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座談会

大腸癌に関する注目演題

がん治療の個別化〜予後予測因子関連

瀧内 続いて、2009年 米国臨床腫瘍学会年次集会のメインテーマであった"Personalized Therapy"に関連した3演題を寺島先生にご紹介いただきます。

寺島 #4000#4001#4002は、主にstage IIにおけるバイオマーカーの研究です。
QUASAR validation study(#4000)では、stage II大腸癌のどの患者で再発リスクがあり、また、どの患者で術後補助化学療法の使用を考慮すべきかを決定することを目的として解析しました。4つの大規模臨床試験(NSABP C-01/C-02、Cleveland Clinic、NSABP C-04、NSABP C-06)の外科的治療を受けた患者と、術後補助化学療法として5-FUを含む化学療法を受けた患者より、RT-PCR法で114の遺伝子の多重遺伝子解析を行っています。多変量解析の結果、再発予測に関する7つの遺伝子、治療効果予測に関する6つの遺伝子が抽出されました。この解析の臨床的有用性を検証するため、QUASAR試験からstage II結腸癌患者1,436例を対象に検討したところ、stage IIにおける予後因子としての再発スコア(RS: recurrence score)は、再発を予測することが可能であることが示されました。また、多変量解析においても、RSは再発リスクを予想可能であることが示され、特にT4症例で顕著であり、T3かつmismatch repair(MMR)Proficientでも同様であることが示されました。一方、今回の解析からは5-FU/LVの効果予測因子は検出されませんでした。
#4001#4002は、PETACC-3に参加したstage II/III大腸癌患者から得た組織標本を用いて、バイオマーカーの治療予測および予後予測における有用性を検討したものです。
#4001はMicrosatellite instability(MSI)の高発生率(MSI-H)とその予後予測および治療予測性に関するもので、stage IIでは予後予測性があるが、stage IIIになるとMSI-Hの予後予測性は失われてしまうという結論でした。この試験では、治療効果予測因子としての有用性は証明されておらず、CPT-11の上乗せ効果を予測することはできませんでした。
#4002は遺伝子発現の検討です。予後予測性をみると、stage IIで有意差が認められたのはT stage、年齢(>60対≤60)、MSI、stage IIIではT stage、N stage、p53、SMAD4において有意差がみられました。

瀧内 Stageによってばらつきがありますが、少なくとも効果予測因子だけでなく、予後因子としても、すぐに実臨床に導入するのは難しそうです。

坂本 Stage IIに絞っていうと、2つの課題があると思います。1つは、どのようなバイオマーカーを臨床応用し、特定の患者さんにintensiveに薬物療法や術後補助療法を行うかということです。例えばobstructionなどの臨床的な因子や、MSI、18qLOHなどがあります。もう1つは、どのような臨床試験を企画し、どのように進めていくべきかということです。現在進行中のECOG試験3) では予後のよいMSIと18qLOH lossを有する症例を無治療群とし、それ以外のstage II症例について無作為割り付けを行うという臨床研究が行われています。

大津 Cytotoxicのバイオマーカーに関しては、長年研究を行っていますが、なかなか難しいというのが実感です。これらの報告の手法に関しても、最初からprospectiveに行ったわけではないので、施設間でばらつきが出てしまい、それが結果に影響しているのではないかと思います。

瀧内 術後補助化学療法でベネフィットが得られる患者はわずかであり、現実には多くの人に行わなくてもよい治療をしている可能性もあります。ですから、将来的にはベネフィットが得られる患者を選択できるようになればよいと思います。
そうしたなかで、治療効果が期待できないpopulationを明らかにしてくれたのが、昨年の米国臨床腫瘍学会年次集会のplenaryで発表されたKRAS でした(2008年 米国臨床腫瘍学会年次集会, #LBA2)。引き続き、寺島先生にcetuximabの予測因子に関する報告をご紹介いただきます。

寺島 KRAS と新バイオマーカーに関する3演題(#4016/4019/4021)に共通するのは、amphiregulin(AREG)とepiregulin(EREG)というEGFRのリガンドで、これらの発現の高いほうがcetuximabの治療効果がよいということでした。また、#4021BRAF の変異も見ており、BRAF 変異型ではcetuximabの効果が減弱するということでした。これら3試験に共通しているのは、リガンドの発現は重要であるが、治療が不必要な群を選別できるほどの有用性はなさそうだということです。また、BRAF は重要なマーカーとして今後検証していくべきだと思いました。

瀧内 BRAF はcetuximabの効果予測因子として注目され始めたのですが、変異型ではL-OHP based、CPT-11 basedあるいはbev併用のレジメンにも効果が期待できないことが、2009年の米国臨床腫瘍学会年次集会-GI cancers symposiumで報告されていました4)

大村 BRAF は抗癌治療に効果が期待できないpopulationを選別して投与しないことで、有害事象などの不利益を抑えたり、薬剤コストを節約するという意義があります。

瀧内 費用対効果を考えると、非常に意味のあることですね。

坂本 EGFRのシグナル伝達経路において、RAF RAS の下流にあるため、RAS が野生型でRAF が変異型の場合は、cetuximabやpanitumumabを使っても効果がないことがはっきりしています。そうした細胞内の伝達系をきちんと理解し、DNA検査結果が本当に正しいかどうかを見極める必要があります。組織の採り方、例えばホルマリン固定が長時間にわたるとDNAがばらばらになってしまう。そういった検査法による誤差を調整するために、今後は各検査機関の測定値を世界で統一できるようなconversion factorを確立していかなければならないと思います。

大津 施設間差が出ないように標準化することが、大きなポイントになるのではないかと思います。

瀧内 近い将来、KRAS 遺伝子検査は実臨床に導入されると思うので、標準化についての議論をするよいチャンスになると思います。佐藤先生は、BRAF に関してはどう思われますか。

佐藤 まず遺伝子検査が臨床現場で承認されることが必要ですが、臨床で最も重要なことは、検査結果がいかに治療方針を導いてくれるかです。BRAF はdecisionの方向性を明確に示してくれるデータを有しているので、もちろん実臨床では有意義なものとなるでしょう。

寺島 「遺伝子発現」を指標にするよりも、「遺伝子変異」の有無による判定のほうが、バイオマーカーとしては使いやすいですね。

大津 願わくば、positiveなマーカーが出てくることを期待します。

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