論文紹介 | 毎月、世界的に権威あるジャーナルから、消化器癌のトピックスとなる文献を選択し、その要約とご監訳いただいたドクターのコメントを掲載しています。

Cetuximabで治療した化学療法抵抗性の転移を有する大腸癌患者におけるKRAS p.G13D変異と予後との関係

Association of KRAS p.G13D mutation with outcome in patients with chemotherapy-refractory metastatic colorectal cancer treated with cetuximab
De Roock W, Jonker DJ, Di Nicolantonio F, Sartore-Bianchi A, Tu D, Siena S, Lamba S, Arena S, Frattini M, Piessevaux H, Van Cutsem E, O'Callaghan CJ, Khambata-Ford S, Zalcberg JR, Simes J, Karapetis CS, Bardelli A, Tejpar S.
JAMA. 2010; 304(16): 1812-1820

 KRAS遺伝子変異(主にcodon 12/13変異)を認める転移を有する大腸癌患者では、抗EGFR(epidermal growth factor receptor:上皮細胞増殖因子受容体)抗体製剤による治療効果が期待できないことから、cetuximabの適応はKRAS遺伝子野生型患者のみとされている。しかし、大腸癌ではcodon 12および13の変異がそれぞれ79%および17.9%認められる一方で、膵癌や非小細胞肺癌のKRAS遺伝子変異の大部分がcodon 12変異であることが示されている。また、KRAS遺伝子変異型患者であっても抗EGFR抗体製剤が有効である症例が存在すること、さらには、in vitroの検討ではcodon 13変異の癌化能はcodon 12変異よりも低いことなど、KRAS遺伝子変異状態によって本剤の効果に差が生じる可能性が複数の見解から示唆されている。
 そこで今回、大腸癌におけるcodon 13変異のなかで最も高頻度に認められるトランジション変異(p.G13D)を有する患者は、他のKRAS遺伝子変異型患者と比べてcetuximabによる良好な治療効果が得られるとの仮説を立て、化学療法抵抗性の転移を有する大腸癌患者に対する本剤単独または本剤と化学療法併用の有用性を検討した各種臨床試験データ(NCIC CTG CO.17、BOND、MABEL、EMR202600、EVEREST、BABEL、SALVAGEなど)より抽出した579例を解析対象にp.G13D変異とその予後について検証した。
 単変量解析の結果、cetuximabを含む治療を行ったp.G13D変異例(32例)は治療しなかった群と比較し、全生存(OS)期間中央値の有意な延長(7.6ヵ月 vs 3.6ヵ月、補正ハザード比[HR] 0.24、p<0.001)ならびに無増悪生存(PFS)期間中央値の有意な延長が認められた(4.0ヵ月 vs 1.7ヵ月、補正HR 0.39、p=0.006)。しかし、多変量解析の結果では、OSならびにPFS期間中央値の有意な延長を認めなかった。なお、in vitroおよびマウスを用いた検討から、p.G13D変異型細胞はKRAS遺伝子野生型細胞と同様に本剤に感受性を示すことが確認された。
 以上より、化学療法抵抗性の転移を有する大腸癌患者のなかでもKRAS遺伝子codon 13(p.G13D)変異を有する患者は、その他のKRAS遺伝子変異型患者と比較してcetuximabにより有意な予後改善が得られる可能性が示唆された。今後プロスペクティブな検討を実施し、こうした患者での本剤の有効性を証明することが必要である。

監訳者コメント

 セツキシマブがKRAS p.G13D変異を有する切除不能・再発大腸癌において、KRAS野生型同様に、効果が期待できる可能性を示唆した初めての論文である。今まで抗EGFR抗体薬は無効と信じられてきた対象だけに本論文のインパクトは大きいが、実地診療に導入することは時期尚早と考えている。
 第一に、KRAS p.G13D変異症例の無治療群の全生存期間が、他のKRAS変異型やKRAS野生型と比較し、有意に不良である点である。過去に、KRAS p.G13D変異症例は他のKRAS変異症例の予後と同等とする報告や良好とする報告はあるが、KRAS p.G13D変異症例が予後不良とする報告はない。探索的サブセット解析に見られる背景因子の偏りが、予後不良とする結果を導き出したと考えられる。
 第二に、KRAS p.G13D変異症例の無治療群の生存データは、NCIC CTG CO.17試験のデータのみから抽出されたわずか13例である。一方、KRAS p.G13D変異症例の治療群の生存データは、複数の試験から集められた32例である。このような統計学的な解析方法は信頼性が低い。現に、NCIC CTG CO.17試験のみのサブセット解析からでは、KRAS p.G13D変異症例の治療による予後改善効果は示されていない。したがって、患者背景の悪い集団と良い集団を比較し、良い集団はよかったという当たり前の結論を導き出しているにすぎない危険性がある。
 「KRAS p.G13D変異症例に抗EGFR抗体薬を実地診療に導入するか否か」の問いかけに対して、筆者は現時点でNOである。実地診療に導入するためには、その前に無作為化第3相比較試験での検証が必要不可欠であろう。

監訳・コメント:国立がん研究センター東病院 吉野 孝之(消化管内科・医長)

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