癌の治療では、生存期間が数ヵ月延びればpositiveです。そこでは、cytostaticな効果でも意義を有するのです。一方、アジュバントの目的は治癒率の向上ですから、cytocidalな効果を発揮する薬剤が使用されなくてはいけないと考えられます。
 NSABP C-08試験、本試験ともに残念な結果ではありました。しかし、これらの結果は、延命を企図する進行再発癌に対する化学療法と、治癒率の向上を目指すアジュバントとは別個に考えるべきであることを示していると思います。「アジュバントにはcytocidalな薬剤を用い、できるだけ短期間のうちに残存した癌細胞集団を縮小させて治癒を目指す」という方向性が示唆されたと思います。


瀧内:FOLFOX+cetuximab療法は強力なレジメンとして期待されたわけですが、dose intensityが低かったですね。KRAS野生型のcetuximab併用群では、10サイクル時点のdose intensityがすべての薬剤で低く、本来FOLFOXで期待される効果すら得られなかったことが推測されます。


大村先生
大村:アジュバントの性質上、進行再発癌に比べると、どうしても脱落例が多くなります。また、これまでは進行再発癌に対して有効性が認められたレジメンをアジュバントに導入するという形で臨床研究が進められてきました。今後は、その手法についても反省する必要があるのかもしれません。


瀧内:KRAS野生型の治療完遂率を見ると、cetuximab併用群では70歳以上で51.1%、有害事象による中止も60-69歳および70歳以上では非常に多いです。また、grade 3/4の有害事象をみてみると、下痢が15%、皮膚毒性が19%と目立ちますね。


佐藤(温):下痢は、grade 3あたりから治療継続が難しくなってきます。アジュバントでFOLFOXを投与していますが、FOLFOXでも12サイクルを完遂するのはかなり厳しいです。そこに、さらに毒性の強い薬剤が入ってくるというのは大変だと思います。


瀧内:松阪先生はどう思われますか。


松阪:私は基礎的な面から、アジュバントでFOLFOX+cetuximab療法が効かなかった理由を考えてみました。血液中に流れている腫瘍細胞はEGFRを殆ど発現しておらず、ある程度の腫瘍塊になった時点で発現してきます。あくまで仮説ですが、おそらく転移の初期段階では腫瘍細胞がEGFRを発現していないために、アジュバントではcetuximabが効かないのではないかと考えました。


瀧内:松阪先生が指摘された内容は、ディスカッサントも強調していましたね。大津先生はいかがですか。


大津:FOLFOX+cetuximab療法は、アジュバントとしては毒性が強すぎるのだと思います。十分なFOLFOXの量を投与できないというのは、cetuximabの有用性以前の問題です。ただし、本試験とNSABP C-08試験の結果だけで、「分子標的薬全般がアジュバントに適していない」というつもりはありません。他癌腫での成功例はあるわけですから。


瀧内:アジュバントとしては、FOLFOX+cetuximab療法は難しいということですね。


Lessons from #CRA3507/3508
KRAS statusに関係なく、stage III結腸癌に対する術後補助化学療法としてのFOLFOXへのcetuximabの上乗せ効果は3年DFSおよびOSにおいて認められず、むしろFOLFOXに劣る傾向にあった。
KRAS野生型のcetuximab併用群におけるdose-intensityは全薬剤で低く、また治療完遂率も低かった。
Grade 3/4の下痢および皮疹の頻度が高く、術後補助化学療法としては忍容できなかった。
ただし、本結果とNSABP C-08試験の結果のみで「術後補助化学療法に分子標的薬は不要」と結論づけるのは早計である。