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直腸癌への化学放射線療法施行後に病理学的完全奏効が得られた患者の長期予後:個々の患者データのプール解析

Long-term outcome in patients with a pathological complete response after chemoradiation for rectal cancer: a pooled analysis of individual patient data.
Maas M, Nelemans PJ, Valentini V, Das P, Rödel C, Kuo LJ, Calvo FA, García-Aguilar J,
Glynne-Jones R, Haustermans K, Mohiuddin M, Pucciarelli S, Small W Jr, Suárez J, Theodoropoulos G, Biondo S, Beets-Tan RG, Beets GL.
Lancet Oncol. 2010; 11(9): 835-844.

背景局所進行直腸癌に対する化学放射線療法(CRT)とその後の全直腸間膜切除(TME)の施行は標準治療とされ、実際にこうした治療で切除標本における腫瘍細胞の残存が認められない患者は15〜27%に達することが示されている。しかし一方で、このような病理学的完全奏効(pCR)が得られた患者に対する術後補助化学療法が不要かどうか、もしくはpCRが得られなかった患者では術後さらに積極的な治療が必要かどうか、あるいは術前CRTに良好な反応を示した患者ではより低侵襲な部分切除が可能となるか、もしくは切除不要かどうかなど、pCRに焦点を当てた予後を明確にすることが大きな課題となっているものの、いまだ十分な結論は得られていない。
 そこで今回、複数の研究データを合わせたプール解析により、pCRが得られた患者はpCRが得られなかった患者と比較してより良好な長期予後を示すかどうかの立証を試みた。
方法PubMed、MedlineおよびEmbaseデータベースより、1980年〜2009年1月までに公表された直腸癌の治療に関する論文のなかから、pCRが得られた患者(pCR例)およびpCRが得られなかった患者(No pCR例)の長期予後を検討した27試験を同定し、このうち筆頭著者が個々の患者データの提供に同意した14試験をプール解析に用いた。なお、解析対象はCRTとTMEを施行した患者とし、同時性転移や再発例、総照射線量25Gy以下、局所切除施行あるいは放射線療法のみを施行した患者は除外した。
 1次エンドポイントは5年無病生存(DFS)率、2次エンドポイントは5年の局所無再発生存率、無遠隔転移生存(DMFS)率および全生存(OS)率とした。
結果14試験の多くで5-FU(fluorouracil)ベースの化学療法+総照射線量40〜50.4Gy(1回線量1.8Gy)の放射線療法が施行され、TME施行との間隔は6〜8週間であった。解析対象3,105例(平均年齢61歳、男性64%)中pCR例は16%(484例)を占め、観察期間中央値はpCR例で46ヵ月、No pCR例で48ヵ月であった。
 5年DFS率はpCR例で83.3%、No pCR例で65.6%となり、pCR例で有意なリスク低下が認められた(未補正ハザード比[HR]0.44[95%信頼区間(CI) 0.34〜0.57]、p<0.0001)。同様に、5年局所再発率(2.8% vs 9.7%、未補正HR 0.33[95%CI 0.19〜0.60])、5年DFS率(88.8% vs 74.9%、未補正HR 0.40[95%CI 0.29〜0.55])、5年OS率(87.6% vs 76.4%、未補正HR 0.51[95%CI 0.38〜0.67])もpCR例で有意なリスク低下が認められた(いずれもp<0.0001)。
 また、多変量Cox比例ハザードモデルを用いて算出した補正HRは、すべてのエンドポイントに関してpCR例での有意なリスク低下が確認されるとともに、再発や死亡リスクの増大は、臨床T病期3に対し4で、臨床N病期0に対し+で、低位前方切除術(LAR)に対し腹会陰式切除術(APR)またはその他切除術の施行で認められた。さらに、術前CRT施行後の病理学的TおよびN病期がypT0およびypN0ではともにpCR例におけるDFSの有意な改善をもたらすことが示された。
 なお、No pCR例に対するpCR例での5年DFS率の良好な改善はベースラインの患者背景(臨床T病期3 vs 4、臨床N病期0 vs +、肛門縁から≦5cm vs >5cm)、切除方法(LAR vs APR)、術後補助化学療法(施行 vs 未施行)に関係なく同等に得られることが確認された。
結論以上より、CRTおよびTME施行後にpCRが得られた直腸癌患者は、そうでない患者に比べて良好な長期予後を示すことが確認された。したがって、pCR例における腫瘍は、局所再発や遠隔転移の頻度がより少なく、生存率を改善するという点において、良好な生物学的特性を有するものと示唆される。

監訳者コメント

 欧米において、直腸癌(T3-T4症例)に対する術前化学放射線療法(以下術前CRT)は標準治療法である。本研究において術前化学療法は5-FUベースが中心であるが、pCR症例においては局所再発のみならず遠隔転移率も低く、DFS、OSが良好であることが示された。この結果の機序は①pCR症例においては微小な遠隔転移巣も5-FUベースの治療に高感受性であった、②pCR症例において局所の癌遺残が少ない→術後遠隔転移を起こしにくい、と考えられる。藤井らは、胃癌に対して術前UFT療法の病理学的治療効果によって術後補助療法を選択したところ、病理学的治療効果と予後が相関することを示した。直腸癌の術前CRTの治療効果も補助化学療法の選択に寄与する可能性がある。直腸癌に対する手術成績が良好である我が国において術前CRTの意義は明確でないが、今後はより高いpCR率を得られるであろうFOLFOXやFOLFIRIなど多剤併用療法を用いた術前CRTの有効性と安全性を検証する必要があると思われる。

監訳・コメント:東京医科歯科大学大学院 植竹 宏之(応用腫瘍学・准教授)

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