演題速報レポート

背景と目的

 Panitumumab (Pmab)、Cetuximabなどの抗EGFR 抗体はKRAS 野生型の切除不能大腸癌に対して用いられるが、KRAS codon12, 13に変異を有さない症例に対するRR (response rate) は単剤で20%以下1, 2)、Irinotecan (CPT-11) との併用にて60%以下と報告されている3-5)。今回、KRAS 野生型切除不能大腸癌3rd-line患者を対象としたPmab + CPT-11併用療法の第II相試験 (PIMABI試験)6)における付随研究として、様々な遺伝子多型とPmabおよびCPT-11の効果、副作用との関連を検討した。

対象と方法

  1. ・対象
    PIMABI試験6)に登録された65例中、付随研究に登録された45例
  1. ・方法
    KRAS 遺伝子解析: codon 12, 13の再解析、およびKRAS codon 59, 61, 117, 146を新たに解析
    遺伝子多型解析: 血液より抽出したDNAを用いて下記の遺伝子多型を解析
    •  EGFR 遺伝子:イントロン1 CAリピート (rs 11568315)
    •  EGFR 遺伝子:-216 G>T (rs 712829)
    •  EGFR 遺伝子:-191 C>A (rs 712830)
    •  EGF 遺伝子:61 A>G (rs 4444903)
    •  CCND1 遺伝子:870 A>G (rs 9344)
    •  UGT1A1 遺伝子:TAリピート (rs 8175347)

 上記の遺伝子多型と副作用 (grade 0-1 vs. 2-4)、RR (response rate)、PFS (progression- free survival)、OS (overall survival) との関連について検討した。

結果

 登録された45例中、新たにKRAS 変異を9例に認め、内訳はcodon 12/13変異が5例、codon 59/61変異が4例であった。腫瘍縮小割合は36.4%であり (CR 3例、PR 13例、SD 19例、PD 9例、NE 1例)、PFS中央値は6.9ヵ月、OS中央値は14.8ヵ月であった。忍容性は良好であり、重篤な副作用や治療関連死は認めなかった。
 遺伝子多型の解析結果を表1に示す。

表1

 連鎖不均衡をEGFR 遺伝子 -191C>Aと-216G>T (-216G, -191A, p= 0.03) 、EGFR 遺伝子 -191C>Aとイントロン1 CAリピート (リピート数<17, -191C, p<0.001) に認めた。一方、KRAS 変異はEGFR 遺伝子イントロン1 CAリピート数が長い症例で有意に多く (p=0.010、図1) 、他の遺伝子多型とKRAS 変異の頻度に関連は認めなかった。

図1

 Pmab関連の皮膚毒性 (毛嚢炎、爪周囲炎) とEGFREGFCCND1 遺伝子多型との関連は認めなかった。下痢はCCCND1 遺伝子多型と関連し、AG、GGの症例ではgrade2-4の下痢を63%に認めたが、AAの症例では22.2%に認めるのみであった (OR 5.95, p=0.014)。UGT1A1 遺伝子多型について、好中球減少との関連を認めたが (grade2-3の好中球減少:*28症例 33.3%、*1/*1症例 5%、OR 9.5, p=0.027)、下痢との関連は認めなかった。
 KRAS 変異を有する9例に奏効は認めず、RR、PFS、OSとKRAS 変異に有意な関連を認めた。KRAS 野生型36例における解析ではRR、PFS、OSと遺伝子多型との関連は認めなかった。KRAS statusで補正した解析では、唯一UGT1A1 遺伝子*28症例でOSが良好な傾向を認めたのみであった (p=0.091)。

結論

 Pmab + CPT-11併用療法においてCCND1 遺伝子多型GG、AGの症例では下痢の発生頻度が高くなる可能性が示唆された。G870 alleleは細胞周期進行を活性化する可能性のあることが報告されており7)、G870 alleleの症例では細胞周期のS期に作用するCPT-11などの殺細胞性抗癌剤の感受性が高まると考えられる。
 EGFR 遺伝子多型 (イントロン1)とKRAS 変異との相関が認められたが、さらなる検証が必要である。実際、EGFR 遺伝子イントロン1 CAリピート数が長い症例ではEGFR 発現が乏しいことが報告されており、このようなCAリピート数とKRAS 変異との関連はEGFR経路の発癌に相互排他的に密接している。

コメント

 本研究は、昨年米国臨床腫瘍学会年次集会で報告された、PIMABI試験 (切除不能大腸癌に対する3rd-line治療としてのCPT-11とPmab併用療法試験) 6)の付随研究として行われた薬理遺伝学的解析の報告である。最近では治療個別化、テーラーメード医療を目指して、抗癌剤の毒性や感受性の規定因子を求め、治療効果や副作用、予後との関連を調べ、臨床に活かすための研究が活発に行われている。本研究でもEGFREGFCCND1UGT1A1 の遺伝子多型に注目し検討されたが、唯一UGT1A1 遺伝子*28症例でOSが良好な傾向を認めたのみで、実際にはこれらの遺伝子多型と生存期間や効果、Pmabに特徴的な皮膚疾患との関連は認められなかった。しかし、CCND1 遺伝子多型は下痢と、UGT1A1 は好中球減少との関連がみられた。またEGFR 遺伝子イントロン1 CAリピート数が長い症例はKRAS 変異と強く関連する可能性が指摘された。ディスカッサントは過去の学会8)EGFRCCND1の遺伝子多型と生存期間の関連が報告されたことなどを示し、今後のさらなる検討が必要であることをコメントした。実際、今回の研究では症例数も少なく、注目する遺伝子の種類も限られていたため、詳細な関連を導き出すことは困難であり、発表者らの今後のさらなる検討を期待したい。

(レポート:山﨑 健太郎 監修・コメント:小松 嘉人)

Reference
  1. 1) Karapetis CS, et al.: N Engl J Med. 359(17): 1757-1765, 2008
  2. 2) Amado RG, et al.: J Clin Oncol. 26(10): 1626-1634, 2008
  3. 3) Peeters M, et al.: J Clin Oncol. 28(16): 4706-4713, 2010
  4. 4) Moosmann N, et al.: J Clin Oncol. 29(8): 1050-1058, 2011
  5. 5) Van Cutsem E, et al.: J Clin Oncol. 29(15): 2011-2019, 2011
  6. 6) Chibaudel B, et al.: 2011 Annual Meeting of the American Society of Clinical Oncology® abst #3573 [学会レポート]
  7. 7) Borchiellini D, et al.: Cancer Treat Rev, March 2012
  8. 8) Wu Z, et al.: 2004 Gastrointestinal Cancers Symposium: abst #189
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