論文紹介 | 毎月、世界的に権威あるジャーナルから、消化器癌のトピックスとなる文献を選択し、その要約とご監訳いただいたドクターのコメントを掲載しています。

8月
2014年

監修:東海中央病院 坂本純一(病院長)

化学療法不応でKRAS exon2野生型の遠隔転移を有する大腸癌患者におけるPanitumumab vs Cetuximab療法(ASPECCT試験):多施設共同第III相オープンラベル非劣性ランダム化比較試験

Price TJ., et al. Lancet Oncol., 2014 ; 15(6) : 569-579

 遠隔転移を有する大腸癌の治療で化学療法不応となった患者に、Cetuximab単剤療法がbest supportive care(BSC)と比較して有意なOS改善を示したことがNCIC CTG CO.17試験で報告されている。一方、408試験では、Panitumumab+BSCはBSCに比べてPFSと奏効率を改善したもののOSの延長は認められなかった。ただ、408試験では、クロスオーバーが認められていたため、BSC群の119例中90例(76%)がPD後にPanitumumabの投与を受けており、OSの結果に影響を与えた可能性がある。両剤ともその後の解析で、とくにKRAS exon2野生型の患者にベネフィットをもたらすことが知られている。しかし、PanitumumabとCetuximabの有効性・安全性を前向きに直接比較した試験はない。そこで、KRAS exon2野生型で化学療法不応の遠隔転移を有する大腸癌患者について、この問題を検討する非劣性試験を実施した。
 対象はチミジル酸シンターゼ阻害薬治療歴のある18歳以上、ECOG PS 0-2、KRAS exon2野生型の大腸癌患者で、病勢進行またはCPT-11ベースおよびL-OHPベースの治療に不耐性を示している症例である。抗EGFR抗体薬治療歴のある患者は除外した。
 適格症例をPanitumumab療法(P群)またはCetuximab療法(C群)にランダムに割り付け、P群はPanitumumab 6mg/kg静注(day 1)を14日ごとに、C群はCetuximab初回400mg/m2、以降は250mg/m2静注(day 1)を7日ごとに、病勢進行または不耐性が認められるまで繰り返した。C群にはinfusion reaction予防としてH1拮抗薬を投与したが、infusion reactionが認められた場合はgradeにかかわらずCetuximab投与を中止した。試験治療期間中において両群に対するPanitumumabとCetuximabのクロスオーバー投与は認められていない。試験終了後は主治医の判断によりいずれの治療でも受けることを可能とした
 主要評価項目はOS、副次評価項目はPFS、奏効率、治療成功期間、奏効までの期間、奏効期間、安全性とした。OSはPanitumumabのCetuximabに対する非劣性検定とし、Panitumumab vs Cetuximabのハザード比(HR)の非劣性の基準は統合法により検定し、CO.17試験の知見(Cetuximab vs BSCのHR 0.55)を対照として、Z値が−1.96下回る場合とした。また維持率(retention rate)を用い、CO.17試験におけるCetuximabの有効性(vs BSC)の50%以上をPanitumumabが維持していれば非劣性とした。
 2010年2月〜2012年7月に登録された999例をP群499例、C群500例にランダム化した。患者の背景因子に差はなく、年齢中央値は両群とも60歳、男性はP群63%、C群64%、 Bevacizumab投与歴があるのはP群25%、C群26%で、両群とも90%が肝臓以外の部位に転移が認められた。
 解析は2013年2月に行った。この時点でP群493例、C群491例が治療を中止していた。治療期間の中央値はP群14.3週、C群14.1週、追跡期間中央値はP群41.4週、C群40.5週で、解析時P群77%、C群78%が死亡していた。病勢進行後、抗癌療法を受けた患者数は両群同等であった(P群41% vs C群42%)。
 OSの中央値はP群10.4ヵ月、C群10.0ヵ月でPanitumumabのCetuximabに対する非劣性が確認された(HR 0.97、95%CI 0.84-1.11、p<0.0007、Z=−3.19、維持率105.7%)。サブグループ解析でもすべてのサブグループでPanitumumabのCetuximabに対する非劣性が認められた。
 解析時、死亡または病勢進行はP群96%、C群95%、PFSの中央値はP群4.1ヵ月、C群4.4ヵ月で両群に有意差はなかった。
 奏効率はP群22.0%(うちCR<0.5%)vs C群19.8%(CRなし)で有意差なく、奏効までの期間中央値は1.5週 vs 2.6週、奏効期間中央値は3.8ヵ月 vs 5.4ヵ月、治療失敗までの期間は3.4ヵ月 vs 3.3ヵ月であった。
 安全性は治療を1回以上受けたP群496例、C群503例について解析した(手違い等でP群の4例はCetuximab投与を、C群の1例はPanitumumab投与を受けた)。治療関連の副作用の発生頻度はP群とC群で有意差はなく(98% vs 98%)、重篤な副作用(30% vs 34%)にもgrade 3(36% vs 32%)、grade 4(7% vs 5%)の副作用にも有意差はみられなかった。致死的な副作用はP群6%、C群10%で発生した。infusion reactionはP群3%(grade 3-4は<0.5%)、C群13%(2%)と、予防薬投与を行ったにもかかわらずC群で高頻度であったが、grade 3-4の低マグネシウム血症は7% vs 3%とP群で高頻度にみられた。
 両群とも死亡の多くは病勢進行によるものであった(すべての致死的イベント中P群69% vs C群68%死亡)。
 以上のように、多種類の治療歴のある遠隔転移を有する大腸癌においてPanitumumab療法により得られるOSはCetuximab療法に対して非劣性であった。両剤ともOSの期間は同様で、50%以上の患者が10ヵ月以上を維持した。また副作用も予想されたものであった。Grade 3-4のinfusion reaction発生頻度の差は小さいながら無意味ではなく、両剤の有効性と安全性に差がないことを考えると、抗EGFR療法ではinfusion reactionや投与スケジュールが薬剤選択の際の基準となるであろう。

監訳者コメント

 Panitumumabは2010年4月、KRAS 遺伝子野生型の治癒切除不能な進行・再発の大腸癌を適応として、承認された薬剤でPRIME試験、181試験、408試験などの第III相試験においてPFSの改善が報告されている。KRAS野生型進行・再発大腸癌に対する抗EGFR抗体薬の使用は単独投与、他剤との併用を含め現在重要な検討事項であるが、本試験は5-FU治療歴をもつ進行・再発大腸癌に対する2nd-line以降のPanitumumab(P群)とCetuximab(C群) による使用例を直接比較検討した興味深い報告である。両群ではOS、PFSその他の副次評価項目で有意差を認めなかった。実際の使用においては両者とも副作用に対しあらゆる予防策を図ったうえで投与を行なうが、対処に難渋することも多々経験する。今回grade 3以上の副作用には有意差を認めなかったが重要な副作用であるinfusion reaction はP群で低頻度であった。投与方法はP群が隔週、C群が毎週であり使用しやすさはP群である印象はある。今後のさらなる検討が期待される。

監訳・コメント:北九州市立八幡病院 外科 山吉 隆友(医長)

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