消化器癌治療の広場

2014年消化器癌シンポジウム 特別座談会「切除不能進行・再発大腸癌 バイオマーカーの最前線―より高いOS延長効果を目指して―」

Short Lecture
日本におけるRAS 検査の現状
吉野 孝之 先生
Luminex法を用いた既存の研究用RAS 検査キット

 日本におけるRAS 検査としては、研究用のRAS 検査キット、Mu-PACKが発売されています。Mu-PACKはmultiplexキットで、日本の技術であるLuminex (xMAP) 法を用いて、KRAS codon 61, 146、BRAF codon 600、NRAS codon 12, 13, 61、PIK3CA exon 9, 20における36の遺伝子変異を1回の反応で検出できます。特徴的なのは、ホルマリン固定パラフィン包埋 (FFPE) 組織由来の50ngのDNAで解析できる点で、サンガー法によるRAS 解析で使用するDNAの僅か1/10です。また、1回の検査コストは約1万円と安価で、測定時間も4.5時間と短いのが魅力的です。
 Luminex法では、PCR反応によりDNA断片を増幅させて、蛍光ビーズでハイブリダイズします (図9)。判定は専用ソフトウェアにより自動で行われるため、主観的に判定する必要はありません。プラットフォームはサンプルサイズに合わせて50、100、500の3種類があり、最大500サンプルの解析を並行して行えます。Luminex法はHLA抗体、HLA DNAタイピング、感染症、CYP遺伝子多型、自己抗体スクリーニングなど幅広く応用されており、プラットフォームは、既に米国や欧州でも流通しています。
 Luminex法を用いたIVD (in vitro diagnostic) として、日本では既にKRAS exon 2検査を行うMEBGEN KRAS 遺伝子変異検出キットが承認されています。我々は以前、この2つの検査キットを用いて、Luminex法によるRAS 解析を評価する臨床試験を実施しました8)。CPT-11、L-OHP、5-FUによる治療後にCetuximabを含む治療を受けた82例を対象に解析したところ、Luminex法 (Mu-PACK) とダイレクトシークエンス法の遺伝子変異一致率は100%でした。また、患者全体における奏効率は24.4%でしたが、Luminex法による遺伝子変異検出により全遺伝子 (KRAS codon 12, 13, 61, 146、BRAF NRAS PIK3CA) が野生型の症例では38.8%に上昇しました。PFS中央値は、KRAS codon 61, 146、BRAF NRAS PIK3CA のいずれかに変異を有する症例が1.6ヵ月、KRAS codon 12, 13変異型が2.7ヵ月であるのに対し、全遺伝子野生型は6.1ヵ月であり、OS中央値はそれぞれ6.3ヵ月、8.2ヵ月、13.8ヵ月でした (図10)。
 ただ、この検査キットには課題もあります。まず、感度が5〜10%と低く、マクロダイセクションが必要になります。また、このキットを開発した当時はRAS 解析のデータが報告されていなかったため、測定可能な遺伝子はPRIME試験PEAK試験とは一致していません。

最新のRAS 解析キット「RASKET」

 これらの課題を克服すべく、我々は同様の技術を用いた新たなmultiplexキット、RASKETを開発し、RAS のIVDとしての承認取得のため、準備を進めています。
 RASKETは、KRAS /NRAS exon 2 (codon 12, 13)、3 (codon 59, 61)、4 (codon 117, 146) の48遺伝子変異を測定できるため、PRIME試験PEAK試験と同じ遺伝子変異が測定可能となります。また、検出感度は1%になったため、マクロダイセクションは不要です。
 我々は、このRASKETとサンガー法によるダイレクトシークエンスとの一致率を検討する臨床試験 (RASKET試験) を実施しました9)。なお、KRAS exon 2に関してはScorpion-ARMS法との一致率を検討しています。試験は2013年9月に開始し、良好な結果が得られたので、承認申請を行いました。また、結果に関しては今年の国際学会で報告する予定です。

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