久保田 それでは、大腸癌の分子標的治療薬についてディスカッションを行っていきたいと思います。本邦では、2007年6月にベバシズマブ(アバスチン
®)が発売され、市販後の全例調査方式の特定使用成績調査も終了しました。また、近くに上皮細胞増殖因子受容体(EGFR)抗体のセツキシマブ(アービタックス
®)の承認が控えており、今後はpanitumumab(Vectibix
®)が承認されると聞いています。こうした分子標的治療薬は高価であることに加え、既存の抗癌剤では経験したことのない副作用が加わるため、対象症例の選択が重要になってきます。先生方は現在、どのような症例にベバシズマブを処方されていますか。
※セツキシマブ(アービタックス
®)は2008年7月に承認、9月19日に発売されました。
吉野 1st-lineで使用可能と考えられる症例は、ほぼ全例にベバシズマブをお勧めしています。他院から紹介された1st-lineの不応症例には2nd-lineで使う場合がありますが、FOLFOX、FOLFIRIともに不応だった3rd-line には使わないようにしています。
ただし、ベバシズマブにはさまざまなリスクがあるので、背景因子や合併症によっては使えません。例えば、心筋梗塞を起こして間もない患者さんには使いませんし、血圧をコントロールできていても使わない場合があります。
室 当院も吉野先生のところと同様です。また、FOLFOX+ベバシズマブ施行中にオキサリプラチン(L-OHP)の副作用でL-OHPを中止するときは、sLV5FU2+ベバシズマブで続けていきます。BRiTE試験
1) の結果を踏まえ、ベバシズマブは効果が続いている限り続ける方針です。ただ、高血圧や蛋白尿などの副作用が多くは軽微でありますが、比較的高頻度に起こるので、それらのマネジメントが必要です。出血症状の有無や血栓塞栓症を来していないかなども外来で定期的にチェックしています。
斎藤 当院も原則として1st-lineでベバシズマブを併用する方針ですが、内科ですので高齢の患者さんが多く、75歳以上でもベバシズマブを使うべきか悩んでいます。副作用の問題もありますし、治癒が望めない高齢患者さんにリスクを冒してそこまでしてよいものか。医療費に関しても、無理をしたくない人が多い年代なので、なかなか難しいですね。
佐藤 高齢になると、実際に患者さんが支払う医療費は通常とそれほど変わらないのではないですか。
斎藤 支払う金額は変わらなくても、その金額をどう受け取るかは人それぞれです。「そんなに高い薬を」と思う方もいらっしゃいます。
久保田 外科の西村先生、加藤先生は、ベバシズマブをどのような症例に処方されていますか。
西村 私は、手術の可能性が少しでもある症例には、1st-lineにベバシズマブを併用せず、FOLFOX単独で治療します。その結果、手術ができなければFOLFIRI+ベバシズマブを2nd-lineで使う場合もあります。ですから、ベバシズマブの使用は1st-lineと2nd-lineとで半々ですね。
加藤 臨床試験に参加されない患者さんにはできる限りベバシズマブを1st-line から使用し、2nd-lineまで継続させることを考えます。変則的な使い方としては、1st-lineのFOLFOXからL-OHPを抜いた後に、その代わりとしてベバシズマブを併用することもあります。