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2009年1月〜2015年12月の論文紹介
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11月
監修:国立がん研究センター中央病院 消化管内科 医長 加藤 健

胃癌 食道癌

2レジメン以上の化学療法に対して不応・不耐であった進行胃癌・食道胃接合部癌に対するNivolumab療法:無作為化二重盲検Placebo対照第III相試験(ATTRACTION-2試験)


Kang YK, et al.: Lancet. 390(10111): 2461-2471, 2017

 切除不能進行・再発胃癌における1次治療、2次治療は化学療法による生存期間の延長が示されているが、3次治療以降は十分な効果を示す治療がなく、有効な治療が望まれていた。免疫チェックポイント分子PD-1受容体に対するヒトIgG4モノクローナル抗体であるNivolumabは、さまざまな癌種でその有効性と安全性が示されている。Mutation burdenが高く1)、PD-L1の発現が報告されており2)、免疫原性の高い疾患であることが想定される胃癌において、Nivolumabの有効性が示唆されてきた。今までに第I/II相試験において免疫チェックポイント阻害薬の有効性が報告されている3,4)が、第III相試験のなかった胃癌において、多施設共同二重盲検無作為化第III相試験が行われた。

 対象は、2レジメン以上の化学療法に不応・不耐であった組織学的に確認された切除不能進行・再発胃癌および食道胃接合部癌であり、20歳以上、ECOG PS 0-1で3ヵ月以上の生命予後の見込める患者を適格とした。

 国(日本vs. 韓国vs. 台湾)、ECOG PS(0 vs. 1)、転移臓器数(2未満vs. 2以上)を層別化因子として、Nivolumab群とPlacebo群に2:1で割り付けられた。治療は、Nivolumab 3 mg/kgまたはPlaceboを2週間隔で、6週間を1サイクルとして投与され、PDあるいは継続困難な有害事象の発生まで続けられた。また臨床的に有益で状態良好と判断された場合は、初回のPD後も治療は継続された。主要評価項目は全生存期間(OS)、副次評価項目は無増悪生存期間(PFS)、奏効割合、奏効期間、TTR(time to response)などであった。PD-L1発現に基づく有効性、および、Ramucirumab既投与群、胃切除群におけるOSに関してpost-hoc解析が行われた。HR=0.65を期待し、片側α=0.025、検出力90%で261のイベントを保証するための必要症例数は290例と設定され、480例までの登録を許容した。

 2014年11月〜2016年2月の期間に493例が登録され、Nivolumab群330例とPlacebo群163例に無作為に割り付けられ、ITT解析(Nivolumab群330例、Placebo群163例)、安全性解析(Nivolumab群330例、Placebo群161例)、奏効率評価(Nivolumab群268例、Placebo群131例)が行われた。データカットオフは2016年8月で、追跡期間中央値はNivolumab群8.87ヵ月、Placebo群8.59ヵ月であった。

 治療中止はNivolumab群87.9%(PD:65.2%、臨床症状の増悪:16.7%)、Placebo群98.1%(PD:66.5%、臨床症状の増悪:23.0%)であり、PDのうち初回PD後に治療継続した症例は、Nivolumab群37.0%、Placebo群28.0%であった。後治療はNivolumab群47.0%、Placebo群44.2%に継続された。

 主要評価項目であるOSの中央値はNivolumab群5.26ヵ月、Placebo群4.14ヵ月(HR=0.63, 95% CI: 0.51-0.78; p<0.0001)であり、Nivolumab群で有意な生存期間延長を認めた。PFS中央値は、Nivolumab群1.61ヵ月、Placebo群1.45ヵ月(HR=0.60, 95% CI: 0.49-0.75; p<0.0001)、奏効割合はNivolumab群11.2%(95% CI: 7.7-15.6)、Placebo群0%(95% CI: 0-2.8)であった(p<0.0001)。なお、Nivolumab群におけるTTR中央値は1.61ヵ月(95% CI: 1.4-3.0)、奏効期間中央値は9.53ヵ月(95% CI: 6.14-9.82)であった。

 Grade 3/4の有害事象はNivolumab群10%、Placebo群4%であり、そのうち治療関連有害事象による死亡は、Nivolumab群2%(急性肝炎、心停止、肺炎、労作性呼吸困難)、Placebo群1%(消化管穿孔、突然死)であった。治療中止に至る有害事象はNivolumab群3%(間質性肺炎、急性肝炎、心筋梗塞、労作性呼吸困難、筋力低下、肺炎)、Placebo群2%であった。

 PD-L1陽性群(n=26、PD-L1発現≧1%)におけるOS中央値は、Nivolumab群5.22ヵ月、Placebo群3.83ヵ月(HR=0.51, 95% CI: 0.21-1.25)、PD-L1陰性群(n=166、PD-L1発現<1%)では、Nivolumab群6.05ヵ月、Placebo群4.19ヵ月(HR=0.72, 95% CI: 0.49-1.05)であった。

 また、Ramucirumab既投与群(n=57)においてHR=0.58(95% CI: 0.31-1.09)、未投与群(n=436)においてはHR=0.66(95% CI: 0.53-0.82)と、Ramucirumab投与にかかわらずNivolumabは生存期間を延長することが示唆された。

 以上の結果から、2レジメン以上の化学療法を施行された切除不能進行・再発胃癌において、Nivolumab療法はPlaceboと比較して有意に生存期間を延長した。特に80%以上の患者が3レジメン以上の化学療法を受けている本研究のコホートにおいてNivolumabはHR 0.63と十分な治療効果を示し、3次治療以降の有効な治療法であることが示されたと同時に、今後はフロントラインでの検証が望まれる。本研究のサブグループ解析においてPD-L1発現はNivolumab療法の治療効果を予測するものではなかったが、サンプル数などの影響も否定できず結果を慎重に解釈する必要がある。また胃癌の分子サブタイプ分類の中でも特にEBウイルス陽性群、マイクロサテライト不安定性群5)にはNivolumab療法が奏効する可能性があるため、これらのバイオマーカーに基づいたさらなる検討が必要となってくるであろう。


日本語要約原稿作成:九州大学病院 血液・腫瘍・心血管内科 中野 倫孝



監訳者コメント:
日本人を含む胃癌患者の3次治療以降の生存における免疫チェックポイント阻害薬Nivolumabの有効性が初めて示された

 本邦を初めアジアの国々では、切除不能進行・再発胃癌に対して3次治療以降も治療を継続することで生存期間の延長を得ていたが、その生存における優越性を明確に示す国際的な第III相比較試験は実施されていなかった。本研究は、日本人を含む胃癌患者の3次治療以降の生存における免疫チェックポイント阻害薬Nivolumabの有効性を初めて示した。他癌種に対する同剤の使用経験と比較し、新たな重篤な有害事象は認められず、今後の胃癌3次治療以降の標準的な治療法に位置づけられると考えられる。

 本試験には4次治療以降でNivolumabを投与された症例も多く含まれており、またIrinotecan既投与例も多い。どのタイミングで本剤を使用するかはさらに検討が必要であり、実臨床では患者毎の判断が求められる。

 免疫チェックポイント阻害薬による悪性腫瘍の治療では、一部に重篤な免疫関連有害事象が発生することなどから、バイオマーカーによる適切な治療対象の選択が検討されてきた。近年では、腫瘍組織(腫瘍細胞、間質細胞)におけるPD-L1発現、腫瘍組織における免疫細胞浸潤程度、マイクロサテライト不安定性、および腫瘍細胞の体細胞変異数、などが効果予測のためのバイオマーカーとして利用あるいは評価されている。本研究では、これらのバイオマーカーは適格規準に含まれていないが、腫瘍組織におけるPD-L1発現の有無による生存期間の比較が行われた。ただしPD-L1発現群が26例と少数であり、本剤の治療効果との関連については今後さらに検討が必要と考えられる。

  •  1) Alexandrov LB, et al.: Nature. 500(7463): 415-421, 2013 [PubMed]
  •  2) Zhang M, et al.: Sci Rep. 6: 1-9, 2016
  •  3) Janjigian YY, et al.: J Clin Oncol. 34(15)_suppl: 4010-4010, 2016
  •  4) Muro K, et al.: Lancet Oncol. 17(6): 717-726, 2016 [PubMed]
  •  5) Cancer Genome Atlas Research Network: Nature. 513(7517): 202-209, 2014 [PubMed]

監訳・コメント:九州大学大学院医学研究院 九州連携臨床腫瘍学講座 馬場 英司

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