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座談会

胃癌に関する注目演題
#LBA4007 AVAGAST試験
進行胃癌に対するBevacizumabの有用性

瀧内:次は、今年の胃癌領域では最も規模の大きかったAbstract #LBA4007 AVAGAST試験について議論したいと思います。大津先生も4人のprincipal investigatorのうちのお1人です。山ア先生、簡単にご紹介いただけますか。


山ア:AVAGAST試験は、切除不能進行胃癌の初回治療例を対象に、XP(capecitabine + cisplatin)療法に対するBevの上乗せ効果を検討した国際共同試験です。2007〜2008年にかけて17ヵ国、93施設から774例が登録されました。
 一次エンドポイントであるOSはXP群10.1ヵ月、Bev併用群12.1ヵ月で、有意差は認められませんでした(図5)。二次エンドポイントであるPFSは5.3ヵ月、6.7ヵ月、p=0.0037、奏効率は測定可能病変を有する症例で37%、46%、p=0.0315でいずれも有意差が認められました。
 また、Bevの上乗せ効果には、地域差がかなりあります。例えば、アジアのOSはXP群12.1ヵ月 vs. Bev併用群13.9ヵ月であるのに対し、アメリカは6.8ヵ月 vs. 11.5ヵ月と4.7ヵ月の差を認めています(表5)。全体的に地域による患者背景因子、臨床的な違いが強調されました。


瀧内:非常に興味深い発表だったと思います。一次エンドポイントであるOSは、明らかに両群の曲線が開いているように見えますが、ハザード比が0.87で有意差は示されませんでした。寺島先生はどのように思われましたか。


寺島:PFSはかなりの差がついていたので、OSの差が縮んだのは2nd-lineの影響かと思いましたが、アジアの成績をみるとPFSも1.1ヵ月しか差がないのですね(表5)。2nd-lineに移行した家接先生症例の大半はアジアなので(248例/358例)、おそらく2nd-lineの影響ではないと思います。考えられることとしては、対照群の成績が地域で異なるのでそれが影響している可能性があることと、胃食道接合部癌 (GEJ) がアジアで少なく欧米で多いので、GEJに対する有効性があったのでは、という印象はあります。非常に惜しい結果だったと思います。


佐藤(温):私も残念で仕方がないというのが素直な感想です。今回の結果はnegativeでしたが、Bev自体には胃癌に対する活性はあると思います。実際、米国のCPT-11+cisplatin療法±Bevの第II相試験9)では良好な成績が得られていますので、何らかの症例に限定することで、その辺りはクリアできるかもしれません。


瀧内:佐藤先生のおっしゃった米国の第II相試験の報告9)では、Time to progression(TTP)に対するBevの上乗せ効果は3ヵ月程度で、OSも同じように延びているという、今回のアメリカ地区のようなデータでした。やはりBevには胃癌に対する活性があるのではないかというのが正直なところです。山ア先生はどう思われますか。


山ア:全体ではOSに有意差を認めませんでしたが、地域別の解析などからBevの効果が期待できるグループが存在するのではと考えています。より詳細なサブグループ解析を行うことで、何か突破口が見つからないかと考えています。特にアジア、日本のデータを見たいです。


瀧内:日本から188例が参加していますので、将来的にはそれなりのデータが見られるのではないかと思います。発表者のKang先生は日韓にも違いがあるようなことを示唆しておられたので、そこは議論になるのではないかと思いますね。吉野先生はどう思われますか。


吉野:アジアはベースラインの治療成績がよいので、それが今回の結果の大きな原因ではないかと思います。また、本試験でどの程度腫瘍組織を採取しているかわかりませんが、私はHER2陰性症例でpositiveな結果が出ればよいと考えています。ですから、追加解析には非常に期待しています。


瀧内:大村先生はいかがですか。


大村:Bev併用群のOSも決して悪くないのですが、アジアの対照群のOSがよすぎましたね。対照群のOSを地域別でみると、アジアで12.1ヵ月、アメリカで6.8ヵ月と、2倍近い差が開いています。極論を言えば、差を出すならアジアを除外して解析すればよいのでは、ということになりかねません。試験でpositiveな結果を出すために、対照群でもよい成績を出すような優秀な腫瘍内科医のいない施設で行うという風潮にならないことを願います。


瀧内:確かに、国際的には徐々に孤立化していくような気もします。


佐藤(武):私も大村先生と同意見で、対照群で倍近い差が出るというのはこれまでに見たことがなかったので、驚きました。


瀧内:対照群にこれほどの差があるというのは、大腸癌では見たことがありません。これは胃癌の特殊性というか、患者背景や化学療法開始時の腫瘍量の違いなどがあるような気がします。坂本先生はどう思われましたか。


坂本:私は日本が関与して行われた臨床試験については、かなり注意して評価するようにしていたのですが、AVAGASTはどこから見てもまったく文句のつけようのない、本当に完璧な試験ではないかと思っています。その意味では、大津先生に“Congratulation”と申し上げたいですね。患者登録のスピードも1年3ヵ月で774例と、非常に迅速でした。


瀧内:試験結果はnegativeにもかかわらず、会場の質問者の多くも“Conglaturation”と称えていましたね。それではここで、大津先生にご意見をいただきたいと思います。


Principle investigatorから見たAVAGAST試験


大津先生
大津:今回の結果はアジアがnegativeにしたという見方もできますが、Bev併用群のPFSは5.9〜6.9ヵ月で、地域差はさほどありません。ところが対照群は、アジアが5.6ヵ月であるのに対し、他地域では4.4ヵ月と、XP療法の過去の報告と比べても非常に悪い。このことがPFSに大きな地域差を生じた主な原因だと私は解釈しています。
 OSで有意差が得られなかった理由については、非常に解釈の難しいところです。他癌腫のBevの試験を見ても、PFSでは差がついていますが、OSでは差がついていないものも見受けられます。また、対照群できちんと有効性が得られている場合、OSで有意差を出すのは難しいのではないかと思います。例えば大腸癌でも、IFL±Bevでは大きな差が出ましたが10)、FOLFOX±Bevではわずかな差しか出ていない2)。これは肺癌も同様です。
 本試験の参加国は、ヨーロッパは東欧が中心で、アメリカは大半が中南米です。今回の米国臨床腫瘍学会年次集会でのShahらの報告11)では、modified DCF療法でOSは15.1ヵ月と優れた成績が得られています。もし本試験を北米・西欧中心で行ったら、今回のアジアと同様の結果になったのではないかと思います。
 この他にあげるとすれば、日韓と他地域の腫瘍量の違いもあると思います。日韓は胃癌の早期診断が浸透し、昔に比べて状態のよい症例が増えているように感じます。ですから、他地域の症例よりも登録例での腫瘍量が少ない可能性も考えられます。現在バイオマーカーを含めた患者背景の地域間差を検討中ですので、その結果に期待したいですね。
 私自身の理想としては、今後は日韓および北米・西欧とそれ以外の地域に分けて試験を行ったほうがよいのではないかと思います。また、ヨーロッパも徐々に2nd-line以降にシフトしつつあり、2nd-lineの国際共同試験に積極的に参加していきたいと考えています。


Lessons from #LBA4007
OS、PFS、奏効率はすべてXP+Bev併用群で良好な傾向にあり、PFSでは有意差が得られたが(p=0.0037)、一次エンドポイントであるOSのハザード比は0.87であり、XP療法に対するBevの上乗せ効果は立証されなかった。
対照群の成績に地域差が大きな地域差があり、アジアは良好であるのに対し、ヨーロッパ(東欧中心)およびアメリカ(中南米中心)では過去のXP療法の報告と比較しても不良な成績が多かった。
アジアと他地域の胃癌の診療レベルの差が、結果に大きく影響していると推測された。