演題速報レポート

背景

 近年、HER2 陽性転移性胃癌に対してはTrastuzumabの有用性が報告されているが1)HER2 遺伝子増幅は乳癌、卵巣癌、子宮癌、唾液腺癌などでは予後不良因子とされている。胃癌におけるHER2 遺伝子増幅もしくは過剰発現は6-35%と報告されており、胃癌におけるHER2 の予後/効果予測としての報告は相反する報告がなされている。

対象と方法

 INT-0116/SWOG9008試験は、深達度T3以上かつ/もしくはリンパ節転移陽性の胃癌でR0切除後の症例を対象に、手術単独と術後化学療法 (5-FU/LV) と化学放射線療法の組合せを比較する無作為化比較第III相試験である2)。本試験に登録された559例に対して、FISH法によるHER2 遺伝子増幅 (n=258)、免疫染色によるHER2 過剰発現 (n=148)、SISH (silver-enhanced in situ hybridization) 法によるHER2 遺伝子増幅 (n=77) を評価した。本試験の目的は手術単独群と比較した術後補助療法群 (術後5-FU/LV + 放射線照射) の有用性を検証するものであった (図1) 。

図1

結果

 FISH法を施行した258例においてHER2 遺伝子増幅を認めたのは28例 (10.9%) であり、SISH法との一致率は92%であった。
 治療内容別での解析では、手術単独群において、FISH法によるHER2 過剰発現とDFS (disease-free survival: p=0.604)、OS (overall survival: p=0.76、図2) とに関連性を認めなかった。

図2

 一方、術後補助療法群では、FISH法によるHER2 遺伝子増幅を認めない症例において、DFS (p=0.026) およびOS (p=0.025、図3) の有意な延長を認めた。

図3

 FISH法によるHER2 遺伝子増幅と治療内容の間には、DFS、OSともに有意な相互作用を認めた (表1) 。

表1

 HER2 遺伝子増幅の状況毎に治療の影響を解析した結果、HER2 遺伝子増幅を認めなかった症例に関しては、術後補助療法によりDFS (p<0.001)、OS (p=0.003、図4上) の有意な延長を認めたが、HER2 遺伝子増幅を認めた症例ではDFS (p=0.87)、OS (p=0.55、図4下) の延長を認めなかった。

図4

 免疫染色での生存解析ではFISH法と同様の結果であり、術後補助療法の有用性はHER2 過剰発現のない症例に限定されていたが、統計学的に有意な相互作用は認めなかった (表2) 。

表2

結論

 今回の解析結果では、HER2 遺伝子増幅/過剰発現は術後補助療法を行わなかった胃癌症例における予後不良因子とはならず、術後補助療法の有用性はHER2 遺伝子増幅の有無により異なっていた。また、HER2 遺伝子増幅は胃癌における5-FUベースの化学療法と放射線照射に対する治療耐性のマーカーとなる可能性が示唆され、HER2 遺伝子増幅のない症例では5-FUと放射線照射による術後補助療法の反応性が有意に良好であった。

コメント

 米国において、胃癌の術後補助化学放射線療法が標準治療とされる根拠となった有名な臨床試験のarchive sampleを用いたHER2 発現に関する研究である。なにぶん20年近く前の症例なので、sampleを集めるのには相当苦労したことと思われる。そのため、FISH法で約半数、IHCでは約1/3の症例でしか測定されていない。FISH法の陽性率がやや低いようにみえるが、この試験ではもともと下部胃癌が多く、EGJ (胃食道接合部癌) はほとんど含まれていないことを考慮すれば妥当な値であろう。手術単独群ではHER2 発現の有無で生存に差を認めず、2011年のACTS-GCの結果3)と同様に、胃癌根治切除例においてHER2 は予後因子とはならないことが確認された。一方、化学放射線療法群では、HER2 陽性例で有意に生存期間が不良であったが、症例数が11例と極めて少数例であり、結論を導くことは不可能と考える。また、現時点でHER2 発現と化学放射線療法の効果との関連を示唆する報告もなく、論理的な説明も困難なことから、今後、術後補助化学放射線療法が含まれる他の臨床試験におけるvalidationが切望される。

(レポート:結城 敏志 監修・コメント:寺島 雅典)

Reference
  1. 1) Bang YJ, et al.: Lancet. 376(9742): 687-697, 2010
  2. 2) Smalley SR, et al.: J Clin Oncol 2012 May 14. [Epub ahead of print]
  3. 3) Terashima M, et al.: 2011 Annual Meeting of the American Society of Clinical Oncology® #abst 4013 [学会レポート]

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