演題速報レポート

背景/目的

 フッ化ピリミジンとプラチナ系薬剤を用いた併用療法は、進行胃癌に対する標準的な一次化学療法である。2つの無作為化比較第III相試験1, 2)において、二次化学療法 (Docetaxel or CPT-11) はbest supportive careに対して有意にOS (overall survival) を延長したが、標準的なレジメンは定まっていない。
 一方、本邦では毒性の観点から、二次化学療法としてDocetaxelやCPT-11よりweekly Paclitaxel療法 (wPTX) が頻繁に実臨床で選択されている。

対象と方法

 対象はFP療法に不応となった20-75歳、PS 0-2、タキサン系薬剤およびCPT-11の既往のない切除不能進行胃癌患者とし、wPTX群 (80mg/m2, d1, 8, 15, q4w) とCPT-11群 (150mg/m2, d1, 15, q4w) に無作為に割り付けた (割付け調整因子:施設、PS 0-1/2、標的病変の有無)。
 主要評価項目はOS、副次評価項目はRR (response rate)、PFS (progression-free survival)、有害事象、三次治療の施行割合とした。wPTX群のOSを5ヵ月、CPT-11群のOSを7.5ヵ月と仮定してCPT-11群の優越性を検証した (必要症例数220例、両側α5%、検出力80%)。
 重度の腹膜播種を有する症例を除外した。その他、適格基準、除外基準は進行癌に対する臨床試験として標準的内容である。

結果

 2007年8月-2010年8月までに223例が登録され、111例がwPTX群に、111例がCPT-11群に無作為に割り付けられた。2群間の患者背景はバランスがとれていた。
 OSの中央値はwPTX群で9.5ヵ月、CPT-11群では8.4ヵ月であり、両群間に有意な差は認められなかった (HR=1.13, 95%CI: 0.86-1.49, p=0.38) (図1)。また、PFSについても同様であり、両群間に有意な差は認められなかった (HR=1.14, 95%CI: 0.86-1.49, p=0.33) (図2)

図1 OS
図2 PFS

 奏効率はwPTX群で21%、CPT-11群では14%であり、有意差は認められなかった(p=0.24)。
 Grade 3以上の血液毒性は両群間でほぼ同等であった。非血液毒性では食欲不振 (wPTX群7.4% vs. CPT-11群17.3%, p=0.04)、低ナトリウム血症 (3.7% vs. 15.5%, p=0.005) がCPT-11群で有意に高く、感覚性神経障害 (7.4% vs. 0%, p=0.003) はwPTX群で有意に高かった (表1)

表1

 原病の増悪による治療中止例はwPTX群88%、CPT-11群87%、有害事象による治療中止例はそれぞれ6%、9%であった。
 三次治療の施行率はwPTX群で90%、CPT-11群で72%であり、wPTX群で有意に高かった (p=0.001)。wPTX群ではCPT-11を含む治療が75%の患者で行われていたのに対し、CPT-11群ではタキサン系薬剤を含む治療が60%で行われていた。

結論

 WJOG4007試験は、進行胃癌に対するwPTX療法に対するCPT-11の優越性を証明することはできなかった。wPTX療法は、今後の進行胃癌二次治療の第III相試験におけるコントロールアームになりうる。

コメント

 進行胃癌の二次治療に関しては、JCOG9912試験3)およびSPIRITS試験4)により、日本での一次化学療法の標準治療がS-1 + CDDP療法と認識された後ずっと燻っていた。新規薬剤の開発状況に合わせて、胃癌化学療法の生存期間は延長してきており、二次化学療法の有用性は証明がなされないままにコンセンサスのみが得られてきた。また、これまでに報告された2つのBSCとの比較試験1, 2)では少数例ながらも二次化学療法の有用性を期待させるものであった。
 今回、本試験結果がもたらしたものは、二次化学療法が有用であることの決着と、二次化学療法に選択されるレジメンについての情報の2つである。切除不能進行・再発胃癌一次化学療法の有用性を証明した臨床比較試験におけるBSCでの生存期間は3-4ヵ月である。Qualityが高い本試験において、みなしコントロールアームとなったwPTXによる二次化学療法の生存期間が9.5ヵ月であったことから、二次化学療法の有用性を証明するためにBSCと比較することはすでに倫理的に問題となった。そして、有害事象発生率が高く、三次治療施行率の低いCPT-11の優越性が証明されなかったことから、臨床的にも二次化学療法としてはwPTX療法が推奨される。しかし、CPT-11、wPTX両群ともに生存期間に差がなく、後治療におけるクロスオーバー率が高いことからも、胃癌化学療法におけるCPT-11療法を否定するものではなく、大腸癌における治療戦略と同様にkey drugを使い切るというコンセンサスが引き継がれるであろう。
 サブグループ解析の情報が望まれるところであるが、本年度のESMOにおいて、より詳細な解析が報告される予定とのことである。また現在、本邦では進行胃癌二次化学療法の第III相試験として、ほかに3試験が解析中である。あわせて結果を待ちたい。

(レポート:中島 貴子 監修・コメント:佐藤 温)

Reference
  1. 1) Thuss-Patience PC, et al.: Eur J Cancer. 2011 [PubMed
  2. 2) Kang JH, et al.: J Clin Oncol. 30(13): 1513-1518, 2012 [PubMed
  3. 3) Boku N, et al.: Lancet Oncol. 10(11): 1063-1069, 2009 [PubMed
  4. 4) Koizumi W, et al., Lancet Oncol. 9(3): 215-221, 2008 [PubMed][論文紹介

関連リンク
  1. 2011年 米国臨床腫瘍学会年次集会 abst #4004「進行胃癌に対する二次治療 vs. BSCの多施設無作為化比較第III相試験」
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