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2月
愛知県がんセンター 薬物療法部 医長 谷口 浩也

膵癌 大腸癌

膵癌および大腸癌に対する、リンパ節を標的としたmKRAS特異的両親媒性ワクチンの第I相試験(AMPLIFY-201試験)


Shubham Pant, et al.: Nat Med. Jan 9, 2024 [Online ahead of print]

 膵管腺癌(PDAC)の93%、大腸癌(CRC)の50%で認めるKRASドライバー変異(mKRAS)は有望な免疫療法の標的である1,2)。過去の研究で、PDACやマイクロサテライト安定CRCに対して、ヒト白血球抗原(HLA)C*08:02に制御されたKRAS G12D特異的T細胞による治療を行い奏効が得られた3-5)。しかし、mKRAS標的T細胞療法は、特定の変異やHLA対立遺伝子に抑制され、複雑なロジスティクスを必要とし、製造コストが高く、サイトカイン放出症候群や神経毒性を伴う3)。対照的に、ワクチン療法は多様なHLAの背景下で内因性のmKRAS標的T細胞を誘導させる可能性があり、製造も簡便で、既製品で入手可能である。

 ELI-002 2Pは、両親媒性(Amph)修飾されたG12DおよびG12R mKRAS長ペプチドとToll様受容体9作動性CpG-7909 DNAの3成分からなるリンパ節標的ワクチンである。Amphワクチン成分はジアシル脂質で修飾されており、内因性アルブミン上の脂肪酸結合ポケットと結合することで、リンパ節への集積と抗原提示細胞への効率的な誘導が可能となる6,7)

 KRAS変異膵癌において、転移巣の43%でHLA class I発現が完全に消失しているが、原発巣では6%にとどまる8)。微小残存病変(MRD)において腫瘍切除後にELI-002 2Pを投与することで、(1)機能的なmKRAS特異的T細胞の増殖を誘導し、(2)末期病変におけるHLAの消失を回避することで抗腫瘍活性を高め、(3)T細胞の作用によりMRDの破壊を促し、腫瘍マーカーの減少と画像上での再発の遅延をもたらすと仮定された。

 AMPLIFY-201試験は局所治療後のPDACおよびCRCに対するELI-002 2Pの安全性、第II相推奨用量(RP2D)、有効性を検証した第I相マルチコホート試験である。

 対象患者は18歳以上のECOG PS 0または1であり、mKRAS G12DまたはG12R変異陽性で、局所療法を受け画像検査で病変を認めないがMRD陽性(ctDNA陽性または血清CA19-9かCEAの上昇あり)の再発リスクの高いPDACまたはCRC患者であった。

 主要評価項目は安全性(有害事象をCTCAE ver. 5.0で評価)、最大耐量(MTD)、RP2Dであった。副次評価項目は腫瘍バイオマーカー(ctDNAまたは血清腫瘍マーカー)の変化であり、探索的評価項目は免疫原性、無再発生存期間(RFS)などであった。

 25例の患者が登録され、2021年10月4日から2023年4月10日の期間にELI-002 2Pの投与が開始された。Amphペプチド2PはG12DおよびG12R抗原をそれぞれ0.7mgの固定用量とし、Amph-CpG-7909は3+3デザインを用いてコホート1、2、3、4、5においてそれぞれ0.1、0.5、2.5、5.0、10.0mgの5段階に漸増された。データカットオフ日である2023年9月6日の時点で、登録された25例の患者全員が解析の対象となった。

 患者背景は、年齢中央値61.0歳(37~77歳)、女性が60%、白人が84%であり、20例(80%)がPDACで、5例(20%)がCRCであった。患者の68%がIII期または少数転移(oligometastasis)を有するIV期であり、リンパ節転移陰性例は6例(24%)のみであった。全例が前治療で化学療法と手術を受けており、28%が放射線療法を受けていた。

 病勢進行により早期に治療を中止した患者は13例であり、毒性により治療を中止した患者はいなかった。患者の48%(12例)でELI002 2Pに関連した有害事象を認め、いずれもgrade 1または2であり、サイトカイン放出症候群および用量制限毒性は認められずMTDは設定されなかった。3例以上の患者で認めた治療関連有害事象は、疲労24%(6例)、注射部位反応16%(4例)、筋痛12%(3例)であり、治療関連死は認めなかった。RP2DはAmph-CpG-7909:10mgとなり、同用量は安全で忍容性が高く一貫してバイオマーカーの低下およびT細胞応答を認めたことから主要評価項目を達成した。

 副次評価項目である腫瘍バイオマーカーの反応は、ctDNAまたは血清腫瘍マーカー(CA19-9またはCEA)のベースラインからの変化で評価された。84%(21例)の患者でバイオマーカーの低下を認め、44%(11例)で30%以上の低下、32%(8例)で50%以上の低下、24%(6例:PDAC 3例、CRC 3例)でバイオマーカーの完全消失を認めた。

 PDAC患者の80%(16例)、CRC患者の100%(5例)でバイオマーカーの低下を認めた。また、G12R変異を有する全患者(5例)およびG12D変異を有する患者の80%(16例)でバイオマーカーの低下を認めた。G12D変異陽性患者(4例)で、G12D T細胞応答を制御することが報告されているclass I HLAアレルがないにもかかわらずバイオマーカーの低下を認めた。同様に、G12R変異陽性の全患者(5例)で、G12R T細胞応答を制御するHLA B*07:02がないにもかかわらずバイオマーカーの低下を認めた。また、脾臓摘出術を受けた全PDAC患者(4例)でバイオマーカーが低下し、50%(2例)で完全消失を認めた。

 探索的評価項目である免疫原性の評価は、全コホートの25例で行われ、84%(21例)でT細胞の応答を認めた。Amph-CpG-7909 5mgと10mgの2つのコホートの全患者(11例)でmKRAS特異的T細胞応答を認め、脾臓摘出後の全患者(4例)でT細胞応答を認めた。細胞内サイトカイン染色(ICS)アッセイでは、59%の患者においてCD4陽性T細胞とCD8陽性T細胞の両方でmKRAS特異的反応を認めた。免疫応答を認めた患者の86%(18例)で2つ以上のmKRAS抗原に対してT細胞応答を認め、52%(11例)で7つのmKRAS抗原すべてに対してT細胞応答を認めた。

 さらに、95%の患者でG12RおよびG12D以外の少なくとも1つのmKRAS抗原に対してT細胞応答を認め、免疫応答を認めた患者の95%でワクチンの抗原であるG12Rおよび/またはG12Dに対してT細胞応答を認めた。また、ベースラインで既存のmKRAS特異的T細胞を有していない患者全員(7例)でT細胞応答を認め、ELI-002 2Pによるde novoプライミングの可能性が示唆された。

 8.5ヵ月(中央値)のフォローアップで全生存期間(OS)とRFSが評価され、OS中央値は16.33ヵ月であった。中央値以上、中央値以下のT細胞応答を認めた症例のRFS(中央値)はそれぞれ未到達、4.01ヵ月であった(ハザード比=0.14、95%信頼区間:0.03-0.63、p=0.0167)。

 Amph修飾されたCpG-7909 DNAを用いることでリンパ管への分布が良好となり、サイトカイン放出症候群などの有害事象が軽減され、100倍の範囲(0.1mgから10mg)でAmph-CpG-7909の投与量を漸増し安全に投与、かつ強力な免疫応答が誘導された。ELI-002 2Pの主な有害事象は疲労、注射部位反応、筋痛などワクチン投与で一般的なものにとどまった。Amphを使用したプラットフォームは、ワクチンや免疫療法の安全性を向上させるために有用な可能性がある。

 ELI-002 2PによるT細胞応答と抗腫瘍効果は、mKRAS G12DまたはG12R変異に対するT細胞応答を制御する特定のHLA class Iアレルを有する患者に限定されないことが示唆された。この結果より、Amphワクチンの投与により、未知のHLAを介した広範な応答が促進された可能性が考えられる。これらの応答を解析することにより、mKRAS標的T細胞の新規のエピトープが明らかとなる可能性がある。

 その他の注目すべき点として、mKRAS抗原に対する交差反応性T細胞が挙げられる。G12DとG12Vの両方を認識するmKRAS特異的T細胞レセプターや、異なるmKRAS配列間で共有されるエピトープによる交差反応性応答などが過去の研究で示唆されているが、メカニズムの解明には本試験で観察された反応をさらに評価する必要がある。ワクチンの接種によりmKRASの広範な免疫反応が惹起されることで、抗原適応範囲が拡大し、抗原逃避を防ぎ、より持続的な効果につながる可能性がある。

 また、T細胞ワクチンと免疫チェックポイント阻害薬(ICIs)との併用が有望な可能性がある。本試験でELI-002 2P投与後にCD3陽性T細胞の腫瘍浸潤が認められた2例の患者では、いずれも後治療においてICIs投与後にctDNAの消失を認めた。膵癌においては先行研究でICIsの奏効率が0%と報告されており9)、注目すべき結果だと言える。

 本試験のlimitationとして、サンプルサイズが小さいこと、ほとんどが白人患者であったこと、追跡期間が限られていること、対照群がないこと、ELI-002 2Pの薬理活性の初期評価に探索的評価を用いたこと、治療前の生検組織がない患者6例の治療後のT細胞浸潤の解釈が不確かであったこと、Amphペプチド2Pの投与量が一定であったためペプチドの投与量が治療成績に与える影響の評価が困難であったことが挙げられる。

 本試験より、リンパ節を標的とするAmphワクチンの安全性と免疫原性に関する重要なProof of Conceptが得られ、ELI-002 2Pによる強力なT細胞応答とそれによる有望な臨床効果が示唆された。ELI-002の開発に関しては、7価のペプチドを含んだ製剤(ELI-002 7P:KRAS/NRASのG12D, R, V, S, A, CおよびG13D)の第I相および無作為化第II相試験であるAMPLIFY-7P試験(NCT05726864)が進行中であり、広範なKRAS変異を有する悪性腫瘍に対するAmphワクチンの有効性が期待される。


日本語要約原稿作成:国立がん研究センター中央病院 消化管内科 小倉 望



監訳者コメント:
ワクチン療法はがん治療の新時代を切り開く可能性を秘めているか?

 ワクチン療法において、mRNA技術は新型コロナウイルス感染症のパンデミックで大きな注目を集めた。最近、個別化されたネオアンチゲンがんワクチンは膵癌、非小細胞肺癌、大腸癌において有望な効果を示している。特にメラノーマでは、2023年のAACRでModernaはmRNAワクチン(mRNA-4157)とPembrolizumabを併用した第II相試験(KEYNOTE-942/mRNA-4157-P201)の結果を発表し、3年間の追跡調査の中期データではあるが、完全切除後の高リスク(Stage III/IV)メラノーマ患者の再発または死亡のリスクが44%低下したことを報告した。

 本研究では、Elicio Therapeuticsによって開発された両親媒性(Amphiphile)プラットフォームを用いて、免疫系のコアであるリンパ節に直接治療薬を投与する技術、すなわちリンパ節へのデリバリーを通じた活性化に重点を置いたワクチン療法である。ELI-002 2Pは、antigensとしてAmph修飾G12DおよびG12R mKRAS長ペプチドと、adjuvantsとしてAmph修飾トール様受容体9(TLR9)アゴニストCpG-7909 DNAからなる3成分のリンパ節標的ワクチンである。Amphワクチンの成分(antigensおよびadjuvants)は、注射後に内因性アルブミン(約65kDa)上の脂肪酸結合ポケットと結合する二酸化リピドで修飾され、分子の「ヒッチハイク」を引き起こし、リンパ節への蓄積とAPCへの効率的なデリバリーを向上させる。アルブミンは、MHC class Iでの抗原提示がユビキチン-プロテアソーム系によるプロセッシングによって行われること10)、MHC class IIでのオートファジーを介した抗原提示でもアルブミン由来のペプチド抗原が提示されることが示されており11)、MHC class I/IIのいずれでも抗原提示されると考えられている。実際、本研究では抗腫瘍効果は特定のMHC class Iを有する患者に限定されないことが示唆されている。またこのプラットフォームはPayloadとしてペプチドだけでなく、小分子、核酸、タンパクも搭載可能である。

 本研究から、リンパ節標的AmphワクチンのPoCと有望な臨床効果のシグナルが得られており、現在ELI-002の開発は、7ペプチド配合(ELI-002 7P: KRAS/NRAS G12D, R, V, S, A, C, G13D)を用いた試験が進行している。膵癌・大腸癌だけでなく、KRAS変異を有するさまざまな悪性腫瘍への応用が可能になると考えられ、その将来的な展望に期待が集まると考える。

  • 1) Biankin AV, et al.: Nature. 491(7424): 399-405, 2012 [PubMed]
  • 2) Prior IA, et al.: Cancer Res. 72(10): 2457-2467, 2012 [PubMed]
  • 3) Leidner R, et al.: N Engl J Med. 386(22): 2112-2119, 2022 [PubMed]
  • 4) Tran E, et al.: N Engl J Med. 375(23): 2255-2262, 2016 [PubMed]
  • 5) Ino Y, et al.: Br J Cancer. 108(4): 914-923, 2013 [PubMed]
  • 6) Supersaxo A, et al.: Pharm Res. 7(2): 167-169, 1990 [PubMed]
  • 7) McLennan DN, et al.: Drug Discov Today Technol. 2(1): 89-96, 2005 [PubMed]
  • 8) Ryschich E, et al.: Clin Cancer Res. 11(2 Pt 1): 498-504, 2005 [PubMed]
  • 9) Brahmer JR, et al.: N Engl J Med. 366(26): 2455-2465, 2012 [PubMed]
  • 10) Michalek MT, et al.: Nature. 363(6429): 552-554, 1993 [PubMed]
  • 11) Dengjel J, et al.: Proc Natl Acad Sci U S A. 102(22): 7922-7927, 2005 [PubMed]

監訳・コメント:国立がん研究センター中央病院 消化管内科 庄司 広和

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