論文紹介 | 監修:名古屋大学大学院 医学研究科 坂本純一(社会生命科学・教授)

5月

進行胃癌に対するfirst-line治療としてのTS-1+CDDP療法とTS-1単独療法の第III相試験(SPIRITS試験)

Koizumi W, et al., Lancet Oncol. 2008; 9(3): 215-221

 日本では進行胃癌のfirst-line治療としてTS-1が主に用いられている。進行胃癌に対するTS-1単独療法を検討した第II相試験の奏効率は、44〜54%であった。また、進行胃癌に対してTS-1とCDDPを併用する第I/II相試験からは、奏効率76%、OS中央値383日という好成績が得られ、毒性は忍容可能であった。今回のSPIRITS試験は、進行胃癌に対するTS-1+CDDPの有効性をTS-1単独と比較した多施設第III相試験である。
 2002年3月から2004年11月に日本の38施設から、切除不能または再発胃癌患者305例を登録し、TS-1+CDDP群(153例)またはTS-1単独群(152例)に無作為に割り付けた。TS-1+CDDP群に対しては、TS-1は体表面積に応じた用量(<1.25m2は40mg、1.25〜1.5m2は50mg、<1.5m2は60mg)を1日2回3週間経口投与、CDDPは60mg/m2をday 8に静注し、これを5週ごとに繰り返した。TS-1単独群は同様に決定した用量を、6週間を1コースとして1日2回4週間投与した。
 主要評価項目はOS、副次評価項目はPFS、奏効率、および安全性とした。  評価可能症例はTS-1+CDDP群148例、TS-1単独群150例であり、追跡期間中央値34.7ヵ月での死亡はそれぞれ129例(87%)、139例(93%)であった。OS中央値はTS-1+CDDP群のほうが有意に長かった(13.0ヵ月 vs 11.0ヵ月、p=0.04、死亡のHR 0.77)。1年生存率はTS-1+CDDP群54.1%、TS-1単独群46.7%、2年生存率はそれぞれ23.6%、15.3%であった。PFS中央値もTS-1+CDDP群のほうが有意に長かった(6.0ヵ月 vs 4.0ヵ月、p<0.0001、増悪のHR 0.57)。
 奏効については、TS-1+CDDP群では標的腫瘍を有する87例中、CR 1例、PR 46例で奏効率は54%、TS-1単独群では106例中、CR 1例、PR 32例で奏効率は31%であり、併用群が有意に優れていた(p=0.002)。
 グレード3または4の有害事象のうち、TS-1+CDDP群で高頻度に認められたものは白血球減少、好中球減少、貧血、悪心、および食欲不振であった。TS-1のdose intensityは併用群93.3%、単独群98.0%と高く、両群とも安全に治療を継続することができた。治療関連死は両群ともみられなかった。
 現時点では、進行胃癌に対する化学療法レジメンとして、12ヵ月以上のOS中央値を示し、かつ忍容性に優れたものの報告はない。TS-1+CDDPによりこれを達成し、PFSも6ヵ月に及んだのは、両剤の相乗効果によるものと考えられた。さらに本試験は、進行胃癌に対する併用化学療法が単独療法よりも良好であることを示した初の第III相試験であると思われる。
 結論として、今回の成績から、TS-1+CDDPは日本における胃癌の標準治療に位置づけられるものであることが示唆された。海外の知見が待たれるところである。

考察

TS-1+CDDP療法は進行胃癌に対するfirst-lineにおける標準治療の一つ

日本で実施された切除不能・再発胃癌を対象としたTS-1+CDDP併用療法とTS-1単独療法の第III相試験(SPIRITS試験)の結果である。日本において現在進行胃癌のコミュニティースタンダードとされているTS-1単独療法に対するCDDPの上乗せ効果をみたものであるが、その上乗せ効果は明らかなものであった。TS-1+CDDP併用療法の成績は、MSTが13ヵ月、PFSも6.0ヵ月、奏効率は54%と非常に良好な成績であり、少なくとも現時点での日本における標準治療と言える成績が示されたと考える。今後はTS-1+docetaxel併用療法(JACCRO GC-03試験)や分子標的薬などの試験結果との比較も必要となってくると思われる。また、現在多くの国で標準と考えられている5-FU+CDDPをreference armに選択し、TS-1+CDDPと比較する国際共同第III相試験(FLAGS)が行われている。本邦から発信されたTS-1+CDDP療法が標準的治療として世界に認められるためには、その結果を待つ必要がある。

監訳・コメント:大阪府立急性期・総合医療センター 西川 和宏(外科・医長)

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