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GI cancer-net 海外学会速報レポート 2014年6月 シカゴ

背景と目的

 1st-line治療のFOLFIRI + Cetuximab療法とFOLFIRI + Bevacizumab療法を比較したFIRE-3試験において、主要評価項目である奏効率では有意差を認めなかったものの、OSの比較では有意にCetuximab群が良い結果であった (28.7ヵ月 vs. 25.0ヵ月, p=0.017) 1)。また、その後の拡大RAS解析においてOSの有意差はさらに強くなることも示された (33.1ヵ月 vs. 25.6ヵ月, p=0.011) 2)
 性別と原発巣部位は大腸癌に対する治療効果と予後に相関することから 3,4)、FIRE-3試験におけるRAS 野生型の342例において、性別と原発巣部位が治療結果に与える影響について解析した。

対象と方法

 性別、原発巣部位別にそれぞれ奏効率、PFS、OSとの相関を両群で解析した。単変量解析に加え、BRAF 変異と患者背景を因子とした多変量解析を行った。

結果

 全解析症例の原発巣の存在部位は、79.3%が左側結腸、20.7%が右側結腸であった (表1)

表1

原発部位解析

 奏効率は、Cetuximab群において左側70.1%、右側46.7%と有意差が認められたが(p=0.019)、Bevacizumab群では有意な左右差はなかった (62.2% vs. 48.7%, p=0.14)。
 PFS中央値は、Cetuximab群において左側10.8ヵ月、右側6.9ヵ月と有意差が認められたが(p<0.0001)、Bevacizumab群では有意な左右差はなかった(10.5ヵ月 vs. 8.8ヵ月, p=0.065)。

性別解析

 奏効率は、Cetuximab群において男性69.9%、女性54.5% (p=0.095)、Bevacizumab群において男性60.7%、女性55.6% (p=0.61)であり、両群ともに有意差は認められなかった。
 PFS中央値は、Cetuximab群において男性10.6ヵ月、女性9.2ヵ月と有意差が認められたが (p=0.005)、Bevacizumab群では有意な性差はなかった(10.3 ヵ月 vs. 9.1ヵ月, p=0.051)。

 なお、OSの原発部位解析および性別解析をに、PFSおよびOSの多変量COX回帰分析を表2に示す。


表2

 本研究は、EGFR pathwayの原発巣部位別の変異出現率を明らかにするために計画された。
 大腸癌患者1,001例を対象に、KRAS (codon 61, 146を含む)、BRAFNRASPIK3CA に対してLuminex Assay (MEBGEN, GENOSEARCH Mu-PACK) を用いた Multiplex Genotypingを行い、原発巣部位別にEGFR pathwayの遺伝子変異を検討した。

 KRAS exon2 (codon 12, 13)、minor KRAS (codon 61, 146)、BRAFNRASPIK3CAの変異率はそれぞれ38%、4.6%、5.1%、3.5%、9.1%であり、いずれかの遺伝子変異を認める症例は全体の47%であった。
 原発巣部位別にEGFR pathwayの遺伝子解析を表3に示す。

表3


結論

 切除不能進行・再発大腸癌に対する治療効果において、性別と原発部位情報は重要な因子となるかもしれない。FIRE-3試験のサブ解析では、原発巣部位が左側か右側かにより予後が異なることが示され、Cetuximab群においてより強い影響を認めた。また、日本人患者についてのEGFR pathwayの変異解析では、右側で遺伝子変異率が高いことが示された。

コメント

 昨年の本学会での発表1)以来、何かとお騒がせであり、今学会でも期待のDoRが報告されず、残念なFIRE-3試験であるが、興味あるサブ解析の結果が報告された。上述の如く、大腸癌の存在部位により治療効果が異なり(左側結腸癌では、右側結腸癌に比して有効性が高い可能性)、これがCetuximab治療にのみ関わる可能性が示唆された。
 また最近、大腸癌の部位別の研究報告が散見されるが、今回abstract #3597では、単施設において1,001例という多数の検体により、日本人の大腸癌の遺伝子変異解析がなされ、右側結腸の癌に遺伝子変異が多いことが示された。このことは、FIRE-3試験の上記報告にも関連する可能性もあり、興味深い結果となった。
 なお、本研究とは直接の関係はないが、FIRE-3試験の上記報告により症例の約8割が左側結腸癌であると示されていることから、FIRE-3試験のCetuximab群におけるOS延長という結果にも関わる可能性があり、示唆に富む報告であるといえる。男性で左側結腸癌であればCetuximabの効果について予測もつきそうではあるが、上記の結果はすべて後ろ向きなサブ解析の結果であることから、これらのことを割付けに含めた第III相試験での検証が必要である。

( レポート:砂川 優 監修・コメント:小松 嘉人 )

Reference
  1. 1)Heinemann V, et al.: 2013 Annual Meeting of the American Society of Clinical Oncology® : abst #LBA3506[学会レポート
  2. 2)Heinemann V, et al.: 2013 ESMO: abst #LBA17[学会レポート
  3. 3)Hendifar A, et al.: Clin Cancer Res. 15(20): 6391-6397, 2009[PubMed
  4. 4)Modest DP, et al.: Anticancer Drugs. 25(2): 212-218, 2014[PubMed

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