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2月
愛知県がんセンター 薬物療法部 医長 谷口 浩也

胃癌 食道胃接合部癌

局所進行胃癌または食道胃接合部癌における周術期化学療法に対するPembrolizumab併用療法(KEYNOTE-585):多施設二重盲検無作為化第III相試験の中間解析


Shitara Kohei, et al.: Lancet Oncol. 25(2): 212-224, 2024

【背景】
 切除可能な局所進行胃腺癌・食道胃接合部腺癌の治療として、欧米ではFLOT4試験の結果に基づき、5-FU、Oxaliplatin、Docetaxelの3剤による周術期化学療法が行われている1)。アジアにおいても、術前を含む周術期治療の有効性が報告されている2,3)。切除不能な進行再発胃癌・食道胃接合部腺癌における一次治療(化学療法)への免疫チェックポイント阻害薬(immune checkpoint inhibitor: ICI)併用の有効性は示されたが、周術期におけるICIの有効性は明らかではない。そこで、周術期化学療法に対するPembrolizumab併用の有効性と安全性を検証する第III相試験として、KEYNOTE-585試験が行われた。今回は事前に設定された中間解析での結果である。

【対象と方法】
 対象は24ヵ国143施設における、切除可能な未治療の進行再発胃腺癌・食道胃接合部腺癌の患者で、18歳以上、ECOG PS 0-1、≧T3またはN(+)かつM0を適格とした。患者は、化学療法とPembrolizumabもしくはプラセボを行う群に1:1で無作為に割り付けられ、化学療法としては5-FU+Cisplatin(FP)もしくはCapecitabine+Cisplatin(XP)を行うメインコホートと、FLOTを行う少数例のFLOTコホートが設定された。層別化因子は、地域(アジアvs. 非アジア)、病期(stage II vs. III vs. IVa)、化学療法(FP/XP vs. FLOT)であった。

 主要評価項目は、メインコホートにおける中央判定での病理学的完全奏効(pCR)率と、event-free survival(EFS)およびoverall survival(OS)であった。副次評価項目は、メインコホートにおけるdisease-free survival(DFS)と、メインコホートおよび両コホートにおけるOS、EFSおよび安全性であった。本試験では、事前に3回の中間解析と最終解析が設定された。試験全体のαエラーは片側0.025に制御され、pCR率に0.0005、EFSに0.0245としてαが分配された。O’Brien-Fleming法により第3回中間解析におけるEFSの有意水準はα=0.0178とし、EFSの帰無仮説が棄却された場合のみOSについて検定される設定とした。

【結果】
 2017年10月から2021年1月までに804例がメインコホートへ、203例がFLOTコホートへ登録された。メインコホートでは402例ずつが、FLOTコホートでは100例と103例が、それぞれPembrolizumab群とプラセボ群に割り付けられた。両群の患者背景に偏りを認めず、メインコホートにおける年齢中央値は64歳、47%がアジア人であった。CPS≧1およびMSI-Hの症例はそれぞれ75%および9%であった。化学療法は804例中606例(75%)にXPが行われた。メインコホートでの、初回治療から第3回中間解析のデータカットオフ日(2023年2月)までの中央値は47.7ヵ月であった。Pembrolizumab群とプラセボ群のそれぞれ85%および83%において手術が行われ、両群とも48%の症例が術後補助療法を完遂した。

 第1回中間解析では、メインコホートのPembrolizumab群とプラセボ群のそれぞれにおいて、402例中52例(12.9%、95% CI: 9.8-16.6)と402例中8例(2.0%、95% CI: 0.9-3.9)がpCRであった。両群の差は10.9%(95% CI: 7.5-14.8、p<0.00001)であり、事前に設定された有意水準(p=0.0125)を達成した。なお、全コホートにおけるpCR率はそれぞれ13.0%(64/492)と2.4%(12/495)であった。

 第3回の中間解析では、メインコホートの49%(396/804)にEFSイベントまたは死亡イベントが生じた。EFS中央値はPembrolizumab群で44.4ヵ月、プラセボ群で25.3ヵ月であり(HR=0.81、95% CI: 0.67-0.99、p=0.0198)、事前に設定された有意水準(p=0.0178)を満たさなかった。また、両コホートにおけるEFSの中央値はPembrolizumab群で45.8ヵ月、プラセボ群で25.7ヵ月であった(HR=0.81、95% CI: 0.68-0.97)。一方、メインコホートにおいて804例中347例(43%)が死亡し、OS中央値はPembrolizumab群で60.7ヵ月、プラセボ群で58.0ヵ月であった(HR=0.90、95% CI: 0.73-1.12、p=0.174)。両コホートにおけるOS中央値はPembrolizumab群で60.7ヵ月、プラセボ群で未到達であった(HR=0.93、95% CI: 0.76-1.12)。EFSおよびOSのベネフィットは事前に設定した各サブグループ解析でも一貫した結果であった。

 Grade 3以上の有害事象はPembrolizumab群で78%、プラセボ群で74%に認められ、頻度の高い有害事象としては、悪心(60%/62%)、貧血(42%/40%)、食欲低下(41%/43%)であった。治療関連死はPembrolizumab群で4例(1%)、プラセボ群で2例(<1%)であった。Grade 3以上の免疫関連有害事象およびinfusion reactionとしては、Pembrolizumab群で10%、プラセボ群で3%に認められ腸炎(3%/1%)が最も多かった。

【考察】
 今回の試験では、コントロール群におけるpCR率は2%であり、既報から予想された5%よりも低い結果であった4,5)。また、EFS中央値は既報のFLOT4試験と同等の結果であったが、アジアで行われている周術期関連の試験と比較するとやや劣る結果であり、地域差による影響が考えられた。なお、本試験のメインコホートで用いられた化学療法はFLOTではなく、FP/XPであった。本試験は2017年6月に開始されたが、その後2019年にFLOT療法の有効性が報告された。そのため、少数例のFLOTコホートにおいてFLOT+Pembrolizumabの安全性を確認したうえで、メインコホートと合わせた有効性の検証が行われることとなった。

 周術期化学療法へのICI併用によるpCR率の改善は、FLOTとAtezolizumabを併用した第II相試験のDANTE試験6)や、Durvalumabとの併用を検証した第III相試験であるMATTERHORN試験7)でも確認されているが、生存率の改善は未だ報告されていない。なお、アジアで行われた術後補助化学療法へのNivolumabの上乗せ効果を検証した第III相試験であるATTRACTION-5試験では、Nivolumab併用によるDFSの改善を認めなかった8)。これらの結果からは、ICIの上乗せによる恩恵が得られる患者の特性を明らかにすることの重要性が示唆される。進行・再発例の一次治療では、PD-L1発現とICIによる治療効果との関連が報告されたが、今回のKEYNOTE-585ではCPS≧1におけるPembrolizumabの上乗せ効果は認められなかった。一方で、MSI-H症例における上乗せ効果は認められたが、今回はMSI-H症例の割合が少ないことに注意が必要である。

【結論】
 周術期化学療法にPembrolizumabを上乗せすることで、pCR率は有意に改善したが、EFSにおける改善はみられなかった。安全性に関しては、既報の進行・再発例でのICI併用の臨床試験においてみられた有害事象と遜色ない結果であった。


日本語要約原稿作成:国立がん研究センター東病院 消化管内科 青木 優



監訳者コメント:
周術期胃癌の薬物療法として、初めて行われたグローバル第III相試験で、免疫療法の統計学的な有意差を示すことはできなかった

 KEYNOTE-585試験は、抗PD-1抗体のPembrolizumabによる化学療法への上乗せ効果を検証したグローバル第III相試験であるが、残念ながら統計学的な有意差をプライマリーエンドポイントのEFSで示すことはできなかった。本報告は、3回目の中間解析の結果であり、OSに関しては今後、最終解析が予定されている。

 本試験は結果的にはネガティブ試験であったが、この試験からは多くの重要なメッセージが発信されたと思う。また、第一に周術期胃癌において薬物療法のグローバル試験が実現したことの意義が十分に大きいだろう。

 歴史的には、2000年までに切除可能胃癌では東西で大きな隔たりが生まれていた。欧米で行われた大規模臨床試験では、手術単独による切除可能胃癌の5年生存割合は20~30%であったのに対して、本邦や韓国においては、手術単独でも5年生存割合が60~70%と報告されていた。そのため、東西では切除可能胃癌は、“異なる”胃癌であるとさえ考えられていた。20年の時を経て、東西が同じ土俵で議論できる試験が実現し、結果が発信されたことは意義深い。

 残念ながらEFSでの統計学的有意差は示されなかったが、これは免疫療法に上乗せ効果がなかった訳ではない。pCRの意義については、議論はあるが、pCRには有意差が認められ、10%の上乗せ効果は他試験でも再現されていることから、免疫療法による効果の上乗せは胃癌周術期治療において期待できることを意味していると考える。EFSやOS(中間解析だが)で薄まっていることの解釈としては、免疫療法の上乗せがEFSやOSに反映されるためには十分に大きくなかったとも解釈できるだろう。MATTERHORN試験は、今後、プライマリーエンドポイントのEFSの解析が予定されている。バックボーンとなる化学療法が全例FLOTとなっている点が最も大きな違いではあるものの、基本的には、同じ対象に、抗PD-1/PD-L1抗体の上乗せ効果をみるという点では同様の試験である。非常に大雑把にいえば、2つの試験でのpCR率での上乗せが同程度であったことから考えて、化学療法に抗PD-1/PD-L1抗体を追加することの効果はKEYNOTE-585である程度見えているといえるだろう。統計学的には、サンプルサイズや中間解析によるαエラーの喪失などテクニカルな点での違いにより、試験結果そのものはKEYNOTE-585がネガティブで、MATTERHORNがポジティブということは十分にありうるが、内容的には“黒”と“白”ほどの違いはない。また、昨今、PRODIGY試験の長期フォローにより、OSでの術前DOSの効果が見られたことからも最終解析結果が出た際に、この試験への見方が少し変わる可能性はあり、現時点で評価するのは時期尚早な側面もあるだろう。

 いずれにしろ、コントロール群でのEFSを見る限り、現在の治療体系に満足する人はいないだろう。抗PD-1/PD-L1抗体単独を用いるのであれば、やはり免疫療法の効果がより期待できる集団に絞ることが重要であるとのメッセージから、盤石とはいえないまでもCPSが一定の指標と考える。ただMSI-Hに関しては、免疫療法単独での効果の大きさから、化学療法を併用すべきかあるいは、周術期のカテゴリーからも一線を画したとさえいえ、もはや同列に扱うべきではないだろう。さらに絞り込んだ集団だけでの、このような大規模試験は実現性がないため、絞り込みに関しては、今後MATTERHORN試験がポジティブとなった際の日常診療への外挿において議論される問題だろう。やはり当面は、抗PD-1/PD-L1抗体+αによる治療が期待される。

 本試験は、2016年から企画され、2017年から患者登録が開始された。2017年当時は、ATTRACTION-2試験の結果が出て、本邦の日常診療で、世界に先駆けてNivolumab単独療法が、切除不能進行・再発胃癌で使われ始めた時期である。このような時期から、一足、二足とびで周術期での免疫療法が議論されていたことに改めて驚嘆する。その結果、CheckMate 649、ATTRACTIOIN-4、KEYNOTE-859試験により、世界的に免疫化学療法が切除不能進行・再発胃癌で標準治療となってからほどなくのタイミングで、周術期の議論が行えるという恩恵が得られた。個人的には、有効な薬剤が届いた際に、できるだけタイムラグを少なく、より多くの患者さんに届けるための策が講じられていたことが、一番重要なメッセージであると感じた。

  • 1) Al-Batran SE, et al.: Lancet. 393(10184): 1948-1957, 2019 [PubMed]
  • 2) Kang YK, et al.: J Clin Oncol. 39(26): 2903-2913, 2021 [PubMed]
  • 3) Zhang X, et al.: Lancet Oncol. 22(8): 1081-1092, 2021 [PubMed]
  • 4) Ychou M, et al.: J Clin Oncol. 29(13): 1715-1721, 2011 [PubMed]
  • 5) Schuhmacher C, et al.: J Clin Oncol. 28(35): 5210-5218, 2010 [PubMed]
  • 6) Al-Batran SE, et al.: J Clin Oncol. 40(16_suppl): Abstr 4003, 2022 [JCO]
  • 7) Janjigian YY, et al.: Ann Oncol. 34(2_Suppl): Abstr LBA73, 2023 [annalsofoncology]
  • 8) Terashima M, et al.: J Clin Oncol. 41(16_suppl): Abstr 4000, 2023 [JCO]

監訳・コメント:国立がん研究センター東病院 消化管内科 中山 厳馬

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