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2月
監修:愛知県がんセンター中央病院 薬物療法部 医長 谷口 浩也

大腸癌

国際共同第III相臨床試験:RAISE試験におけるRamucirumabの効果予測バイオマーカーの検討


Tabernero J, et al.: Ann Oncol. December 7, 2017 [Epub ahead of print]

 Ramucirumabは、癌の増殖および転移に関わる血管新生において重要な働きを示す血管内皮増殖因子受容体2(VEGFR-2)に対する完全ヒト型IgG1モノクローナル抗体で、VEGFリガンド(VEGF-A、VEGF-C、VEGF-D)のVEGFR-2への結合を阻害することでVEGFR-2の活性化を阻害する1)

 RAISE試験は、1次治療としてフッ化ピリミジン系薬剤、Oxaliplatin、Bevacizumabによる治療が行われた後に増悪した切除不能進行・再発大腸癌患者を対象とし、FOLFIRIとの併用におけるRamucirumabの有効性と安全性を検討した無作為化・二重盲検化・プラセボ対照の国際共同第III相試験である2)。RAISE試験において、Ramucirumab+FOLFIRI(Ramucirumab群)はプラセボ+FOLFIRI(プラセボ群)と比較し有意な全生存期間(OS)の延長を示した(OS中央値:13.3ヵ月 vs. 11.7ヵ月、ハザード比[HR]0.84、p=0.0219)。

 本研究の目的は大腸癌の2次治療におけるRamucirumabの効果予測バイオマーカーを同定することであり、血管新生に関わるVEGFファミリーとその受容体について検討を行った。

 RAISE試験では血漿と腫瘍組織の提出が必須となっていた。本研究では、治療開始前のバイオマーカーの値と治療効果との関連について検討した。治療開始前の血漿ではVEGF-C、VEGF-D、可溶性VEGFR-1(sVEGFR-1)、sVEGFR-2、sVEGFR-3が解析され、アーカイブの腫瘍組織では免疫組織化学染色(IHC)にてVEGFR-2が解析された。なお、ヘパリン管採血であったことが解析法の妨げとなり、VEGF-Aは解析されていない。

 本研究はadaptive analysis design3)を用いて検討された。対象症例は探索セットと検証セットに1:2で割り付けられ、治療レジメン、地域、KRAS exon 2 status、1次治療における増悪までの期間(time to disease progression: TTP)を層別化因子としてCOX回帰解析が行われた。また、subpopulation treatment effect pattern plot(STEPP)法を用いた解析も行われ、バイオマーカー値が同程度の患者サブセットに分けて治療効果が検討された(sliding window approach)。

 バイオマーカー結果は80%を超える患者で利用可能であった(n=894)。

 探索セットにおける検討では、Ramucirumab群においてVEGF-D高値は良好なOS延長効果や無増悪生存期間(PFS)の延長効果と強く関連しており、115 pg/mLが高値と低値をわけるカットオフ値と決定された。検証セットにおける検討でも、探索セットで決定されたカットオフ値の確からしさが示された(OSにおけるinteraction p=0.0107、PFSにおけるinteraction p=0.0013)。

 本研究の全対象症例(探索セット+検証セット)における解析も行われた。全対象症例の患者背景はRAISE試験のITT解析集団と同様で、VEGF-D高値群(≧115 pg/mL)とVEGF-D低値群(<115 pg/mL)の間の患者背景に偏りはみられなかった。

 VEGF-D高値群(n=536)において、OS中央値はRamucirumab群13.9ヵ月 vs. プラセボ群11.5ヵ月(HR 0.73、p=0.0022)、PFS中央値はRamucirumab群6.0ヵ月 vs. プラセボ群4.2ヵ月(HR 0.62、p<0.0001)であった。

 VEGF-D低値群(n=348)において、OS中央値はRamucirumab群12.6ヵ月 vs. プラセボ群13.1ヵ月(HR 1.32、p=0.0344)、PFS中央値はRamucirumab群5.4ヵ月 vs. プラセボ群5.6ヵ月(HR 1.16、p=0.1930)であった。

 奏効割合はそれぞれRAISE試験のITT解析集団と同程度であった。

 本研究では、プラセボ群においてVEGF-D高値例がVEGF-D低値例と比較し予後不良であったことから(OS中央値:11.5ヵ月 vs. 13.1ヵ月、HR 1.42、p=0.0025)、VEGF-Dは大腸癌の2次治療における予後予測マーカーであることも示唆された。

 STEPP法を用いた解析でも、VEGF-D値とOSやPFSのHRとの関連については一定の傾向がみられ、全対象症例においても115 pg/mLというカットオフ値が妥当であることが示された。なお、VEGF-D値は原発巣の部位(左側・右側)やCEA値とは関連を認めなかった。sVEGFR-1、sVEGFR-2、sVEGFR-3、VEGF-C、腫瘍組織におけるVEGFR-2に関しては、治療効果との明らかな関連は認めなかった。

 治療関連有害事象とVEGF-Dとの関連についても検討された。Grade 3以上の好中球減少はVEGF-D低値群よりもVEGF-D高値群で頻度が高かったが(32% vs. 42%)、発熱性好中球減少症の頻度は同程度であった。

 これまでVEGF-Dと血管新生阻害薬の治療効果の関連については以下の2試験に関する報告がされている。これらの報告からは、BevacizumabはVEGF-D低値の症例でより良好な効果が得られると考えられる。

 MAX試験は切除不能進行・再発大腸癌の初回治療例を対象として、Capecitabine単剤(C群)とCapecitabine+Bevacizumab(CB群)、Capecitabine+Bevacizumab+Mitomycin C(CBM群)の3群を比較した第III相試験である4)。登録患者の57%(n=268)で腫瘍組織が収集され、腫瘍組織のIHCにおけるVEGF-A、VEGF-B、VEGF-C、VEGF-D、VEGFR-1、VEGFR-2の発現と治療効果や予後との関連について検討された。VEGF-Dの低発現例(IHCで0または1+と定義;n=32)において、Bevacizumab併用群(CB群+CBM群)はBevacizumab非併用群(C群)と比較して治療効果が優れており(HR 0.35[OS]、HR 0.21[PFS])、VEGF-D低発現はBevacizumab併用療法による良好なOSとPFSと関連していた。一方、VEGF-Dの高発現例(IHCで2+または3+と定義;n=227)では、Bevacizumabの上乗せ効果は比較的小さかった(IHC 2+におけるHR 0.82[OS]、HR 0.67[PFS];IHC 3+におけるHR 1.28[OS]、HR 0.77[PFS])5)

 CALGB 80405試験はKRAS野生型進行大腸癌の初回治療例を対象として、FOLFOXまたはFOLFIRIの併用療法としてBevacizumabとCetuximabを比較検討した第III相試験である6)。全体の約1/3の症例(2,334例中715例)で治療開始前の血漿が収集され、ELISA法で解析されたバイオマーカーとOSやPFSとの関連について検討された。バイオマーカー解析集団の患者背景は全体集団と同様であった。FOLFOX施行例において、VEGF-D値の下位1/4の症例はCetuximabと比較し良好なBevacizumabの効果がみられたが(HR 0.62[OS]、HR 0.59[PFS])、上位3/4の症例はBevacizumabの効果は乏しかった(HR 1.02〜1.34[OS]、HR 0.92〜1.16[PFS])。一方、FOLFIRI施行例においては同様の傾向はみられなかった7)。なお、CALGB試験で測定されたVEGF-Dの値はRAISE試験よりも10倍高値であった(VEGF-D中央値はCALGB試験で1.1 ng/mL、RAISE試験で0.135 ng/mL)。

 VEGF-D高値の症例においては、主にVEGF-Dによって血管新生pathwayが活性化されている可能性がある。VEGF-D高値は、1次治療においてBevacizumabによる選択的なVEGF-Aの阻害を受けることでVEGF-Aに依存した腫瘍からVEGF-Dに依存した腫瘍へ変化することを表している可能性もある。したがって、Bevacizumabを含む1次治療後に増悪したVEGF-D高値の患者に対しては、RamucirumabによるVEGFR-2阻害による効果が大きいかもしれない。

 VEGF-D高値はRamucirumabの効果予測バイオマーカーとなり得る。VEGF-D値とRAISE試験の治療成績との関連について科学的な裏付けはまだ不十分ではあるが、適切な臨床検査キットや治療選択基準の開発とその検証が現在進行中であり、それにより本研究の結果が検証されることが期待される。


日本語要約原稿作成:石川県立病院 腫瘍内科 木藤 陽介



監訳者コメント:
VEGF-DはRamucirumabの効果予測のためのバイオマーカーとなる可能性が示唆された

 血管新生阻害薬であるBevacizumab、Ramucirumab、Afliberceptの3剤は切除不能進行再発大腸癌の2次治療において、プラセボと比較して優越性が証明されている。そのため、いずれの薬剤も使用が可能である(Ramucirumab、AfliberceptはFOLFIRIとの併用に限定される)。ただし、血管新生阻害薬同士を比較した臨床試験は実施されておらず、1次治療に病勢進行した患者に対して、どの血管新生阻害薬を選択すべきか明確ではない。そのため、血管新生阻害薬における効果予測のためのバイオマーカー開発が期待されてきた。

 本論文では、VEGF-Dが115 pg/mL以上の高値を示した患者でRamucirumab併用レジメンでのPFS、OSの延長効果が示された。STEPP法による解析において、VEGF-D値とPFS、OSのハザード比には一定の傾向を認めた。また、RAISE試験に登録された1,072例の患者のうち、80%以上の患者でバイオマーカーが検討され、信頼性の高いデータであるといえる。Bevacizumabへの治療抵抗性の一つの要因としてVEGF-Dの増加が報告されている8)。このことからも1次治療としてBevacizumabの治療歴を有し、2次治療前の採血でVEGF-D高値であった患者に対し、2次治療としてRamucirumabを使用することは科学的に合理的であると考える。ただし、本論文はretrospectiveな解析であることから確認されていない患者背景のばらつきによるPFS、OSへの影響は否定できない。また、血漿を用いたELISA法のretrospectiveな検討であり、カットオフ値も本論文のみで設定されたものである。

 今後、臨床応用を目指したVEGF-Dのコンパニオン診断薬の開発とprospectiveな臨床試験での有用性の検証が必要である。

  •  1) Spratlin JL, et al.: J Clin Oncol. 28(5): 780-787, 2010 [PubMed]
  •  2) Tabernero J, et al.: Lancet Oncol. 16(5): 499-508, 2015 [PubMed]
  •  3) Freidlin B, et al.: Clin Cancer Res. 11(21): 7872-7878, 2005 [PubMed]
  •  4) Tebbutt NC, et al.: J Clin Oncol. 28(19): 3191-3198, 2010 [PubMed]
  •  5) Weickhardt AJ, et al.: Br J Cancer. 113(1): 37-45, 2015 [PubMed]
  •  6) Venook AP, et al.: JAMA. 317(23): 2392-2401, 2017 [PubMed][論文紹介]
  •  7) Nixon A, et al.: J Clin Oncol. 34(Suppl): Abstr 3597, 2016
  •  8) Lieu CH, et al.: PLoS One. 8(10): e77117, 2013 [PubMed]

監訳・コメント:聖マリアンナ医科大学 臨床腫瘍学講座 伊澤 直樹

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