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瀧内 次に胃癌の話題に移ります。ToGA試験(#LBA4509/4556)は、今回の米国臨床腫瘍学会年次集会で最も注目を集めた演題の1つです。では、ご自身もToGA試験に尽力された大津先生からご紹介いただきたいと思います。
大津 HER2陽性の進行胃癌症例に対する1st-line治療にtrastuzumabを追加することのベネフィットを検討した国際共同試験で、日本からも参加しています。
ToGA試験では、3,807例がスクリーニングされました。HER2陽性810例のうち、584例が5-FUまたはcapecitabine+CDDP(FC群)、5-FUまたはcapecitabine+CDDP+trastuzumab(FC+T群)に無作為割付されました。スクリーニングでのHER2陽性率は全体で22.1%でした。
結果としては、OS中央値はFC群(11.1ヵ月)に比べ、FC+T群(13.8ヵ月)で有意に長く(p=0.0046)、PFS中央値もそれぞれ5.5ヵ月、6.7ヵ月(p=0.0002)と、明らかにtrastuzumabの上乗せ効果が認められました。
OSのサブグループ解析では、アジア地域でハザード比が高くなっていますが(アジア: 0.82、中南米: 0.44、欧州: 0.63)、これは2nd-line以降の後治療が入っている割合が日本や韓国で高いことが影響していると考えられます。また、IHC2+/FISH+あるいはIHC3+群では、OS中央値はFC+T群が16.0ヵ月、FC群が11.8ヵ月と、さらにOSの延長が認められました。
懸念された副作用に関しても、心毒性は無症候性のLVEF(左室駆出率)低下がtrastuzumab群で5%程度発現しましたが、臨床上問題となるようなイベントにはつながっておらず、安全性に大きな問題はありませんでした。
以上のことから、trastuzumabが胃癌において生存期間の延長を示した初めての分子標的治療薬であり、抗癌剤とtrastuzumabの併用がHER2陽性例での治療選択肢の1つになるだろうと結論づけられます。
瀧内 本試験では、韓国、日本をはじめとするアジアの患者さんが半数以上を占めており、大きな貢献を果たしました。Positiveな結果が得られて非常によかったと思います。今後はさまざまな胃癌治療の展開が考えられるわけですが、寺島先生は今回の結果についてどのようにお考えですか。
寺島 私は外科医ですので、この結果を補助療法にどう導入するかを考えます。術後補助化学療法という点で考えると、手術で組織を採取するのでHER2のスクリーニングが容易です。おそらく15%ほどのpopulationにメリットがあると考えられますので、日本人で大規模臨床試験を行う必要があると思います。また、術前化学療法にも使えると思いますので、外科でも議論を重ねていきたいと思います。
大津 術後補助化学療法における優越性を証明するには、5,000例程度のスクリーニングが必要になります。しかし、韓国とは標準的治療も手術手技も異なるため、わが国独自で臨床試験を実施する必要があります。
瀧内 今後、切除不能の胃癌に関しては、各臨床試験グループからいろいろなエビデンスが出てくると思います。そして、寺島先生のおっしゃるように治癒できる患者を増やすという意味では、補助化学療法に対する期待は大きなものがあります。これは大津先生も言われたように、わが国で実施せざるを得ないということですから、ぜひ外科の先生方と一緒に、all Japanで団結して試験を進めていきたいと思います。