論文紹介 | 毎月、世界的に権威あるジャーナルから、消化器癌のトピックスとなる文献を選択し、その要約とご監訳いただいたドクターのコメントを掲載しています。

監修:名古屋大学大学院 医学研究科 坂本純一(社会生命科学・教授)

初回増悪後の転移性結腸・直腸癌に対するbevacizumab継続投与はOS延長と関連する:大規模観察的コホート研究(BRiTE)の結果

Grothey A, et al., J Clin Oncol. 2008; 26(33): 5326-5334

 米国FDAによりbevacizumabが認可された2004年以降に、治療歴のない転移性結腸・直腸癌患者を対象としてbevacizumabと化学療法の併用の安全性と有効性を評価する大規模な観察的コホート研究であるBevacizumab Regimens:Investigation of Treatment Effects and Safety(BRiTE)が実施された。この試験の初期の成績として、PFS中央値10.0ヵ月、OS中央値25.1ヵ月という報告がなされている。このPFSはbevacizumabの最近の無作為化試験とほぼ同様であるが、OSについては、患者の選択が厳格に行われていないことを考慮すると期待を上回る成績であった。本研究では、BRiTE試験における種々の治療前後の因子と生存との関連を評価した。
 対象は2004年2月から2005年6月にBRiTE試験に登録された1,953例のうち、bevacizumabを含むfirst-line治療開始後に初回PDが認められた1,445例である。対象患者を(1)PD後に治療を行わなかった群(非治療群、253例)、(2)PD後にbevacizumabを使用しない治療を行った群(非BBP群、531例)、(3)PD後にbevacizumabを含む治療を行った群(BBP群、642例)の3群に分類し、初回PD後の生存と独立して関連する因子をCoxモデルで解析した。治療法については無作為化割り付けではなく、主治医の判断に基づいた。主要評価項目は初回PD後の生存期間(SBP)とした。
 追跡期間中央値は19.6ヵ月、全例のOS中央値、PFS中央値は上述のようにそれぞれ25.1ヵ月、10.0ヵ月であった。BBP群のOS中央値は非BBP群と比較して有意に長く(31.8ヵ月 vs 19.9ヵ月)、SBP中央値も同様であった(19.2ヵ月 vs 9.5ヵ月)。また、初回PDから2ヵ月以内にPD後の治療を開始した患者のSBP中央値はBBP群16.8ヵ月、非BBP群9.2ヵ月であった。
 多変量解析では、SBPに関連する有意な独立因子はベースライン時のECOG PS、アルブミン値、アルカリホスファターゼ値、腫瘍原発部位、first-line治療開始後のTTP、first-line治療による最良効果であった。その他の重要な予後因子で補正しても、BBPは非BBPと比較してSBPの延長に有意に強く関連していた(HR 0.49、95%CI 0.41〜0.58、p<0.001)。
 安全性に関しては、BRiTE試験で報告された頻度の高いbevacizumab関連有害事象である動脈血栓塞栓症、グレード3〜4の出血、および消化管穿孔の発現は、3群間で差はみられなかった。しかし、bevacizumab長期曝露により生じると考えられる、投薬を要する高血圧の発症または悪化が、非BBP群または全例と比較してBBP群で多く認められた(非BBP群19.2%、全例19.4%、BBP群24.6%)。
 今回のデータは、bevacizumabを含むfirst-line治療を受けた転移性結腸・直腸癌患者に対して、PD後にもbevacizumabを継続することにより生存期間延長が得られることを初めて示したものである。BRiTE試験のOS中央値が予測以上に延長した理由の1つとして、PD後にbevacizumab投与を受けた患者が44%に上ったことが挙げられると思われる。本解析の結果は、転移性結腸・直腸癌に対するbevacizumabの臨床的有効性の最大化を図るためには、VEGF経路を継続的に遮断することが重要であるという仮説を支持するものである。今後は、現在進行中のSWOG S0600などの第III相試験により、bevacizumabの至適投与期間が明らかになると思われる。

監訳者コメント

初回増悪後のbevacizumab継続投与は標準治療となり得るか

 米国における大規模な観察的コホート研究であるBRiTE試験の追加解析の報告である。BRiTE試験のOSが予想以上に良好であった要因として、本試験においては初回PD後の患者のうち44%にbevacizumab継続を含む二次以降の治療が行われたことが考えられる。BBP群の初回PD後生存期間は非BBP群に比較して有意に良好であり、また多変量解析においてもBBPは独立した予後因子であった。同時にbevacizumab長期投与の安全性も示されており、PD後のbevacizumab継続の有用性を示唆した最初の報告である。
 しかしながら、各患者群の振り分けはrandomizeされていないこと、実際の薬剤投与期間が正確に把握できておらずmisclassificationの可能性があること、BBP群にはbevacizumabの長期投与が可能である全身状態の良い症例が多かった可能性があること、等の問題点も指摘されている。初回PD後のbevacizumab継続投与の妥当性については、現在進行中のSWOG S0600等の第III相試験の結果が待たれるところである。

監訳・コメント:熊本大学医学部 渡邊 雅之(消化器外科学・講師)

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